午後1時を示す時計の秒針を目で追う間に隣から惚けた声がした。上半身のみ起こしてこたつから抜けようとしない彼女は俺と同じ今日一日は家で過ごそうが目的。新年に心機一転とか言って二人ともバカになるらしい。普段ヒートアップさせて稼働する脳を休めるたまの日がおかしいくらい眠くなる気持ちはわかるけど彼女の睡眠への愛情の量は想像を飛び越えている。あくびを噛み殺して浮かんだ涙を拭うと楽し気な目をした。「早起きしなきゃならない日と思って違った日の二度寝が一番好き。ねえ起きてたの?てっきり同じと思ってたのに」「俺はお前と違って今日一日寝るんじゃなく有意義に過ごすと決めてるからな」「何が違うの」人の有意…続きを読む
今日ようやく引っ張り出したベージュのロングコートに手を突っ込んでマフラーまで巻いているというのに乾いた風がひとたび頬をなぜるだけで寒い。灯火みたいな色をした街灯が暗闇をぽつぽつ照らしていくのを横目に、はるか前を行く背中に白くひかる息を吹きかけた。「歩くのはやいよ」「普通だよ。お前こそそんな眠くなるみたいな歩き方してたらどんな目に合うか知れない」振り返った彼は赤い鼻先をすすって小走りにこちらへやって来た。もう真夜中だというのに元気だ。同じくらいの仕事をこなしているはずなのに根本的な何かが違うらしい。ため息。ちょっとふざけてる意味合いを込めて彼が眉を潜めた。「止せよ幸せが逃げる」…続きを読む