むかしむかし、摂津国の難波に住む夫婦が住吉明神にお参りをして子宝を願ったところ、指先ほどの子供を授かり、一寸法師と名付けられて育てられたという。一寸法師は成長しても体は大きくなかったが父と母に願い出て京都に上って両家のもとで生活することになる。そしてその家の姫に恋をし、姫を襲った鬼を退治して打ち出の小槌なる宝物を手に入れて一般的な男性の体格を手に入れて末永く姫と一緒に幸せに暮らしたとされている。一寸法師の逸話にあやかり住吉明神を祀る住吉大社にはこれまで数多くの夫婦が子宝を願って参拝に訪れていた。晩婚化が進み不妊治療が少しずつ広まってきた現代日本でも例外ではなく、今もまた一組の夫婦が手を合わせ…続きを読む
うだるような残暑が終わり、道路沿いに植えられた銀杏の葉も青々とした緑色から黄緑色に少し色が変わってきている。街ゆく人を見ても夏特有の肉感的な素肌の露出が減って薄手のアウターを羽織った落ち着いた姿に変わっている。夏から変わらないのは自分くらいかもしれないな、と雑居ビルの5階の窓際から道路を見下ろしながら本間フーンは思った。本間は仏滅出版という新興出版社の編集部で「窓際ハーフ編集マン」という大変不名誉なポジションを与えられていたため、窓の外の景色の変化だけは誰よりも敏感に感じ取っていた。余談になるが、この出版不況の中に去年創業されたこの仏滅出版は、マイナスな環境の中であえてマイナスな名前をつける…続きを読む