「ごめんね、俺いかなきゃ」貴方はそう言って私の額に優しくキスしたの。ああ、思い出す。そう、秋の、紅葉のなかで私達は別れたの。ああ、でも別れたってそういう意味じゃないの。お互い愛し合っていたけれど、理由があって遠く離れてしまった。今日みたいな日だった。ね。「歩夢、調子はどうなの?」病室のベッドに横になった歩夢に私は問いかけた。「うん、今日はいいよ。琥珀がいてくれてるからね」彼の言葉に私は鼓動を早まらせた。「琥珀、今日もありがとう。でも大丈夫?昨日残業で夜遅かったんだろう?」「平気、今日もちょー元気」「ならよかった」ニコッと笑った彼の顔は以前よりもやせ細っていた。…続きを読む
今日、地球に大きな隕石が落下する。人類は絶滅するのだ。友達も、最後は皆家族といるらしい。やっぱり最期は家族と一緒にいたいよね。今私の隣では右側に姉、左に兄がいる。家族も大切だけど、私はどうしても好きな人といたかった。私は勢いよく立って家を出た。「実ノ梨、どこへ行くの‼」姉が私を呼び止めようとしたが私は振り向かずに走った。町の体育館。以前彼が、『俺、体育館好きなんだ。皆で一緒に戦ったとこだから、思い出が詰まってるし』と言っていたのを思い出していた。家から体育館はそれなりに近い。私はもしかしたら彼が体育館にいるかもという淡い期待を持ちながら体育館に向かった。体育館の…続きを読む
「誰か、救急車を呼ぶんだ!」「今呼んだ!」「おい、意識はあるか!」「駄目だ。気絶している」私の目の前で、母が血を流して倒れている。横たわった母の横には、血が付着した車。買い物が終わって、家に向かっていた時だった。どうしてこうなったんだろう。そうだ、私が赤信号に気づかなくて、お母さんが私を・・・守ってくれたんだ。お母さんは病院に搬送された。でももう、駄目らしい。お父さんが私の背中をさすっていたが、そのお父さんの手は震えていた。お母さんがベッドに横になっている。お母さんは私とお父さんに気が付くと、微笑んだ。「恵奈が無事で良かった・・・」私はお母さんの言葉に涙が止ま…続きを読む
「行ってきます」そう言って家を出ようとした時だった。「こらー!!」母の怒った声が、玄関までとんできた。(私、何か悪い事したかな?)と少し冷や汗をかいてしまった。「晶、保育園行くから、着替えといてって言ったでしょ!」怒られたのは私じゃなくて弟の方だった。少し安心してから家を出た。学校から帰って「ただいま」リビングに上がった。「こらー!!」母の怒った声が、家中に響く。「統真、学校から帰ったら洗濯物出してって言ったでしょ!体操服何で洗濯籠に出してないの!」怒られたのは弟だった。少しほっとした。日常風景。平和な毎日。母が怒鳴ると冷や汗をかいてしまうけれど、母が怒っ…続きを読む
2時間目、身体測定。明日の用意をしながら連絡帳を見るとそう書いてある。「はあ」ついため息が出てしまう。私は身長は145㎝。私以外の子は皆145センチなんてとっくにこえている。親友の茜はもう155㎝。以前二人で休日遊びに行ったときも、偶然にもクラスの男子に合って「お前ら姉妹かよー」と馬鹿にされた。茜は「気にしなくていいからね」と慰めてくれた。けれど、それさえも皮肉に感じてしまった。学校の用意が終わってリビングに行ってテレビを見ようとしたところ、母に「小雪、スーパーでこれ買ってきて」とメモと財布、エコバックを渡された。行きたくなかったけど、断れない。お母さんは…続きを読む
『おばあちゃん、綺麗な音だね。ピアノって、綺麗な楽器だね』『そうでしょう?おばあちゃんもピアノ大好きなの』『ねえ、おばあちゃん。私もいつか、ピアノでおばあちゃんみたいに素敵な曲弾けるようになれるかな』『芽久琉ちゃんなら、きっとできるわよ』『私が弾けるようになったら、聞いてね』『もちろん』私が4歳の頃、祖母とした小さな約束。その約束は、叶えることが出来ずに終わった。運命には逆らえないものだ。祖母は翌年、私が5歳になったばかりの時に肺炎で他界した。信じられなかった。信じたくなかった。私は毎日、目が腫れるほど泣いた。両親は仕事で忙しかった。姉はピアノにも私にも興味なんてなかっ…続きを読む
私の通っている学校は全校47人のとても人数が少ない田舎の学校だ。家から学校はそれなりに離れているから、バスで登下校をしている。「いってらっしゃい」母は洗濯物をたたみながら言った。「いってきます」靴を履きながら、愛想無く一言。傘を持って外へ出ると、雨は結構降っていた。バンっと勢いよく傘を開いてバス停まで歩く。バスはすぐにきた。傘をたたんでバスに乗る。「お願いします」挨拶をしてバスに乗り降りするのは、通学班で決まっているルールだ。他の家にも回っていきながら、バスに揺られて15分くらい。ようやく学校についた。玄関ホールには、いつも通り友達が待っていた。「おはよ」「おは」…続きを読む
僕は無力だ。人を励ましてあげることも上手く出来ない。何もできない。「高原君・・・だっけ?どうしていつもそんなに悲しい顔してるの?」ある日、同じクラスの女子が話しかけてきた。「私、上村 美花。良かったら、教えて?」彼女は太陽のように明るい人だった。僕はなぜか、彼女に今までの事を語っていた。「僕は小さい頃から仲良しだった親友がいたんだ。彼は小学校の頃、地域の剣道スポーツ少年団に所属していた。低学年の頃は剣道がある日をとても楽しみにしていて、目を輝かせて「早く、早くやりたいな」って毎日言ってたよ。僕は習い事とかしていなかったからあまりその気持ちがわからなかったけど「剣道、好きな…続きを読む