〇RAYARD MIYASHITA PARK・施設内自由と活気のあふれる、渋谷の商業施設。多くの若者たちが買い物を楽しんでいる。あなたは立ち止まり、ぼんやりと白いパネルを眺めている。後ろから男が声を掛けてくる。男 「姫、おまたせ」男、買い物袋を提げている。あなた「何、買ったの?」男 「いちごクレープと、もふもふマフラーと、くるくる回る指輪と、ハートのペロペロキャンディーと、、、」あなた「残念だけど、私にはもう時間がないの」男 「……」男、袋から二人で写ったプリクラを取り出す。あなた、動揺してないふりをする。あなた「渋谷での毎日は楽しかったわ。わたし、も…続きを読む
〇RAYARD MIYASHITA PARK・施設内自由と活気のあふれる、渋谷の商業施設。多くの若者たちが買い物を楽しんでいる。あなたは立ち止まり、ぼんやりと白いパネルを眺めている。後ろから男が声を掛けてくる。男 「オレ、最低だな」男、買い物袋を提げている。あなた「何、買ったの?」男 「愛だよ」あなた「愛をお金で買ったのね、あなたとはどうせこの程度だったのよ。やっぱりあなたって最低だわ」男 「……」男、袋から小さな雪だるまを取り出す。あなた、雪だるまの可愛さに目を丸くする。あなた「どうして」男 「ぼくには愛を買うお金なんてあるわけないさ。ただあるの…続きを読む
サバはその夜、風邪気味でした。 寒いよ、冷たいよ、ぼっちだよ。 サバはその夜、遅くまで眠れませんでした。 ぶるぶる、ぶるっ、熱っぽいし。 サバはその夜、微熱でした。 ちょっと熱くなってきた、やばいな。 サバはその夜、氷枕をつくりました。 うんうんうん と、うなされつつ。 サバはその夜、夢を見ました。 明日目覚めたら、南の島の海岸なんだ、きっと。 サバはその夜、遅くなって眠りにつきました。 次の日の朝、食堂へ行くと、 テーブルの上にホットレモネードが 置かれて居りました。 早くお風邪がよくなりますように。 海子より。 立てかけたサーフボードが色褪せて、 …続きを読む
ぱたぱたぱたぱた。 海子は綺麗に整った本棚にはたきを掛けてゆきました。今日は週2回のアルバイトの日。川沿いにある独立系書店で、店番をする日でした。はたきを掛けると云っても、本棚は良くお手入れしておりましたので、ほとんど埃などありません。はたきを掛けながら、本棚に並んだ店主セレクトの風変わりな本の背表紙を眺めるのが日課でした。 外はみぞれになっておりました。入り口は湿気防止のため、引き戸を閉めて、外から見やすいようにスポットライトを落としておりました。 がらがら。 一瞬空気が変わって、一人の細身の青年が入ってまいりました。グレーのトレンチコートにグレーのチノパン。グレーのタートルネック…続きを読む
雨の音はいつの間にか消え入って、外は静まり返っておりました。 サヨミはキッチン・スタジオの後片付けをして、床にモップを掛けておりました。今日のレシピはすみれ香る白雪の3種の苺コンポートでした。外の雨と人気講座だったせいもあり、いつもより床は汚れていて、拭き取るのに一苦労でした。一通りお掃除が終わったサヨミは手を洗い、美鈴先生がサヨリのために残してくれたコンポートを冷蔵庫から取り出しました。見ると、二つ折りのメモが添えられておりました。サヨミン、お誕生日おめでとう! いつもおそうじありがとう。お客さまがキッチンで愉しめるのも、サヨミンのおかげです。ハート。美鈴 サヨミはそっと目を閉じ…続きを読む
モノガタリ〜のアメージング☆レシピです1. 堕天使の羽を下ろす2. 人間の足ストッキングを脱ぐ3. 北限すみれの蜂蜜風呂に入る4. よい夢をみる5. さぁ、書くぞ…続きを読む
薔薇園に咲くクリスマスローズ、別名ニゲル。薔薇園に咲き、ローズと云う愛称を持つにもかかわらず、この花は薔薇ではないのである。ああ、クリスマスの可愛らしい薔薇よ。お前はその可愛らしさが故に、花の女王薔薇のつく異名を勝ちとったのである。可愛らしい風貌に隠した野望よ。それもまた、可愛いではないか。 わたしは、書斎に置いた山小屋風アルコールランプの灯りで、分厚い植物図鑑をめくりながら、ため息をつきました。この人里離れた別荘には、もう何年も来客はなかった。ただこうやって静寂の時を独りで愉しむ永遠の時が流れているだけなのでした。 トゥルルルル。 そのとき、長い静寂を破って電話が鳴りました。「ご主…続きを読む
生まれは鬼ヶ島、名は寅次郎。人呼んで、節分の寅さんと申します。 今年は年男の寅さんでありますが、成田山新勝寺でさえも、豆まきはたったの1分。まだまだ吾輩の暴れまする余力が残ってざんすよねえ。とはいえ、渡る世間は鬼ばかり、じゃなくて、旅は道連れ世は情け。そちら様がオミクロンで右往左往しておりまするご時世、鬼も自粛でありまする。いつも思いっきり豆を投げられては痛い思いをして鬼もつらいのでござんす。妹のさくらが今年はうっかりお豆さんを買い忘れて、あわててコンビニエンスストアへ買いにと走りさんしましたが、お生憎と売り切れざんした。鬼としては助かったというところでござんす。今後ともに、お手柔らかにお…続きを読む
その日はクリスタル・ムーンでした。青子は竹橋の地下鉄の風に背中を押されて階段を駆け上がってゆきました。皇居前の少し薄暗い外苑通りをちょっと遅刻して急ぎ足で歩いていておりますと、街灯がちかっちかっと瞬いているところがありました。少し薄暗がりで怖いな、と思っておりますと、後ろから、「青子~」という声が聞えてまいりました。 青子が振り向くと、ダボっとしたグレーのパーカーにチノパンのひょろっとした男が手を挙げて追いかけてまいりました。誰だったかな? その日は10年ぶりの高校の同窓会でしたので、誰なのか記憶が蘇ってこないのでした。 追いついた男の顔を見た青子はびっくりしました。こんな人、同窓生に…続きを読む