今日は高校の卒業式。写真を取り合う生徒たちでざわめく校庭。あちこちで沸き起こる歓声。「周!」「お、リコ。おめでとさん」「ちょっと、話があるんだけど、向こうに、いい?」「え?いいけど…」「…じゃあ、・・・この辺で」「うん?」「周。…私、周の事、好きだった」「・・・は?え?だって、リコ、明人と付き合ってんじゃねぇの?」「は?何それ?何で私が明人と?」「え?何でって、明人がリコに告白したって、聞いたし」「あぁ、それは…うん。された」「だから、付き合ってんのかと…」「いや、告白されたはされたけど!オッケーはしてないから!」「え?何で?バスケ部の部長同士で、めっちゃ仲良か…続きを読む
「あれ、雅ちゃん。雅ちゃんも涼みにきたの?」 軽やかなその声に、心臓がトクンと小さく震える。「・・・うん、そう。健太さんも?」ゆっくり振り返ると私は微笑んだ。もう一年も前の事だが。雅は健太に二年近く片想いをしていた。始めて、雅が心の底から好きになった人だった。始めて、恋は苦しいと思わせた人でもあった。健太は、雅の姉の夫だった。「雅ちゃんは今日の主役なんだから、早く戻らないと駄目だよ?」爽やかにほほ笑む健太に、雅の心臓が再び震えた。胸の奥がきゅっと苦しくなる。今は、雅の結婚式の二次会の最中だというのに。地下一階の二次会会場は沢山の人でごった返していた。お酒のせい…続きを読む
美人でモテても、何の意味もない!その日、サナは大泣きしながら戦闘モードに突入した。 「あ、サナ。おはよ」駅のホーム。背後からするアラタの声に、サナの胸がぶわっと熱くなる。「あぁ、アラタ。偶然」 沸き立つ気持ちと裏腹に、ゆっくり振り返るとサナは答えた。 偶然ではなかった。偶然にみせかけて、会えるように時間を計算していた。もうずっと。大学に入ってからこの二年近く、アラタと駅で会えるように、サナは計算していた。 サナとアラタは幼馴染だった。家が隣の隣。小学校、中学校は地域の公立校に通ったので当然一緒だった。 高校も中堅レベルの近場の公立校で一緒。そしてなんと大学も、サナが…続きを読む
恋愛と結婚って、やっぱり別物なんだな…世間一般でよく言われるその言葉を、ユウはしみじみ噛みしめていた。夫のハルタとは大学時代に知り合い、数年の交際を得て共に二十八歳の時に結婚した。今は時代の流れでどちらもテレワークだが、共に正社員として頑張って働いている。今年三十歳になったのを機に、三十五年ローンを組んで新築の一軒家を購入したばかりだった。義実家との仲も良好で、ユウは自分たちは一般的な普通の夫婦だと思っていた。しかし… ハルタのジャケットをクリーニングに出そうとポケットに手を入れたユウは、くしゃくしゃに丸められた小さな紙を見つけた。 流行りの腕時計のレシートだった。金額は…続きを読む
ずっとずっと、ケイタが好きだったよ。物心ついた時からいつも一緒にいたね。幼馴染のいとこだから。幼稚園から帰った後はいつも二人で遊んでたよね。山形の自然の中や実家の桃畑を、たくさん駆け回ってさ。冬場は「さむくない?」って心配していつも手を繋いでくれた。ケイタのポケットの中で、手を繋いだこともあったね。遊びつかれて、ケイタのおうちで一緒に昼寝しちゃったこともあったっけ。私、ケイタの背中にもたれて眠っちゃったんだよね。「大きくなったら結婚しようね!」って、何度も約束したね。 中学生になって、お互いを異性として意識しだして、ちょっと疎遠になった時期もあったけど。 高校生になって、…続きを読む
・毎日「おはようライン」と「おやすみライン」をする事。互いに忙しいだろうから、トークは無くてもいいので、挨拶だけは必ずする事。スタンプだけでももちろんOK。・土日のどちらかでいいので、ビデオ通話する事。・月に二度はマナがケイタに会いに行くので、ケイタはデートプランを立てる事。これは、ケイタがマナと縁距離恋愛になる時に決めた三つの約束だ。二人は東京にある大手ペット関連企業のA社で出会い、交際を始めた。そして順調な交際が続き二年が過ぎた時、ケイタは家庭の事情で実家の桃農家を継ぐ為に、実家に帰る事になった。その為に二人の交際は遠距離恋愛になった。離れての恋愛に不安が無かったと言えば嘘に…続きを読む
「はあぁぁぁ…」 大学四年生になり、ため息交じりにネイルを落とした瞬間から、マナの就職活動は始まった。 ネイルをしているからといって派手な見た目や性格ではない。マナはごく普通の、むしろ少し奥手な位の女子大生だ。 服そうは露出控えめなカットソーにフレアスカート。ヘアスタイルも一般的な黒髪ストレート。 唯一、オシャレと言えるのがネイルだった。つやつやに光る指先を見ているだけで気分があがるネイルは、マナの大事な趣味なのだ。始めはサロンでの施術だったが、高額なため、マナは思い切ってネイルセットを購入した。自分であれこれデザインする時間は至福の喜びだった。でも、それも当分はおあずけ…続きを読む
「はあぁぁぁ…」 大学四年生になり、ため息交じりにネイルを落とした瞬間から、マナの就職活動は始まった。 ネイルをしているからといって派手な見た目や性格ではない。マナはごく普通の、むしろ少し奥手な位の女子大生だ。 服そうは露出控えめなカットソーにフレアスカート。ヘアスタイルも一般的な黒髪ストレート。 唯一、オシャレと言えるのがネイルだった。つやつやに光る指先を見ているだけで気分があがるネイルは、マナの大事な趣味なのだ。始めはサロンでの施術だったが、高額なため、マナは思い切ってネイルセットを購入した。自分であれこれデザインする時間は至福の喜びだった。でも、それも当分はおあずけ…続きを読む
きらきらにひかる、彼女を見た瞬間、セイタは恋に落ちた。 小さなカメラマン事務所でアシスタントとして働くセイタは、その日、代々木公園へ向かっていた。「プロが撮る公園ファミリーフォト」いうイベントで撮影する為だ。 下っ端のセイタには使える社有車なんてない。 交通手段はもっぱら電車だった。重い機材を背負いながら千代田線の代々木公園に降りると改札を抜け、セイタは急ぎ足で公園に向かっていたその途中のさまざまな店舗が所狭しと並ぶ大通りに、ぽつんと小さな花屋があった。店先には、バケツに入れられた色とりどりの切り花や、いくつもの小さな鉢植えが並べられている。撮影の小道具にいいかも…そ…続きを読む
「やっと…、見つけた…!!」「…え?」 聞き返して「あ、駄目だ」と思う。今は英会話の時間なのだから。 ホワット?が正解だ。 慌てて言いなおそうとすると、彼女は言った。「見つけた、私の、デスティニー」 そして驚いたことに、彼女は俺に抱き着いてきたのだった。 その日、勤務先の英会話教室で、俺は体験レッスンの生徒を担当した。 加山シノという高校一年生だ。 やや垂れ目のおとなしそうな顔立ちに、肩で揺れるセミロング。 その髪の艶やかさが若さを物語っている。 女子高校生。四十歳目前の毎日くたびれ気味のおやじの俺には、ちょっと苦手な部類の年齢だった。 どうぞお手柔らかに、…続きを読む