私の左手は炎を灯すことが出来る。「それだけかよ!」と保が馬鹿にする。口をとんがらせ変顔をして深層特殊能力班のみんなを威嚇する。「私だって何でこんな能力なのか知らないって!文句なら班長に言ってよ!」扉がバタンとあき、腰を折って大男が入ってくる。オデコから飛び出てる一角は、天に向かっていた。まぁ。誰も文句は言えないよな。班長を見上げながらチラリと保を見る。保には、時空に穴を開ける能力がある。簡単に言えば「ド○エモン」の四次元ポケットのようなモノだ。この班は、世の中の不思議の部分で起こった事件を解決する部署だ。もちろん無能力者では、不思議な世界で人を助ける事…続きを読む
ザブンと音がして、耳の周りは泡ぶくの弾ける音でいっぱいになった。この暗い水に、私はどこまでも深く沈んでいく。波をうっている水の天井が光っているのが見える。ただ、どこまでもそれは高くなっていき、いつしかこの暗さに飲み込まれでいくのだろう。身体が重い。沈んで沈んでそれを止める事はできない。腕が千切れても、足が取れても。それらは、バラバラになりながら、私と共に落ちていく。目が取れて、耳が溶けて、何も感じられなくても、私の心が壊れない限り、あなたの事を忘れない。「おかあさん」オヤツを一緒につくったね。手を繋いでお買い物もした。公園でブランコを押してくれた。二人で妹のベ…続きを読む
頭蓋骨の中にある脳みその溝にそって、蟻が一匹、右往左往している。いや、ウジ虫か?ああだめだ、頭を大きく振って脳みそに集中した妄想に終止符を打つ。やっぱり、ウジ虫じゃなくて、蟻だな。いかんいかん。考えるとこはそれじゃないでしょ!眉間に皺を寄せてオデコを拳骨でコツコツ叩く。私の脳みそにいる蟻は、『なにか』を拾ってくる。今夜も脳みその奥深くに眠っている、私自身も知らない『なにか』を探して迷路の中をさまよっている。夢を見て。「アルツハイマーになってたわ私」とまだ暗い天井につぶやく。「ああ、こんな気持ちなのか。不安だな。忘れないでおこう。私は、嫌な人間にな…続きを読む
朝霧の中の通勤路。襟を立て、軽く結んだ唇達からは、白い吐息が幾つももれている。みんな、会社なんて行きたくないんだろう。水曜日の朝は、だるい。後香川にかかる木製の大きな橋を渡ると、「一三詣り」で有名な後香川神社が見える。春になると可愛い振袖姿のお嬢ちゃん達と、それ以上にテンションの上がっている、ママ、パパ、爺、婆で賑やかになる、有名な神社だ。最寄りの駅はその先で、コンビニやバス停があり観光地のソレらしい駅だ。「駆け込み乗車はおやめ下さい」の声を振り切り、電車に飛び乗った。今日も帰るのはきっと遅くなるんだろうな。土曜日には、彼のご両親に挨拶に行くことになっている。…続きを読む
オフィーリアが、川面に身を投げ、沈んで行った時、彼女は自分から生まれる波紋を、見ることができたのだろうか?私には見えなかった。ただ水面下から空を眺めていると、ポトリとどんぐりが私の顔に向かって落ちてきた。どんぐりの波紋。私が沈んでも、波紋は起こらないのに、どんぐりの波紋は美しく広がっていくんだ。白青い空に映る波紋。。。おもしろいもんだ。私がニタリと笑った時、突然腕をひっぱりあげられた。あら、肩幅の広いお兄さんだ。「川の中で、なにやってんだよ!」あらま、助けられてしまった。グイグイ引っ張られて、テントの前に投げ出されシェラフを、投げつけられる。…続きを読む
廊下から走り込んできた圭介は、ドスドスと僕に近づき梅川幼稚園の名札バッチを僕の胸から引きちぎった。僕は唖然として、親友の圭介を見上げた。頭一つ僕よりデカい圭介は、暴れん坊だが結構繊細な奴で優しい事を、僕は知っている。その圭介が、涙目になって肩を震わせている。身体を動かす事の苦手な僕だけどボク達は案外、気が合った。一緒にお泊りするほどに。「なんで?」と僕の言葉を圭介の怒鳴り声が遮った。「お前は、くま組から破門だ!」はもん?なんだそれ?突然の事にクラスのみんなは、僕よりビックリした顔をしている。怒ってる。何故かわからないけど。言葉もわからないけど。圭…続きを読む
私はいつもそわそわしている。心配なのだ。全てが。気になるとどうしようもなくなる。LINEで何気なく家族の安否確認。連絡ないのは元気の証拠。と人は言うけど、私は困った時だけ連絡してくるような人間関係ではないんだよ。と、言いたくなる。人の心配をして、自分はうっかりミスをする。「あー。なんか、鍵を鍵穴に突っ込んだままのような気がする」慌てて戻る。火を消したかなぁ。慌てて戻る。そんな事をしていては、いつまでも出かけられないので、対策が出来ている。火は使わない。使っても準備の最初に切る。何より最近の電化製品は、自分で切れる。ガスも〇〇ガスさんが監視してく…続きを読む
最近は誰も俺の相手をしなくなった。まぁ、俺もゴロゴロしてるだけで奴らの相手なんかしてやってないけど。俺はすり寄ってなんてやらないよ。アイツらが、俺に擦り寄るべきだろう。パパは帰りが遅いし、酒臭い。ママは仕事から帰ると、家事をして携帯してパソコンして寝てしまう。圭介と雪奈なんてもっとひどい。二人共、リビングは通り抜けるだけ。座布団で寝ている俺の事など、見向きもしない。大学生の圭介は、バイトと大学。アイツ、家族とだって喋ってねぇーしなぁ。雪奈は、受験生だからと深夜まで塾から帰らない。この家族は7年前、捨て猫だった俺を拾ってくれた。俺は足を怪我した可…続きを読む
私のお婆ちゃんは一人暮らしだ。心配になって時々様子を見に行く。「お婆ちゃん?こんにちわぁ」鍵のかかっていない玄関をあけて、勝手知ったる家、返事がなくてもはいっていく。こういう時は、居間で居眠りをしているんだ。「お婆ちゃん?」すりガラスをそっとあけたが、何時もの座椅子にお婆ちゃんはいなかった。裏の納戸から大きな物音と共に「痛、いたたた」とお婆ちゃんの声が聞こえてくる。私は裸足で飛び出して、裏庭に回る。そこには、箒を握りしめたお婆ちゃんがひっくり返っていた。「ああ。早苗やないか。どした?」「もう!それはこっちのセリフ。大丈夫?」パタパタと服をはたきながら、…続きを読む
あなたは自分の足跡を振り返ってみたことがありますか?あれは、最後の学生生活を謳歌していた頃でした。人生で一番調子に乗っていた頃と言えるかもしれません。人を非難し、馬鹿にして、よくわからないくせに世の中のアレコレを偉そうに語っていた時代。あの日も友人の何人かで政治のなんたるかを、苦労知らずの若者達は唾を飛ばして語らった帰り道のことです。雨上がりの大きな水たまりを、バシャバシャと子供のように踏み荒らして我々は下宿まで歩いていました。私はフト、その水たまりをふりかえったのです。私達の靴跡が、ヨタヨタと交差してアスファルトを汚していました。その中の一つにおかしな足跡があっ…続きを読む