春風雨里《はるかぜうり》です🌸
お忙しい中ここに訪れてくださり、本当にありがとうございます♥️
マイペースに活動しております。
つたない文章ではありますが、どうぞ宜しくお願いします。
○スタッフ様オススメに掲載して頂きました○
2022.3.14 『励まし代理』
http://monogatary.com/story/357822
2022.3.21 『グランドピアノとトロッコ』
http://monogatary.com/story/357447
○ひよこ文庫様第二弾作品連動コンテスト「苦くて甘いチョコレート」で優秀賞を頂きました○
『ひとかけらのチョコレートシンドローム』
https://monogatary.com/story/344471
倉庫業の仕事を終えてタイムカードを切る17時。センスのない同僚兼友達の西松が、俺にプレゼントをくれた。「勇介。お前、誕生日だろ!? 七月一日、二十四才おめでとう!!」 俺はきょとんとしながらA四サイズの茶封筒を受け取る。中をそっと開けると、ワインの本が入っていた。「えっ!?」 目をぱちぱちさせて、顔をあげた。「たくさんのワインが紹介されているいい本だったよ。オススメ!」 うんうんと頷く西松を見て、一瞬ぽかんと口を開けてしまったが、すぐにはっとする。「あの……俺は普段お酒は飲まない、よ? コーヒーが好きだからそっち優先しちゃうし……」 困る俺を気にせずに、西松…続きを読む
私はこの道が好き。 実家から最寄り駅までは徒歩12分。 閑静な住宅街の道を1人でまっすぐに歩くだけ。その歩道には等間隔にある木からは黄色の葉が何枚か落ちていた。春だけど何だかその黄色の葉はいちょうの色みたいだと思いながら、私はいつもぼんやりとしている。 道のりのなかで途中ふと空を見上げる瞬間がある。太陽の光に癒やされながら青空を眺める日も、曇り空を見上げながら雨を弾く傘の音を聞いている日も好き。 でも徒歩12分だったのは高校生までの話。 社会人になると実家から最寄り駅までの道のりは徒歩7分。 実家の場所や最寄り駅の場所が最初と変わったわけではない。仕事に向かう私の歩く早さが格段…続きを読む
誰もいない草原に仰向けになって、橙色の空を見上げていた。 ひとりぼっち。 高校生の俺には、今なにもない。 大切な人は俺と一緒にいることよりも、自分の夢をとった。田舎町から都会に出てファッションデザイナーになるために。「真也が嫌いになったから、別れてほしいんじゃないんだよ」 沙羅のその言葉に、真意はどれくらいあるのだろう。 今日、卒業式が終わった後、沙羅の家で荷物をまとめるのを無理やり手伝いたいと言って、後ろめたい気持ちを引きずり見送りに行った空港で、寂しそうにした俺に、はっきりとそう口にした沙羅の言葉を思い出す。 彼女と付き合ったのは二年。 やっぱり、何か嫌なところがあ…続きを読む
私は七村亜依。建設業の会社で働く二十二才だ。憧れで入ったはずのこの会社は……最悪だった。なぜならそこにいる笹沼部長は入社して二ヶ月目の私をかなりいびる。笹沼部長は経験が浅く何も分からずにいる今年唯一の新入社員である私に目をつけて、日々、ありえない量の書類を私に押し付けてくる。「まあ、君みたいな新人には出来ない量だと思うがね」皮肉に笑ってきたり、クレーム処理があれば「社会勉強だよ」と全部私に回してくる。社会勉強なのはあってるのかもしれない。嫌なことを乗り越えると、この先に新しいものが見えてくるのかもしれない。仕事を回してくれるのは何もやらせてもらえないよりいいことなのかもし…続きを読む
太陽は穏やかな日々を過ごしていた。 太陽は広い青空の中で世界に光をもたらすことのできる自分をいつも誇りに思っていた。 ある日のこと。太陽は遠くに小さな姿を見つけた。その人は太陽の自分と違った光を持っていて、自分と同じように世界に光をもたらすことを誇りに思う人のように見えた。 太陽は面影を知った。「君は誰?」 そう話しかけようとしたけれど、地球に隠れてその人は行ってしまった。 どうやら黄色く丸いその人は月というらしい。 太陽は近くを通りかかった雲たちに教えてもらうことができた。 雲たちは通り過ぎる。 暗闇を照らす光を持つ月。 太陽は自分と反対側にいた今は見えない存在に…続きを読む
愛想がよくて、私によくなつくんだ。 真ん丸の形をしたココア味の一口クッキーという、その餌を差し出しても。「山下さん、ありがとう!」 二月二十日。中学二年の温かい春の近づく、火曜日の放課後。隣同士で椅子に座る、図書室の受付にて。私は同じクラスの笹森くんの手のひらに、そっとココア味の一口クッキーを乗せる。ココア味の一口クッキーを見ると、笹森くんはさらに無邪気で子供みたいになる。大人みたいに低く落ち着いた笹森くんの声はいつも純粋だ。 黒髪に緩やかな天然パーマがかかる笹森くんのはにかんだ笑顔は、窓から差し込む柔らかな太陽の光のオレンジと共に、優しく光る。 笹森くんと会うと、静かな暗闇…続きを読む
『今見つめる視界から、明日を鮮やかに装飾できる』それは桜が散り、木に緑が芽吹く季節に訪れる。そう思えたきっかけは、花粉症なのかもしれない。大切な出会いの話がある。この話は世間の人に分かってもらえなくても構わない。だけど、キミに一番に知っていてほしいし、キミもきっと一番に、私に知っていてほしいことだと思っている。キミと私だけが知っている世界。二人きりの秘密の世界の話でいられたら……それでいい。…続きを読む
高校一年の春、恋の始まりは本当にまっすぐなものだった。 桜の咲く景色の見える教室で、隣に座った君と自己紹介をして、何気ない話して、楽しくて、本当にまっすぐ君が好きなんだと思った。なのに、一週間ほどたつと、そのまっすぐ進めていた道に通行止めの看板が立つ。いつの間にか、だ。 だけどどうにか目的地に辿り着くために、右へ行ったり左に行ったりして大回りしながらも、進める道を探してみる。でもいつの間にか、またすぐ、その道に通行止めの看板が立つ。 それは予告なし。いつだって唐突に行けなくなる。 だけど君のそばにいたくて、いつも迷いながら道を探して、君とどうにか話ができるように、方法を探している。…続きを読む
「パンパネコって何?」 海外の子ども向け番組を動画で見ていた時のこと。 英語もろくに話せない大人の私は、その番組に出てくるキャラクターの特に声が好きで、字幕機能を使用せずその番組を一人で見ていた。その時に、その番組に出ていた子どもたちは笑顔で言ったのだ。『パンパネコ』「何だ、パンパネコって……」 猫の種類ってことなんだろうか? だとしたらパンパって何だろうか? そして私はパンパネコを調査することにした。 調査すると言っても手がかりはパンパネコしかない。しかも恐らくだけど、パンパネコはパンパネコじゃない。英語が分からない日本人の私が聞き取ったうやむやな英語である可能性…続きを読む
風邪をひいてしまった。 熱はないけど咳が出る。 きちんと布団をかけて寝たのになと何だかやるせない気持ちになる。 朝七時。ゴホゴホと自分の部屋で一人、咳と戦っていると、隣の部屋にいる七才の息子の尚也が起きてきた。「ママ、どうしたの?」「何だか風邪をひいちゃって」「え、大丈夫? 何か飲み物いる?」 そう聞かれて私は思いつく。風邪をひいたとき、私はいつもレモネードを作る。柑橘系のすっきりとしたほっとする温かい味を思い出すと、今すごく恋しくなった。 尚也に作ってもらおうかと思ったが、粉とお湯を入れるだけのインスタントレモネードはキッチンの上の扉にある。 小さな背の尚也には、台に…続きを読む