近所に古いトンネルがある。近くに新しいトンネルができて、今ではもう何年も使われていない。そしてやがて、知る人ぞ知る心霊スポットになった。すごくベタだけど、トンネルの真ん中でライトを消してクラクションを3回、その後ライトを点けるとトンネルの出口に女性が現れるというもので、まだ大学生だった私は友達と2人で行ってみることにした。夜中の2時、トンネルの前に着くと友達がガクガク震えだして『ここは本当にやめた方がいい気がする……』と言い出した。なにを今更。ここまで来たのに。しかし、友達はどれだけ説得してもトンネルに入りたがらなかったので、私一人でトンネルに入ることにした。正直、幽霊なんて信じて…続きを読む
恥ずかしながら、『私小説』という言葉を初めて目にした。Wikipediaで調べてみたら、『私小説は、日本の近代小説に見られた、作者が直接に経験したことがらを素材にして、ほぼそのまま書かれた小説』のことらしい。つまり、又吉先生の『火花』や、リリーフランキー先生の『東京タワー』などの自伝的要素の入った物がこれに該当するのだろうか。某楽曲に歌われているような、一切合切凡庸な私の私小説、まったく面白い話になる気がしない。あまり人が経験していなさそうなエピソードと言ったら、高校時代に空手の関東大会で二連覇した事、それがきっかけで裏番を張ってた時期がある事、某番組でさんま師匠とトークした事、運…続きを読む
俺は今、京都にいる。高校最後の修学旅行も明日で最終日。しかし、風呂から部屋への廊下で独り、気分はかなり沈んでいる。片想い中の彼女に告白出来ずにいるからだ。絶対に修学旅行中に告白すると決めて、あんなに妄想……いや、シミュレーションをしたのに、肝心なところで意気地が無いんだよなぁ俺って。「はぁ、結局告白できなかったかぁ。人生うまくいかないなぁ。」とぼとぼ歩きながら、ため息と共に小さく吐き出した。『……誰に?』突然後ろから声をかけられて慌てて振り向く。そこには彼女が立っていた。頭が真っ白になって言葉が出ないでいると、『ねえ、誰に告白しようとしてたの?』無邪気な笑顔…続きを読む
僕の名前はペリー。船乗りをしてる17歳。1853年7月、今僕は、とある異国の地へと向かう船の乗組員として真っ黒い艦隊に乗っている。今向かっている異国の地・ジパングは、他国との国交を絶っているらしい。交渉役の司令官はめちゃくちゃ偉い人らしいけど、俺みたいな下っ端は会ったこともないし名前も知らない。しばらくして、上司から声を掛けられた。どうやらジパングに着いたらしい。船と港をロープで固定してこいって言われた。本当に人使いが荒い。仕方ないからロープを持って船を降りる。ふう、ここがジパングか。ん?なんだ?なんで男性は黒いズッキーニを頭に乗っけてるんだ?しかも皆サムライソードを持ってるじ…続きを読む
ジャーナリストの香純は、最先端のAIロボットの取材でとある研究所に来ていた。今回は3日間かけて取材をする予定だ。入口のインターホンを押すと、白衣姿の爽やかな男性が迎えてくれた。男は桐谷と名乗った。中に案内されると、椅子に誰か座っている。最新のAIロボットで『アダム』という名前だと桐谷は説明した。凄い。ほとんど人間の男性と見分けがつかない。『はじめまして、よろしくお願いします』とアダムが喋る。なんとも自然で耳触りの良い声だった。「これは……すごいですね。」「そうでしょう。《不気味の谷》と呼ばれる、人々が抱く嫌悪感を克服した初のAIロボットです。」なるほど確かに、人間そっくりの…続きを読む
栃木県小山市、某所。うちの庭にある大きな岩には、選ばれた者にしか抜けない大きな剣が刺さっている。人間の負の感情に取り憑き、持ち主の正気を奪う魔剣らしい。禍々しい何かが出ているのか、その魔剣の周囲だけ、雑草一つ生えていない。しかし、真の勇者が手にすると、魔王の闇を打ち払う聖剣へと姿を変えるのだそうだ。魔王なんかいない現代の日本。うちの庭は観光名所になっていた。休日ともなると、たくさんの人が魔剣を観に来ては写真を撮っていく。岩に刺さった剣が抜けるか挑戦する者も結構いて、1回1,000円いただいている。あと、道の駅とかサービスエリアで売ってる小さな剣のキーホルダー、あれも売り始めた。中学生…続きを読む
私の母は既に他界しており、今は資産家の父と二人で暮らしている。父は最近体調が思わしくなく、ずっと寝たきりだし痴呆も進んできている。今は二人で暮らしているが、私には弟がいた。父の体調が悪くなってきた数年前から行方不明になっている。警察が大規模な捜索をしているが、いまだ見付かっていない。もう見付からないだろうと思っていたある日の晩、突然インターホンが鳴る。こんな時間に誰だろうと思い玄関を開けると一人の男性が立っていた。「ただいま」とその男性は言った。そんなはずはなかった。確かに年齢も同じくらいで顔も雰囲気も似ているが。「そんなはずないわ。なにか身分を証明するものを見せて!」『姉ちゃ…続きを読む
もう最後だっていうのに遅過ぎるわよ。あなたにはもっと早く出会いたかった。コース料理の最後の最後でこんな凄いケーキが出てくるなんて。まったくウェイターも、こんなのが控えてるなら言っときなさいよ。流石にもう満腹だわ。私、好きな物は先に食べる派なのに。しかもこのケーキ、メインで食べた肉よりデカいじゃない。……いやまあ、食べるんだけどね。甘いものは別腹だし。はあ、、んまぁい。やっぱり出会いに遅いも早いも無いわね。恋愛もケーキも一緒。必然的にベストなタイミングで巡り逢うように出来てるんだわ。…続きを読む
初めて会った日から、左手の薬指の指輪には気付いてた。好きになっちゃダメだって解ってた。でも止められなかった。もしかしたら私のところに……と、起こりもしない奇跡を夢見てた。抱き締めていても、抱き締め合ってはいない。その度に決定的な温度差を思い知る。それでもズルくて優しいあなた。体を重ねる度に唇で嘘を重ねる。「好きだよ。」「愛してるよ。」全部うそ。もっと早く出会えていたら、都合のいい女じゃなくて、ちゃんと愛してもらえたのかな……。…続きを読む