私には綺麗な繋がりしかなかった。 例えば、中学の頃の友達。 クラスがいっしょで、席が近かったから仲良くなった。無難な場所に遊びに行って、無難な話をした。卒業したら会う回数が減って、そのまま会わなくなった。最後まで仲は良かった。 例えば、高校の頃の彼氏。 文化祭の係が同じで、それから話すようになった。無難なデートをして、無難な会話をした。卒業したら遠距離になって、心の距離も物理的な距離も遠くなった。そのまま特に何もないまま、お互いに離れたままになることに合意した。 綺麗な繋がりは、綺麗に切れる。断面は真っ平らで、もう二度と繋がることはない。 私の両親を除いた人間関係は、3年周…続きを読む
1限を終えて講義棟を出た。空は薄い水色で、なんとなく秋を感じさせる風が吹いていた。木に付いている葉はまだ赤や黄には染まっておらず、私はなんとなくでしか秋を感じることが出来なかった。それでも、下がっていく気温や日に日に冷たくなっていく風に時の流れを感じた。 木曜日の午前中は2限の時間が空きコマだった。私はいつも、友達が2限を終えるまでの時間をカフェで潰している。今日もそのつもりで大学構内のカフェに向かった。 カフェの中に入ると、いつも空席だらけのカフェがほぼ満席だった。(嘘でしょ、どういうことなの……) 人混みが大の苦手な私は、そっと扉を開けてカフェを出ようとした。しかし、運が…続きを読む
深夜1時、俺はふらりと街へ出た。空には星が出ていたが、世界は深い闇に覆われていた。深夜とはよく言ったもので、本当に深い夜だった。午後7時や8時とは異なる、本物の夜の世界だった。 街はこんな時間でも賑わっていて、あちこちに光が浮かんでいた。そんなネオンサインに囲まれて街を歩いて行く。 数分歩いたところで俺は立ち止まった。上部が丸くなっている、ダークオークの扉。そんな扉とは対照的なモダンな建物。周囲に溶け込んだ光の装飾。俺の行きつけの場所だった。 扉を開けてすぐに地下へと続く階段が現れる。俺はやや重たい扉をゆっくりと閉めて階段を降りた。 辺りは暗く、注意して足を進めないと階段を踏み外して…続きを読む
いつからだろう。通り過ぎる女子を目で追うようになった。愛したいと思える女性を探すようになった。 日々がつまらなかったわけではない。ただ少し、甘酸っぱさが欠けていただけだ。 全く恋愛をしていなかったわけじゃない。女子とはある程度遊んでいたし、2人で遊ぶこともあった。それでも俺の日々には、甘酸っぱさが欠けていた。 彼女が欲しかった。寂しさを埋めてくれる何かがあれば、日々はもっと輝く。世界がもっと鮮やかに色づくはずだ。 いつからだろう。人を好きになることに妥協を始めたのは。愛せるだろうと思える女性を探すようになった。 日々がつまらなかったわけではない。ただ少し、感情が欠けていた。 全…続きを読む
世界から音が消えた。 ある日突然、誰の声も聞こえなくなった。私は、自分の耳がおかしくなったのかと思った。その時の私の顔はおそらく相当間抜けだっただろう。困惑し、おろおろと宙を見ながら声を発しようとする姿。しかし、周囲の反応を見て私はすぐに理解した。聞こえていないのは私だけではないと。 実際、声は出ているのだろうか?誰の声も聞こえないから確かめようがない。 私はある民族の姫で、人々は私に助けを求めた。声は聞こえなくとも、私に対して首を垂れる姿を見れば分かる。 姫とはいっても、何も特別な力など持っていない。ただ人々から崇められるだけ。何も出来ないし、特に何か特別なことをしているわけで…続きを読む
熱い太陽がギラギラと光帰り道、真っ青なほどの青空、汗はかくもののどこか気持ちの良い帰り道だった。今日は終業式だったため、私たち学生は午前中での下校となる。 私の隣を歩くのは、バレー部の後輩の男子だ。最寄駅が同じなこともあり、こうしていっしょに帰る日も多い。「ねぇ、明日から夏休みだよ。何か予定あるの?」 特に意図を持たずに尋ねた。「え!? 予定ですか?」 彼は思ったよりも大きな声を出した。「予定は、あることにはありますけど、空いてる日もあります!」 彼は頬を真っ赤にして答えた。この真夏の気候のせいだろうか?「へぇ、まぁ誰でも予定くらいはあるよね」「はい」「…続きを読む
窓の外は夏の夕方とは思えないほど真っ暗で、大きな音を立てて大量の雨粒が降り注いでいた。その一粒一粒は、粒としては視界に映らず、線として池に降り注いでいた。 私はというと、暗い部屋で一人天井を見上げていた。ぼーっと、何を考えるでもなく暗い壁を眺めていた。 私はただ待ち続けていた。雨が降ろうと、雷が鳴ろうと、電気が消えて部屋の温度が上がろうと、昨日からずっと待っていた。いつか来ると信じて、今も天井を眺めている。 何をしていても気が紛れない。ひょっとしたら、この豪雨と雷に私たちの繋がりは断たれてしまったのではないかと思う。一瞬不安になって、少し希望を持つ。もしこの豪雨で繋がりが断たれたので…続きを読む
私の中は、彼の熱でいっぱいだった。橙色の、温かみを持った色でいっぱいだった。 幾度となく身体に触れ、幾度となく口付けをした。どんな時も、私は彼から熱をもらっていた。 熱、言い回しはいくらでもある。例えば温もり。例えば体温。でも、今になって思い返すと、やっぱり熱という言葉が正解なんだとしみじみ思う。 彼で満たされていた私の身体は、彼がいなくなった途端に空っぽになる。空っぽになったのも束の間で、今度は青でいっぱいになる。冷たい、暗い青。透明な、見る人によっては綺麗な藍色で私はいっぱいだった。 透けて見えなかったのは多分、私だけ。私の瞳だけに、暗い煙のような紺が映し出される。 この紺…続きを読む
私はスイカ割りが嫌いだ。 私は、夏の日差しに照らされながらスイカのアイスを食べていた。空は明るい水色で、小さな雲がいくつか浮いている。 先日、友達と海に行った。夏休みに入ったばかりだというのに、田舎の海水浴場は人が少なかった。だからだろうか。「スイカ割りをしよう」 誰かが唐突にそう言い出したのだ。私も最初は賛成だった。こんなにも人が少なければ、誰かに迷惑をかけることもないし、危険もないだろう。海の家で1つだけ売っていたスイカを買って、各自が準備を始めた。5人の小学生と、その保護者が2人。準備はすぐに整った。 準備が整うと、次は誰から挑戦するかという話になった。みんな、自分が1…続きを読む
休日の昼、昼食を食べに少しオシャレなカフェに入った。今日は講義の休講が重なり、1日フリーになったのである。 カフェの内装は、白のペンキで塗られた木の壁に、いくつか飾られた観葉植物が印象的だった。個人的に、シンプルなこの内装は好きだった。橙色の優しい光が各テーブルの上に灯っている。 その中の1つに俺と友人は腰をかけた。「いいね、このオシャレな雰囲気。結構好きだわ」 友人はキョロキョロと、忙しなく店内を見回した。「うん。俺もこの店は気に入ったよ」「それでさ、今日この店に誘ったのは、この店、変なコンセプトのメニューがあるらしいんだよ」「へぇ、どんな?」 友人が言ったこと…続きを読む