教室に戻ると、先生は教壇で片付けをしていた。「あ、坂本さん」先生がこっちに気付いた。「どうしましたか、忘れ物ですか?」「そうなんですよ」生徒が皆帰った時間に戻ってくるなんて、忘れ物しか説明がつかないだろう。だからこそ、一旦教室を出るときにわざわざ忘れ物をしておいた。自分の席に行き、忘れ物を取る。「先生は片付け中ですか?」「はい、それと明日の準備ですね」聞くまでもなく分かっていたことだけど、本題に入る前にどうでもいい日常会話をしたかった。「あ、今日やったことはちゃんと復習してくださいね。じゃないと忘れて行っちゃうので」先生は笑顔で言った。その笑顔…続きを読む
明日は、バレンタインか……。台所の換気扇の下でたばこの煙をくゆらせながら、俺は冷蔵庫の中のものに気付いた。昔から分かってしまうのだ。小学生の頃、バレンタインの日には普段よりも教室にチョコが多くあるという気配だけがなんとなく分かった。年々その気配は強くなり、6年生の頃には誰が持ってきているのかまで分かっていた。中学生になると、誰がいくつチョコを持って来ているのか分かるようになった。一つしか持ってきていない子は、おそらく本命しか持ってきていなかったのだろう。ただ、多くの子はいくつも持って来ていたので、義理チョコや友チョコを持ってきている子の方が多いと考えていた。実際、義理…続きを読む