★漫画版【アメリカンドッグと赤い傘】
2020年12月18日(金)配信決定!
★モノコン2019【原田ちあき賞】で優秀賞を頂きました。
【消しゴーンガール】
★チャンモノ#15
声優の徳井青空さんに
【世界で一番プラトニックなゾンビ】を朗読して頂きました。
★2019年3月
電車広告に作品の冒頭を掲載して頂きました。
【アメリカンドッグと赤い傘】
★チャンモノ#13
声優の徳井青空さんと千本木彩花さんに
アメリカンドッグと赤い傘を朗読して頂きました。
★【中嶋ユキノコラボお題】で優秀賞を頂きました。
【プラトニックな嘘つきは、恋のはじまり。】
monogatary.com 公認モノカキ
https://mobile.twitter.com/onomasachi31
猫カフェの中に一匹、チワワが在籍するように、閑静な住宅街の中に存在するそのコインパーキングは、横並びの六台中、すでに四台が停められていて、私は空いている右端に車を停めた。運転席のすぐ隣に見える民家には、閉めた窓からでも匂いそうなくらいたくさんの種類の花が育てられていて、蝶々がひらひらと飛んでいた。正午過ぎの空は、降りそうで降らない曇り空だけれど、閉めた窓からでも蝉の鳴き声は聞こえてきた。私はエンジンをかけたまま、シートベルトを外し、ゆっくり目を閉じた。あの日もうるさいくらい蝉が全力で鳴いていた。「文香、俺と結婚してほしい」あの日、私は突然、三歳年上の恋人、秀介からプロポ…続きを読む
人通りのないビルの裏口には、高さ60センチほどの円柱型ごみ箱付き灰皿が置いてあるだけの屋外喫煙所があった。私はそのビルの中に入るデザイン事務所でデザイナーとして働いていて、昼休みになるとそこで1人、タバコの煙をくゆらせていた。ビルの各階には喫煙所が設けられているけれど、私は入社以来この場所を好んだ。女だから人目を気にしている訳ではない。1人になりたいからこの場所を選んだ。灰皿の上で、トントンと人差し指でタバコの灰を落としていると春の匂いが私の鼻をくすぐった。青空に浮かぶ雲や路傍に咲く花の名前を意識するようになったのは、この1年ほどだ。自分で言うのもなんだが私は仕事が出来る。…続きを読む
今朝も目覚まし代わりのスマホが震え出す前に目が覚めた。私は朝に強い。隣で寝息を立てている夫の陽介を起こさないように毛布から抜け出し、ベッドに腰掛ける。また、あの夢を見た。桜の時期になると私の夢のスケジュールに組み込まれているかのように見る夢だ。9年前、私と陽介がまだ高校生で、はじめて彼のために作ったお弁当を持って花見デートした日のできごと。私達は、昼時に大きな公園のベンチに腰掛けてご飯を食べようとしていた。私のお尻の下には、陽介が広げて敷いてくれたチェックのハンカチがあり、陽介の膝の上には、巾着型のお弁当包みがある。2人の足元には桜の花びらが転がっていた。「こういうの、ずっ…続きを読む
私は大勢の人で賑わう会場で1人、冬の夜空に咲く花火を待っていた。 9ヶ月前、私は第1志望の大学に合格し、地元を離れ、大学のある町で新生活を始めた。けれど、世の中はソーシャルディスタンスが義務付けられ、大学は休校になり、地元に戻った。私と同じく進学のために地元を離れた友人らも戻って来ていた。青春の1ページを誰かに破り捨てられたような喪失感があった私に「高校の時みたいに、昼ご飯くらいは皆で一緒に食べよう」と言って、ドロップの缶から1粒、掌にくれたのは、カンちゃんだった。高校時代、制服のポケットにドロップの缶を忍ばせていた男子。だから、皆は「カンちゃん」と呼んでいた。大学生に…続きを読む
私はグルメ雑誌をめくる手をとめて、【春のデザート「アジアvsヨーロッパ」】特集ページに載るスイーツの写真に、思わずツバを飲み込んだ。今日、私は休日出勤で、これからランチをとるために行きつけの洋食屋に向かっていた。陽だまりがまだ恋しい春の正午過ぎ、降水確率10%、日曜日の東京オフィス街。ランチタイムと言っても、平日と違って閑散としている。入社して1年、日曜日のランチタイムに会社を出て洋食屋までの道すがら、グルメ雑誌を読みながら歩いても、誰かとすれ違うことはない。まるで季節外れの波打ち際。寄せ返す波が時々、イタズラに足元を濡らそうとするみたいに、自転車便が通り過ぎて行くだけ。…続きを読む
1、「みなさん今晩は。今週も始まりましたフライデー・ポータブル・ガーデン。DJの池本真美子です。ここ数日は、全国的に人肌恋しい季節にまた戻ったような感じですね。4月9日、金曜日の夜10時、みなさんはどうお過ごしでしょうか?」この部屋に決めた理由の1つでもある、脚を伸ばしてゆったりと入られる白いバスタブ。そのふちに置いたスタンド式防水ケースの中のスマホからFMラジオが流れている。私はバスタブにギリギリまで入れた、人肌よりも4度高い乳白色のお湯にアゴまで沈め、「はぁ〜極楽、極楽」オヤジくさいことをつぶやいてみた。私は在宅勤務をしていて、今日は出版社からの要望で、急遽、誌…続きを読む
1、「あっサンタさんだ!」電車の七人掛け椅子の端に座る私から二人分離れた場所で、四才くらいの女の子が、窓に鼻先を付けながら言った。女の子の「あっ」の声にまず私が反応し、少し遅れて、女の子の隣に座る母親が窓の外を見た。十二月の第ニ日曜日、昼下がりの車両には私を含め、十人足らずの女性しか乗っておらず、のんびりとした時間が流れている。今朝観た天気予報では、十一月中旬の陽気で、日中一杯、雨は降らないと言っていた。「あら、ほんとサンタさんね」母親の口調も穏やかで、電車の車窓はひと時、絵本の1ページのように切り取られる。「あそこでサンタさんは何をしてるのかな?」母親の問い掛けに、…続きを読む
大きな公園の近くに、少し変わった3階立てのマンションがあります。名前はaiboハウス。その名の通り、aiboを飼っていないと住めません。あと、女性限定で、あまり部屋にいないことが住む条件です。aiboハウスには現在、4人と4匹と1体が暮らしています。 ん?やはり、少し変わっています。1階は、大家さんのおばあさんが1人で住んでいます。2階は、介護士さんとファッションスタイリストさん。3階は、長距離トラック運転手さんと空き部屋です。4日前まで、空き部屋には、看護師さんが住んでいて、結婚を機に引越ししました。1体を残して。aiboハウスは全部で6部屋あり、1階のおばあさんの部屋の…続きを読む
このベンチを見つけるまで、ゆっくり空を眺めることはなかった。あいつが隣に座るまで、風にちぎれて流れる雲に、名前があることを知らなかった。梅雨の晴れ間の青空を今、あいつは誰と眺めているんだろうか?また泣いたりしていないかい。俺はまだ隣を空けて座る癖が抜けていないけれど。高校の旧体育館の裏に、昔は屋根付きの渡り廊下だった名残りのコンクリート通路がある。雨ざらしになったそれは、ジグソーパズルのようにヒビが入り、人が通らないから苔が生え、開かずの体育倉庫に続いていた。体育倉庫の裏は死角になっていて、学校を囲うブロック塀と体育倉庫との四メートルの間を爽やかな風が通り抜け、倉庫の壁に沿わ…続きを読む