はじめのいっぽ、とーんだ!「キリ、あれは何?」「悪魔さんが転んだ、だってさ。最近流行ってるみたい」 平和になったねえと呑気に汗をぬぐい、キリは私の隣を歩く。 日差しがやけに強い、夏の日だった。水に住まうウォーターエルフ族の私は日に弱いから、今日みたいな日は外出したくない。 でもどうしても、「救世主」のキリは出かけたいらしい。今日に限らずいつもそうだ。 家にいると何も始まらない。彼はそう言って私を連れ出す。「救世主様!」「リン様もいらっしゃる! 水魔法のファンなんです!」 隣町に行けばこうやってみんなが道を開く。100年に一度復活する悪魔を倒したのが、名もな…続きを読む
児童公園でカクテルを飲むのは初めてだった。「これ、なんてやつですか?」「イレブンバイオレット。お姉さんのインナーカラーが紫だから」 私はふうんとわずかに口角を上げ、紫の髪を指先で弄った。 まさかこんな公園に、カクテルバーの屋台があるとは思わなかった。深夜2時で、酔っていたこともある。私は飛び込んでみたかったのだ。今まで触れたことのないものに。「お兄さんはなんでお面付けてるんですか? しかもそれ、何」 バーテンダーのお兄さんは白猫のお面をつけている。それもファンシーなデザインじゃなくて、洋風雑貨の置物みたいにリアルなお面。「これ? イケメン過ぎてお客さんが来すぎちゃ…続きを読む
数年ぶりに見た異星人は、コーヒーを飲んでいた。 駅を出て、十数メートル先にあるコーヒーショップ。スーツ姿の異星人がいた。今にも雪が降りそうな、寒い日のことだった。 試食販売のバイトの帰りだった私は、一瞬だけ固まって、すぐに目をそらす。何の因果でここに。出会った偶然に緊張感を覚えながら、必死に店員から手渡されたメニューを見ていた。 異星人の名前は細田孝弘。 兄。私の「オリジナル」の兄だ。 私のオリジナル、細田真希さんは交通事故で亡くなった。高校3年生の春、3年前のことだった。「みかちゃん!」 明るい声が私の名を呼ぶ。振り返ると、にこやかな笑みを携えた孝弘さんが、財…続きを読む