園生 七草(そのみ ななくさ)と申します🌿
スタッフ様オススメに掲載していただきました。本当に有難うございます。
感謝の気持ちでいっぱいです
9/13 『迄』
https://monogatary.com/story/272439
10/11『ささくれとネクタイ』
https://monogatary.com/story/289613
11/22『錦上花を添える』
https://monogatary.com/story/305316
1/24 『お届け物です、受け取らないで下さい。』
https://monogatary.com/story/334496
5/30 『日曜日にワインレッドと。』
https://monogatary.com/story/373549
『迄』
船猫様に挿絵を描いていただきました。柔らかな色合いがとても素敵な作品です
本当に有難うございます☺️
収穫されるまでは、傷一つ浮かばないように一律大事に扱われていたものたちが、袋詰めされる段階に入ると、品質のいいものと悪いものとで分けられるあたりが、私達人間と似通っていて、私はどうもその事実を知ると鳥肌が立つのだ。 私の視界に入っているのは、陳列している野菜だった。八百屋を営んでいるからして、そこに薩摩芋、里芋、大根、人参、蓮根などの秋野菜が座っているのは、何らおかしな事ではない。 深緑の南瓜は、夏期に収穫されてすぐ食べる場合と、時間を置いて秋から冬にかけて食べる場合と二つある少しまどろっこしい野菜である。そのような南瓜の近頃の売れ行きは、私が纏った羽織の品質から、見て伺えるもの…続きを読む
林田陸人は、何ものかの生まれ変わりかもしれない。 何ものかがあやふやであるのは仕方がない話なのである。例えば、足が早いから前世は馬だったかもしれないし、或いは、文才に長けていたから、何時の時代か、名を馳せた著名人かもしれない。鼻筋は彫刻のように整っていて、瞳は海のように澄んでいるのだから、やはりランウェイを歩いたトップモデルだったかもしれない。 彼奴は、どこに照明を当てれば良いのかが定まらないほど、どこに照明を当てても良い男であった。 カーテンの隙間から入ってくる光が、天井に小さな灯りを作っている。俺が佇んでいる放課後の空き教室は、あと少しで夕焼けに染まるだろう。 暗くなる前…続きを読む
カーテンで閉ざされた部屋の中は、何が出てきても言い訳できそうにないほど暗く、まるで土の中だ。唯一の明かりである豆電球は、荷が重いと嘆く様子で、か細い光を散らしている。 "あなたを一言で表してください" 私の十九年間は、一言で表わせるものなのか。昨日のこと、細長い机に二人の男性と一人の女性が腰を下ろして、少し距離を置いたところに座った私は、まるで虫籠の中で息絶え絶えの珍しい虫にでもなった気分だった。虫眼鏡越しに四方八方から観察されて、一挙手一投足がこの虫の生態なのだと決めつけられるような気がして、むやみに呼吸さえ出来ない私は、鼻と口のどちらで息をしていたかさえ忘れてし…続きを読む
蓋の中の彩りは、あの人の為に張り切って作るお弁当にだって叶いそうにない。「なんて、贅沢な…」 仕事場から五分のスーパーに並べてあったのは、五百六十円の海苔弁当。五十円引きのシールが貼ってあるから、実質、五百十円である。きつね色が食欲をそそる、好物の白身魚のフライが嬉しい。自分で作らなくても出来ているのがもっと嬉しい。━━━今日は夫が会社の飲み会で居ない。 プシュッと泡が弾ける。 そう言えば、久しぶりのビールだ。夫が冷蔵庫に溜め込んでいるのを勝手に拝借したそれは、キンキンに冷えていて、おつまみ用に買っておいたピーナッツともナイスなコンビネーション。カリカリっ、ぐびっ。「あ~…続きを読む
サンタクロースは年中無休らしい。 というのもここ数ヶ月、決まって家の玄関のドアノブに袋がかけられていて、その中を覗いてみては、あ、今日もサンタが。なんて、口角を上げてみたりするのだ。 洒落たドライフラワーのプレゼント。━━━贈り主を私は知っている。「お待たせ致しました。こちらが唐揚げ定食と、こちらが鯖の味噌煮定食です」 居心地の良かった田舎に背を向けて、上京してもう早二年が経つ。東京の真新しい景色も、ピカピカの靴のように新鮮だった気持ちも移りゆくのは早いものだ。 今日も今日とてパート先の定食屋さんには、作業着を着たおじさんや、やけに疲れきった主婦、慌ただしい子どもたち…続きを読む
「趣味は、生け花ですかね。」 昼食時に、何の気なしに問いかけた質問に対して、銀色のフレームを指で抑えながら、角のついた眉毛をピクリともせずに答える彼女に、私はひどく納得したのである。会社の後輩の佐々木さんというこの女性は、落ち着いていて冷静で、自分よりも二つ年下だと聞いて驚くほど大人びている上に、仕事が出来る完璧人間であった。 彼女の年齢から考えれば、随分と渋い趣味だけれど、さらっとこなしてしまいそうな器量を持ち合わせているのが佐々木さんという人物なのだ。 同僚たちは佐々木さんの事を、冷静すぎて取っ付きにくいといつの日か愚痴のように溢していた。確かに、はしゃいだり声を上げて笑う…続きを読む
私は喉から手が出るほど、爪が欲しかった。 けれども今こうして、自分のものよりも骨ばっていないような繊細な手の甲に触れていると、この決断は、なかなかどうして、間違っていなかったのだと思わないではいられない。 丸く硬い座布団に腰を下ろしている私の膝の上には、柔らかく、けれど奥底に骨を感じる程よい重さの尻が乗っていた。彼女は、時々身じろぎをして居心地悪そうに眉をひそめて呟いた。「あなたの足首の骨が痛いわ」 私と彼女の目線の下には、臍当たりまでの高さにある机が鎮座していて、その上には、切りっぱなしの白い和紙と、燃えるような赤の万年筆(いつ頃か彼女にもらったものだった)、真逆に血色を感…続きを読む
男と女を乗せた質素な作りの小船は、まるで絵の具を溶かしたかのような青い小川を、流れていないのではないか、そう錯覚するほどゆっくりと進んでいくものだ。 けれど、その光景に不思議な点があるとすれば、嘘っぱちのような小川にはいくつもの物が浮かんでいて、それは褪せた革財布だったり、見た事もない硬貨だったり、きらびやかな絹であったりする。 足元に短気な性格を隠しきれない男は、細かな貧乏ゆすりをしながら、それらを見逃さぬように神経を尖らせたままずっと眉間に皺を寄せている。 アア、これでもないか。 男は西洋で造られたであろう鏡を手にして、その触り心地をじっくりと肌に馴染むまで確かめた。合金で…続きを読む
目を覚ましたばかりの私に襲いかかったのは猛烈な蒸し暑さでした。瞳に入り込んできた汗が滲みて、瞬きを繰り返しながら、着ていた服の袖でそれらを拭おうとしてハッとしたのです。そうか、晴敏の上着を着ていたからこんなに汗をかいてしまったのか。 下に着ていた薄い半袖とは相反して、裏起毛の上着を上から纏っていた私は、酷く体温調節が苦手な男のように見えるでしょう。 日が差し込む縁側からは何の種類か、延々と喚くように鳥が鳴いていて、私は何故だかその鳴き声が耳の中で木霊するのを安心するようにして瞳を閉じました。 首筋を流れる汗に気づかないふりをして、ふうっと息を吐けばもう一度深い眠りに誘われたのです…続きを読む
まな板の上で小気味よい音を味付けに、切りそろえられた緑野菜は見るからに瑞々しい。鍋やフライパンから溢れる熱気で赤くなった頬を釣り上げて、時折小さな鼻歌を溢しながら、慣れた手つきで野菜を刻んでいく。入り口を飾る『いなかむすめ』とだけ書いた看板は、もう少し剥がれていて、けれどその古めかしい雰囲気も何故か嫌ではなかったから、私はそのまま塗り替えないことにした。一人で切り盛りする小さな食堂は、最初の方こそ、若い女の子が一人でなんて、そうやって陰口を叩かれたりしたけれど、今は━━━━。ちらっと見渡した店内は老若男女で賑わっていて、そのどれもが心地よさそうにくつろいで、ともに食事を囲む人…続きを読む