「死んだらおわりなんだよ、だから精一杯生きなきゃ」彼は、いつもそうやって私につぶやいていた。私は、大学2年生の春、教室で彼と出会った。必修科目の講義では人がごみごみと騒がしく、それがなんとも不愉快で、いつも一番前列の、教授の目の前の席が私の定位置だった。それでも、人が多い時は、最前列さえも人が埋まる。教授が出席を取り始めたころ、ギリギリで教室に入ってきた彼に、もはや残されている席は私の隣しかなかった。ギリギリだぞ、と教授に諌められて、彼はすいません、と笑った。八重歯が見えた。彼はなんとも懐っこい感じで、癖っ毛や丸っこい目、そしてその八重歯が醸しだす愛嬌で、色んな人に愛されてきたん…続きを読む