「難しい言葉をあまり使わない」をモットーに、短編をメインに執筆中。
どこかに置き忘れてきた気持ち。
日常生活で気づかないなにか。
誰にも言えない感情を吐露。
そして読んだ人の心に小さな灯りを灯したい。
そんなことを思いながら、日々言葉を紡いでいます。
●記録
・『月刊monogatary.com 2018年10月号』に「恋心は最高の調味料?」掲載
・「ハッシュタグを信じるかい?」が『モノコン2018』にて優秀賞受賞、映像化
(映像はこちら https://youtu.be/T0d1NLif2t8)
・spotwriteにて特集していただきました(https://monogatary.com/spotwrite/59989)
Twitter:@yachiyo_fmzk
※挿絵はパブリックドメイン素材と自分で撮った写真を使用しています。
――東京って、すごいな ビルの間。いったいどこまで行くのかわからない電車に揺られながら、私は思った。「東京に空がない」と誰かが言ったとおり、空は少ない。けれどかわりにビルの森が辺りを埋め尽くし、都会ならではの景色をつくっている。その谷間をたくさんの人が忙しそうに歩いていて、隙間からは青い空。田舎とは違う風景にため息が出た。 北関東から上京して一ヶ月。慣れない場所での日々は慌ただしく過ぎ、しみじみと東京の街並みを眺めたのは今日が初めてだった。 目的もなく飛び乗った電車の車窓はいろんな風景が流れていくけれど、すこし飽きてきた。スマホで時間を確かめるとお昼を過ぎていて、なんとなく…続きを読む
昔は「喧嘩番長」なんて呼ばれていた。 売られた喧嘩は当然買うし、負けたことは一度もない。 でも、それは昔の話。 今はただの会社員である。「ただいま」 マイホームに帰ると愛しの妻が……。「ちょっと、あなた!」 好戦的。 だけど俺はスルーを決め込む。 学習したんだ。 分の悪い喧嘩は買わぬに限る、と。…続きを読む
実をいうと、マヨネーズはあまり好きではない。 小さいころから胃が弱いこともあり、脂っこいものが苦手なのだ。 だから好きな人には申し訳ないけれど、「マヨチュッチュ」や「マヨダク」という言葉を目にしただけで、胃のあたりにモヨヨッとおかしな感覚を覚える。 でもメインとなって主張するものは苦手なものの、トッピングなど、マヨネーズが脇役となるものは割と食べる。キュウリやニンジンをディップしたり、お肉を炒めるときの味付けにしたり。 あの酸味とクリーミィさは、調味料としてはとても有能だと思う。 そんなわけで、私はマヨネーズは好んで食べない。 けれど毎年この季節に必ず食べる、マヨネーズ…続きを読む
「あ、いけない!」 室内に漂う甘酸っぱい匂いに気付いて、声が出た。慌ててキッチンを見回してみると、数日前に買ったイチゴがエコバッグのなかで放置されていた。 幸い、カビは生えていない。それに全体的に深い赤色をしているものの、食べられないような傷みかたではないようだ。でも、早く食べないと……。 よく洗って、ブチリとヘタをむしり取ったイチゴをひとつ、ふたつと口に運びながら、ふと思った。 ――なにか料理に使えないかな? と。 イチゴを使ったスイーツはたくさんあるけれど、料理といえば……お肉のソースやドレッシングくらいしか思いつかない。でも、なにかしらの料理に活かせるはずだ。「どれ…続きを読む
4月は、気が滅入る。 考えてみると、学生時代はクラス替えが嫌だった。仲良しの友達と別のクラスになってしまうことが多くて、担任もなぜか苦手な先生に当たる。それに就職してからも、この季節はバタバタとしていてせわしない。 おまけに街を見渡せば、真新しいスーツに身を包んだ新入社員や人生の春を謳歌する学生たちでいっぱいだ。最後にクリーニングに出したのがいつかわからないスーツを着た僕は、背中を丸めて歩くしかない。だから、気が滅入る。「ほら、今日も眠れない」 照明を落としたアパートで、ボソリと呟く。枕元に置いていたスマホを見てみると、時計は午前1時を過ぎたところ。「早く寝ないと、明日が辛…続きを読む
引っ越しを翌日に控えた土曜日。まだ室内に残っている荷物をダンボールに詰めていると、ひとりで絵本を読んでいたはずの娘――結凪(ゆいな)が抱きついてきた。「ママ、おなかすいた。おなかすいた!」 私の首に後ろから腕を回し、軽くジャンプ。そして「お」「な」「か」「す」「い」「た」の5文字を繰り返している。途中にもったいぶるような呼吸を挟んで、何度も、何度も。「お腹空いたって……」 ついさっき朝ごはんを食べたばかりだと思って時計を見てみると、2本の針が12を指して重なろうとしている。「当然だよね、ハハッ」 作業に夢中で時間を忘れてしまったことをごまかすように笑いながら、手を止めた。…続きを読む