遮光カーテンの隙間から鋭く差し込むやけに早い日差しは、白いベッドに横たわる栞奈(かんな)の白く艶やかな肌を貫き、その黒髪をより漆黒に近付けている。その様はまるで、インに魅了された挙げ句、天界を追放された天使の処刑のようだ。そして、そんな栞奈の髪を一掬いした瑞樹(みずき)の指の間は、その温度に冷やされるのだった。部屋の家具の何もかもを白で統一したのは、いつかこんな日が来た時のためだった。過去も未来も今もない、ただ、こんな日のためだったのだと解る。瑞樹は徐に立ち上がり、窓辺に置いた机に向かうと、この日のために誂えておいた便箋とペンを取り出す。拝啓、と始まるのも納まりが悪い。もしかし…続きを読む
チョコ レシピ 簡単 Enter……チョコ 簡単 レシピ 材料少ない Enter【みんなが作ってる】……嘘でしょ?こんなん私に作れるわけがない。こんなところでも私は「みんな」っていう枠に入らせてはもらえないらしい。オーブンを230℃に余熱……は、無理。ドライフルーツ……って固そうだし。洋酒?ダメでしょ。似合わない。陸人(りくと)には……なんか、こう……「普通に甘くて美味しい」のが似合う。私でも聞いたコトのあるような、生チョコとか、ガトーショコラとか……そういう、やつ。それでいて、簡単で、絶対失敗しないやつ……なんて都合が良すぎか?でも、こんな私が「作ってみよう」と思った時点でだい…続きを読む
お疲れ様です。この度は関係者の皆さまに多大なるご迷惑をおかけしました。以下、欠勤理由をご報告させていただきます。・私的な理由で時間の確保が難しかった。・何度か対応を試みたが、品質保証が叶う作品がつくれなかった。・お題が溜まっていくことで焦燥感に駆られる結果となり、本末転倒であると自己判断した。以上です。今後の対応と致しましては、誠に勝手ながら『100日お題チャレンジ』の方は一旦休載とさせていただき、私生活が落ち着いたあと再開させて頂ければと思います。このような結果となってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。また再開する際にご連絡させていただく所存でございますので、そ…続きを読む
「蟻喰いがやっとのことで見つけ出した時にはもう、その飴は砂塗れで汚れていました。そんな風になってしまったとしても、蟻喰いはとてもとても喜こんだのでした」──これは大事な飴を砂場で無くしてしまった蟻喰いの話。「その物語は小さく輝きながら、数多の物語の中に浮かぶのでした」──これは何も知らなかった女の子が何を愛すべきなのかを知った時の話。「だから言ったろ?そのうちに人間にナレルって」──これは地球に取り残された宇宙人の話の第十八話。 あの日もし蛇兄さんに出会わなければ、俺は今ここにいなかったと思う。…続きを読む
今日の夜ご飯はシーザーサラダとポトフ。そしてママお得意の熱々グラタン。「おおっ、今日の夕飯は豪華だな」パパがそう言いながら僕の隣に座ると、僕の目の前に座っている美乃梨(みのり)お姉ちゃんは顔をしかめながらイヤホンを耳にさした。「ちょっと細かいこと言ってもいい?夜ご飯は『今日も』豪華なの。全く失礼しちゃうわ」「なんだよぉ、ちょっと言い間違えただけだって……」「まだ触っちゃダメよ」と言いながら僕の前にも熱々のグラタンを置いてくれたママは、少しほっぺを膨らませる。パパは「しまった」という顔をしてから、ママに抱きつこうとしていたけど、ママはそれをスイっと上手に避けながらキッチンに戻る…続きを読む
最初の日のことを思い出してみようと思う。キミをみた最初の日。その存在を知ったのはもう少し前のことだったけど、キミのことをみたのはあの日が初めてだった。正確には日を跨いでしまったから、その顔をみたのは翌日だった。 スッと通った鼻筋、思わず触れたくなるようなおでこ、髪の毛は黒くてふわふわしていて、その一本一本の全てが愛おしかった。ここだけの話、誰かに奪われてしまうくらいなら……と、一番最初にその唇に触れたのは私。小さな掌にそっと人差し指を近付けると、思いの外強い力でそれをギュッと握り締める。背中はどうにも頼りないのに、その温もりは一丁前にしっかりとあたたかくて、抱きしめる度に嬉し…続きを読む
「2021年延長……しますか?」「そうですね。良い一年、といえば良い一年でしたから、延長しても良いのかもしれませんけど……私は、やめておきます」未来の私が「2021年って何していたっけ?」ってたずねてきたとしたら、私は「あんまり覚えてないや」と答えるでしょう。いい意味で“何もない”年でした。友達や、人付き合いも限られた中、しかも自分が付き合いたいと思うような人たちばかりだったので、穏やかで、ノンストレスでした。まあ、家族に対する感情に揺さぶられてはいたので、そっちのストレスはありましたけれども、改めて考える良い時間がもてたので、その点での後悔はないです。そんな感じで、いい意味で“何も…続きを読む
「人類初!人類初です!!」「えっ?」「おめでとうございます。あなたが記念すべき人類初!に選ばれました」「人類……初?僕が、ですか?」「そうです。あなたが人類で初めてなのです!どうしましたか?あまり喜んでいないようにみえますが?」「喜ぶも何も、ちょっと何のことだかわからないのですが……」「えええっ?あなたが人類で初めてなんですよ?」「だから、何の?僕は何をしたんでしょうか?」「そうですよね、人類で初めてなのだから、そうなっても仕方ないかもしれませんね。でも、これはもちろん喜ばしいことですよ?なんてったって、人類初なんですから……」「何をしたって訳でもないのに急に出てきて、人類初…続きを読む
それは木曜日の朝だった。寝起きのルーティンでスマホをチェックすると、夜中の間に彼の一言が炎上していた。私には全く気にならない一回の彼の呟きを拾い上げて、その火種は電波の中で燃え広がったみたいだった。誰が何の為に火種を放ったのか、あるいは悪気も無くだったのかは、私には全くわからなかったけど……──この心には、小さくても確実な焦げ跡が出来ていた。幸い彼の人となりを擁護する人も同じように多く現れて、それは既に鎮火しているようにみえる。彼は目立つ存在ではあったけど、人が嫌がる様なことなどしないし、何ならどんなタイプのクラスメイトにも平等に接してくれる。誰かに恨まれるとす…続きを読む
「ただいま……って、えっ?!」「あっ……大家さんっ、おかえりなさいっ!先にお風呂入っちゃったよ……ん?どうしたの?そんな顔して?」仕事を終え、落ち着くはずの我が家の玄関を開けるとそこには何故か先客がいた。「……なんで?」名ばかりの大家さんをやることを条件に、じいちゃんからタダ同然で借りているとはいえ、私はこの部屋で一人暮らしをしているはずで、返事がないのはわかっているけど何となく挨拶しないと気持ち悪いから「ただいま」と言っただけなのに……水滴も拭いきらず、半裸で、やたらとキラキラしている彼が、思いがけず「おかえり」と私を迎えいれたのだ。「あっ!わかった!これでしょ?……どう…続きを読む