メガアッタナヨンデイケ
「無所属れいでぃ」改め、
白月木子(しらづき・きこ)です。
■更新中
電話にまつわるエッセイ『白月木子の長電話』
https://monogatary.com/story/344566
宝石世界『この冠と、蓮の花』第二部(完)続編更新予定
https://monogatary.com/story/207486
未完結の物語『ジ・エルエンド』
https://monogatary.com/story/267262
「最低」から始まる物語『コピーアンドトースト』
https://monogatary.com/story/300200
■複数人でミステリ即興!
『アリバイエチュード』
https://monogatary.com/story/242847
■半咲という女、飼育。
…見つけた君にはイイコトアルヨ!
イツモアリガトウ
お母さんに内緒で天窓にステンドグラスをはった。クッキーが欲しくて遊びに行った教会の窓みたいに、社会科見学で見た博物館の天井みたいに、キラキラ光れば楽しいと思った。わたしたちには、あんな素敵な窓をつくる技術なんてなかった。わたしはまだ5歳で、お兄ちゃんはまだ7歳だった。 海で拾ったシーグラス、透明な折り紙、キャンディーの包み紙。とにかく透明でキラキラなものを集めて貼った。わたしたちが遊びに使わないように、お母さんが戸棚の奥にしまっていた超強力接着剤をこっそり出してきてくっつけた。 ちゃぶ台と椅子を重ねれば、わたしたちでも手が届く天窓。低い低い天窓。眩しい眩しい天窓。お兄ちゃんと二人で夢中で…続きを読む
「被告人は――」 BGMのように聞き流しながら、脳の暇を潰す。 ――思うに、神も失敗する。「――の罪状により」 ――その失敗を正すことを、「――」 ――悪と呼ぶか? ずらり、前方に並ぶ陪審員たちは、石にされるとばかりに怯んで目を合わせようとしない。「殺しちまえっ!」 後方から威勢の良い声が飛ぶ。振り向く気がないので顔は見えないが、その面はだいたい想像つく。酒で膨らました腹からゲップを出し、"最近の若者"とやらを嘆くオヤジのそれだ。 ――間違った世界の、間違った設計の人間たち。「ははっ」 心底ばかばかしくて、笑った。…続きを読む
横断歩道で立ち止まると、車のエンジン音の切れ間に蝉がうるさい。 私の体の中には、じめっとした東京特有の暑さへの苛立ちが閉じ込められており、加えて、空腹という正常な異常が内包されていた。 老舗の蕎麦屋の前を通る。出汁つゆの良い香りがする。しかし、高い。見なかったこと、あの芳しい香りなど知らなかったことにして通り過ぎる。 腹の音も何もかも夏にかき消されていた。 やはり蝉がうるさい。一匹ぐらい取って食っても誰も困らないだろう。駆除だ、駆除に近い。そのはずだ。夏の飯が蝉で賄えるならどれだけいいだろう。 考えてみて悲しくなる。昆虫食だ、未来だと言い訳をして、蝉を取って食う自分を想像して悲しく…続きを読む
「飼ってどのくらい経つの?」 その問いに「1年経ちます」と答えることが、実は苦手だ。 正確には10ヶ月だったり、11ヶ月だったり、11ヶ月と半月だったのに、相手にわかりやすいよう四捨五入してしまうのが嫌だった。 また、”経つ”という言葉にも違和を覚える。だって、それだとまるで。 かんかんかんかんかん。 彼が、水を飲みに起きてきた。まだ昼過ぎだから寝ぼけ眼。驚かせないようにそうっと近づいて、体を屈め、顔を横に倒してケージに寄せる。 彼には私がどう写っているのか想像してみるのだが、これはもう、捕食準備万全の巨人。建物内の生物に手を伸ばし口に放ってべきょべきょやるやつの絵面でしょう。…続きを読む
突然のお電話失礼いたします。わたくし、白月木子と申します。"しらづききこ"と読みます。"き"が連続するところなんか、本当に読みづらいですよね。わざとです。簡単に自己紹介させていただきます。生を受けて、およそ四半世紀(年齢をぼかす理由ってだいたい一つ)。数年間会社員をしておりましたが、現在は自営業をしながら細々と暮らしております。この度、電話にまつわるエッセイを連載することにいたしました。具体的に今考えているのは、電話のシーンが印象的な映画や小説のこと、電話にまつわる思い出、などです。しかしながら、エッセイはほとんど書いた経験がなく、(「エッセイ以外は経験豊富って言うのか…続きを読む
男はこの時期、窓を開けない。 午前7時。 ギュインギュインギュインキーン、ガガガガゴ。 建設工事をしているかのような音が轟く。 一度止む。「うえっ……うえっ、ぶしょー! どらーいっ……」 洗面所から、男のくしゃみ+αが聞こえてくる。 男とは、単に性を表す意ではなく、私の男――彼氏という意を含む。 私――男の女はまだベッドにいる。今日は出社だが、9時に家を出ればいいかと思っている。まだ、寝ていたいと思っている。 ギュインギュインギュインキーン、ガガガガゴ。 音が再開する。 うるさい。 布団を頭までかぶるがどうにもならない。 2分もすれば鳴り止むからと己に言い聞か…続きを読む
顔片面を埋めたまま、枕の下に放りっぱなしの体温計をまさぐる。爪を立て、ピッといつもの音がしたら、寝間着の襟から脇の下に差し込んで、私一時停止。 お腹痛い。 外から鳥の声がする。ここは東京。チュチュッ、チュチュッ、スズメかなんかのごくささやかな鳴き声だ。 お腹痛い。 少し体の向きを変えようとしたら、ドロっと、嫌な感じがした。寝間着のお尻のところを手でなでて確認する。漏れてはなかった。 ピピッ、ピピッ。体温計が鳴く。 脇の下から体温計を抜く。ようやく目を開ける。 34.8℃。「……まじかよ」 どうりでだるい。 お腹痛い。瞼重い。 寒い。生理用品を替えに行きたいけれど、もう少…続きを読む
地面、湿った土が砂っぽく変わり、勾配が一気に緩やかになる。「えい、お侍さん。あんた、お上りかい? それともお下りかい?」 侍が声をかけられたのはちょうど山道から町へ入るところであった。身なりの良くない男たちが三人、しゃがんで酒を煽っている。「ああ、ここより北の村から参った。お上りだ。あちらの山を"下って"来たばかりだがな」 侍の洒落に、飲んだくれの男三人がケタケタと笑う。「そうかい、そうかい。そんなお侍さんには親切に案内してやるがね――」 男の一人が、侍の前に手を出した。「通行料が必要だよ。おいらたちに渡しな」「いくらだ」「あるだけ出してみなよ。それから決めてやるからよ」…続きを読む