火曜日の放課後。夕日が差す教室で1人、委員会に行っている幼なじみを待つ。外からは運動部のかけ声と、吹奏楽部の楽器の音が聴こえる。私はこの時間が好きだ。誰もいない教室で、綺麗な夕日を眺められるから。遠くから聴こえる音が、心地良いから。良い意味で、自分がこの世界から浮いているような感覚になる。初夏は特に最高だ。窓から涼しい風が入ってくるし、鳥の声だって聴こえてくる。機嫌が良い日は小声で歌ったりもする。端っこの教室だから誰も来ないんだ。「あれ、菅野。まだ残ってたのか」「友達待ってまーす」荷物を取りに来た担任に、間延びした声で答える。「ああ委員会か。遅くならない…続きを読む
お腹の調子が悪い時体調が悪い時あまり時間をかけて料理したくない時ぜひ卵雑炊を作ってみてください。本当に美味しいので。まず材料ですね。・みりん(大さじ2) ・醤油(大さじ1)・和風顆粒だし(いつも目分量でやってるんで適当なんですけど、たぶん小さじ2くらい)・砂糖(小さじ1くらい) ・水(200cc)・冷凍ご飯(大食いなのでお茶碗2杯分)・卵(2個)本当に大雑把なタイプなので、ところどころ適当なのはお許しください。次に手順です。1.お鍋に水、みりん、醤油、砂糖、和風顆粒だしをぶっこみます。2.ぷくぷくし始めたら冷凍ご飯をぶっこみます。3.ご飯が完全…続きを読む
「いただきます・・・」「めしあがれ」その言葉を合図に、私は彼の首筋を食む。八重歯が柔い肌を貫いて、口の中に広がる甘い味。彼の指が、私のうなじにある蝶の模様をするりと撫でる。「ふ・・・」口を離すと、紅い蜜が彼の肌を伝う。もったいないそう思って、男性にしては少し白い肌に舌を這わせる。ざらりとした感触に驚いたのか、彼の肩が跳ねた。「ん・・・ごちそうさま。・・・ごめんね」「謝らないでよ。人間が動物の肉を食べることと一緒なんだから。俺は、莉々の命を繋ぐ役割ができて嬉しいよ」頬を撫でる手の温もりは私には少し熱いくらいで、でもそれが気持ちよかった。「私、もう帰る…続きを読む
2月8日に誕生日を迎える私の推しへ初めてその姿を見たときは、「かっこいいなあ」、それだけでした。時間とともに、あなたの魅力に気付くようになりました。クールで強そうな見た目なのに、実は口下手で末っ子で語彙力が幼女レベルなところ少し癖のある黒髪お姉さん想いで、親友想いなところ水のような動きちょっと抜けてるところかわいい足音決して人の悪口を言わないところ深海のような深い紺の瞳動物が苦手なところ小さな口思っていたより足が遅いところ自分より他人を優先してしまうところ最後の最後に見せてくれた笑顔あなたの全部が大好きです。最後、1人で…続きを読む
「美咲。良い?」「うん」その言葉が、私たちの夜の合図。遥樹の大きな掌が、私の頬を撫でる。親指が唇を掠めるけれど、彼が口づけるのは私の瞳。『口にはキスをしない』それが私と遥樹の約束だった。私たちは、唇同士を合わせる関係ではないから。「ふふ、かわい」同じ言葉を、2年前にも聞いた気がする。この関係を始めた日に。あの日も酔ってたんだよな、遥樹。酔いが醒めても覚えてるタイプなんだよね。だから、「責任取る」なんて言って、好きでもない女をこうやって抱いてるの。唇が首筋をたどって降りていく。こういうの本当はベッドが良いんだけど、酔ってる時はダイニングで始めちゃうのが…続きを読む
「お母さん、”ぐんゆーかっきょ”ってなに?」お昼が終わってリビングで勉強していた小4の娘が、突然難しい言葉を聞いてきた。「え、あんたそんな難しい言葉どこで知ったの」「四字熟語の意味を調べる宿題に書いてあった」あー、宿題か。このコロナ禍で、娘の通う小学校は分散登校になっている。今週は配布されたiPadでオンライン授業なので、お昼休みの時間に宿題をやっているのだ。「辞書読んだけどむずかしくて」「んー、そうねー。大雑把に言うと、力を持った人が争っている、みたいな」「たとえば?」「運動会とか・・・?」「ふうん。なんとなくわかった気がする。ありがとう」最近の小…続きを読む
僕の住む星には空気が無い。この星に住む人たちは空気が無くても生きていける身体だから、苦しくなることはないんだ。今日は家族みんなで地球まで旅行に来た。地球は、僕たちの星にはないものをたくさん持っている。”ミズ”とか、”ハナ”とか。自然が作る色ってこんなに綺麗なんだなあって、地球の勉強をしたときに思ったんだ。僕が住む星は、電気とか、コンクリートとか、人工的なものしかないから。こんなに素敵な星に住んでいるんだから、地球の人たちは幸せ者だなあ。早く地球に着かないかな。そんなことを思いながら、僕は宇宙船に揺られていた。「着いたぞ」いつの間にか眠っていたようで、お父さん…続きを読む
会社の地下にある資料室。俺の目の前には、少し不機嫌そうな顔をした幼馴染の同僚。「一週間前、私が風邪で休んだ日、お見舞いに来てくれてありがとう」「ああ、うん。まあ幼馴染だし、家近いし」彼女はなんだか納得いっていないような表情で、俺の顔を覗き込む。「・・・・・なんだよ」「隠してることあるでしょ、私に」マズいそう感じた。「ないよ、そんなの」「うそ。私わかってるの、あの日あなたがしたこと」「・・・は」「あなたがキスをしてきたとき、私、起きてたの」終わった、と思った。そう、俺はお見舞いに行ったとき、寝ているであろう彼女にキスをした。…続きを読む
「久しぶりですね。先輩」草木ももう眠っているであろう午前0時。暗い住宅街にぽつぽつと灯った蛍光灯の下。仕事帰りの俺の目の前には、大学のサークルで知り合った後輩。「お前、それ・・・」彼女の左手の薬指には、きらりと光るリング。「ああ、そういえば言ってなかったですね。プロポーズされたんですよ、少し前、同じ職場の方に。その時もらったやつです」「・・・結婚するのか?」「んー。まあ、そうですよね、指輪受け取ってますし」彼女は何でもないように言う。「先輩はまだなんですね。結構モテると思ってたのに」「・・・特定の相手作ってる暇がないんだよ、仕事忙しいから」そんなこ…続きを読む
困っている人を助けたいその一心で、心理学の道に進んだ。人の心に寄り添いたいその方法を知りたくて、必死に勉強した。それなのに、こうやって勉強している間にも、一人、また一人と零れ落ちていく。ニュースを見ている私は結局ただの部外者で、苦しむ人を救う救世主にはまだなれないのだ。力を持たない人間は無力だ。未曽有のウイルスが世界中に広まってから、そう思うことが多くなった。自分には何ができる?力を持つ人間は、言葉一つで大きなものを動かせるのに。力を持たない人間は、この「世界」という物語の中のエキストラなのだろうか。ただの部外者でいたくない。そう思っても、こ…続きを読む