2021年1月 新しい年が始まって、数日たったある日、ポストを開けると一通の封筒が入っていた。差出人は影山さんだった。ユイは小走りで部屋に戻り封筒を開けた。中には丁寧に折りたたまれた4枚の棋譜用紙が入っていた。ゆっくりと棋譜用紙を取り出すと、間に挟まっていたアヒルの羽が床に向かってふわりと舞い落ちた。その他には何も入っておらず、棋譜用紙にも特段にメッセージが書き込まれているわけではなかった。封筒に筆ペンで『竜王戦棋譜』とだけ書かれている。その確実かつ柔らかな筆跡を見て、ユイは懐かしい気持ちになった。あの日、影山さんに出会うことがなければ、こうして新しい年を迎えることはなかったのかもしれない…続きを読む
午前6時。千尋はカラオケルームで目を覚ました。 体を起こし、テーブルの上に目を向ける。 クリームソーダのアイスが溶けて、ぼんやりと白く濁っている。確かめるようにゆっくりと左目を閉じると、クリームソーダは形を失う。 右目が見えなくなって1ヶ月が経つ。明るさを感じることはできるが、右目だけでは色や形を認識することができない。 鞄からスマホを取りだし、今日のふたご座の運勢を確認する。 1位 周囲の助けを借りて、突破口が開く。 ラッキーカラー:グリーン 一瞬視界がぐわりとゆがむ。ふたご座が1位になるのは、1ヶ月ぶり、右目が見えなくなったあの日以来はじめてだ。「大丈夫…続きを読む