「おはよう」って言葉を打っては消すのを繰り返す僕がいる。 僕は朝が来るといつものように学校へ行く支度をする。急いで朝食を掻き込んで鏡を覗き込んで寝ぐせや制服のシワが無いか隅々までチェックする。今日もあの子に会いに行くんだ。「いってきまーす!」 僕は今にも離陸してしまうんじゃないかという勢いでいつもの駅まで自転車で進んでいった。テレビでいつもやっている僕の星座占いが1位だった事など聞く耳を持たぬまま僕の足は止まらなかった。 ペダルを漕ぐ度に僕に当たる風が心地いい。生まれたての朝日がこちらを覗き込んでいる。この瞬間、一秒先さえ全く分からぬ今日が始まろうとしている。 しばらくして…続きを読む
僕は大変頭が良く、しかも努力を怠らないのである。冒頭の文章こそ小説執筆に於いて最も肝要である。とかの有名な林修先生が言っていたが、この著作もそのひとつであろう。当時小学生の頭が良く勤勉なアオヤマ君は足繁く通っていた歯科医院のお姉さんに恋をしており、お姉さんと親密になるにつれて彼女の秘密や謎が彼の前に立ちはだかる。その謎を解こうと彼が挑戦し、その度に成長していくというストーリーである。この作品は2018年にアニメ映画化され、日本アカデミー賞を受賞した知る人ぞ知る「隠れた名作」であることも注目すべき点である。 この作品で私が最も好きな点が小学生の男の子が大人の女性に恋をするという、叶…続きを読む
気づけばこの世界にやってきた。我は異世界の住民である。どうやら我はアベノにやってきたらしい。私の目の前に移るのは今まさに消えそうな、建っているだけでも精一杯の朽ちた宿だ。 御堂筋線なる箱でどこまで行けようか?ふとそんなことを思いついた我は動物園前まで行ったのだ。大阪の大都市、阿倍野区を歩いていると築何十年にもなるであろうボロボロの家が建つ場所から少し離れたところに一際大きいビルディングが我々を見下ろしているのだ。 なんの感情も無いガラス張りのビルディングは展望台やら化粧品やら、色々な誘惑を使って人間共を中に引き込もうとしている。そんなビルディングの中には香水やら化粧品やらを品定めする…続きを読む
私は家電量販店でアルバイトしている。もちろん、自分の好きな物にお金を使うためだ。がたごと、がたごとと音を立てながらエスカレーターが動いているのだが、非常に感慨深いものがある。人が乗っていない、動くことになんの意味も見いだせないのに健気にエスカレーターは働いている。空気を乗せているのだろうか?何のために…。深く考えれば考える程答えが逃げていくのだ。うちの店は基本的に誰も客が来ない、まるで自分が死んで幽霊になってしまったんじゃないかと疑ってしまう。そんな雰囲気を壊すように若い男の1人の客が来た。「1点、ボールペンで198円です。」無言で200円を出すと、私はそのコイン2枚をレジ…続きを読む
朝の4時、酔いどれたちもタバコをふかしてブランド品で着飾った女も駅のホームに座り込んでいる浮浪者たちも何もいないただの真夜中。そこには街灯の灯りとなんの声もない静寂の世界が広がる。自分はただただその道をぐんぐんと歩く。誰もいない何も音がしない空っぽの街。視界に入るのは人間が築いた建造物だけ。歩く度にアスファルトの欠片がカラカラと音を立てて排水溝に吸い込まれてゆく。彼らはもう二度と地表には戻れない。溝の底から太陽を崇めるだけ。朝早く陽がまだ出ていない。歩く度に自分が何をしているか分からなくなる。「何のため?」「自分のため?」この世にまるで存在しない透明人間になったようだ。死んでは…続きを読む