何かのきっかけでふと思い出していただけるような、心に残るあたたかい文章を目指して小説やエッセイを執筆しています。好きなアーティストさんは、YOASOBIさんとSixTONESさんです。
noteでは、monogatary.comよりもゆるっと、日々のことや音楽のことを綴っていきます。
https://note.com/shinjuboshi0028
オススメ作品に掲載していただきました! ありがとうございます!!
『君との記憶を心に抱いて』https://monogatary.com/story/374108
彼女のことは、死ぬまで許せないと思います。 入院していた時の彼女は、目を離した隙に消えてしまいそうでした。 私は毎日、学校が終わると彼女のお見舞いに行っていました。学校での出来事、昨日のテレビの話、好きなゲームのこと。私の話を、彼女はいつも、笑顔で聴いてくれました。その笑顔が見たくて、私は来る日も来る日も病院に通いました。 あれは、夏休みのことでした。私は、その日も彼女の病室にいました。つんとした消毒液の匂いも感じないほど、私はそこに入り浸っていました。 毎日見ていると、ゆっくりとした変化には気づきにくいものですね。あの時の私は、彼女の笑顔意外、何も見ていませんでした。彼女の点滴…続きを読む
駅ビルの一角に設けられた、ハンドメイドアクセサリーの小さなショップ。「期間限定」という看板が出た、簡易的な店舗では、ひとりの若い女性が店番をしていた。「いらっしゃいませー。どれもハンドメイドの一点もののアクセサリーです。ぜひお手に取ってご覧くださーい」 彼女は、ミントグリーンのゆったりしたニットワンピースを着ていた。ネックストラップには、小さなクマのマスコットがぶら下がっている。 私は、ふと足を止めた。ひとつのネックレスに、視線が絡めとられたように釘付けになる。 小粒のパールと透明なビーズを連ねた、一円玉ほどの大きさの輪の中に揺れる、銀色の雪の結晶のチャーム。シンプルなのに、どことな…続きを読む
「ねえ、圭太って付き合ってる人いるの?」 あれは、六、七人ほどの男女グループでカラオケに行ったときのこと。 まだ大学生になったばかりだった私たちは、高校生の時とは違う解放感と高揚感に酔っていた。 派手に騒ぐそのグループの中で、彼は少し異質だった。私の隣の席で静かにオレンジジュースを飲んでいた圭太は、理知的で穏やかな雰囲気を醸していた。静かで、少し地味で、でも独特のおおらかさを持った、不思議な人。それが、第一印象だった。「香奈も歌おうよー!」「あ、ごめん。私、ちょっと喉の調子が悪いから、代わりに歌って」 適当に友達を誤魔化して、私は、彼と話していた。 軽い雑談の一部として恋人の存在…続きを読む
「ごめん、本当に、ごめん」 喫茶店に入ってから、彼は、この言葉ばかりを口にする。 私は、すっかりぬるくなったカフェオレを飲んだ。「やっぱり、どうしても諦められなくて、本当にごめん」「もういいよ。分かったから」「本当に、本当にごめん……!」 こんな時、「気にしないで。私のことはいいから、頑張ってね」 と言えない自分が、たまらなく嫌だ。 低い建物ばかりが並ぶ窓の外を眺める。この狭い町がバレンタイン色に染まっている中で、私は、三年にも満たない彼との思い出を、ぼんやりと振り返っていた。 彼とは、大学に入学した年の夏に、付き合い始めた。 たまたま取っている授業が重なることが多くて…続きを読む
「『愛』とはなんだ」 私の声に、それは答えた。「誰カヲ思イヤルコトデス」「それだけか」「誰カノコトヲ大事ニ思ウコトデス」「ふうん」 本当に、それだけなのか。 では、軽い気持ちで落とし物を拾うことも愛だ。 救急隊員や医者が患者を助けることも愛だ。 この定義では、世界は愛で溢れすぎている。 もっと学習させなければ。「分かった。327号、少し待て」「ハイ」 私は、データベースの中から「愛」についての物語を百冊ほどランダムに選び、学習させた。「『愛』とはなんだ」「ソノ人ノタメナラ死ンデモ良イト思ウコトデス」 死んでも、いいか。 私は、…続きを読む
自分のことを、いちばん知っているのは、自分。 でも、自分のことを、いちばん知らないのも、自分。 確かで不確かな、鮮やかで透明な、自分の輪郭が、はっきりするのは。 好きなことに向き合っている瞬間に、違いない。…続きを読む
スマホのロック画面を開く。 そこには、明朝体で「お題 1日5個!」という文字。 まじかよ。あと3つ考えなくちゃ……。 商店街を通って帰る道すがら、あちらこちらを見まわして「お題のネタ」を探す。 総菜屋の前では、中学生の男女4人がコロッケを食べていた。 コロッケか……。 「カボチャコロッケ、クリームコロッケ、牛肉コロッケ」なんて、どうだろう。 コロッケばっかりか……。ま、いいか。 中学生たちを見ていると、女の子のカバンに、うさぎのマスコットが2匹ぶらさがっていた。 うさぎ、ウサギ、兎……。 あ、「二兎を追う者は一兎も得ず」なんてことわざ、あったな。 …続きを読む
彼はいつだって完璧だ。 ちょっとしたアイデアを上手く発展させて、素晴らしいアーティストや楽曲を世に送り出している。 誰に対しても誠実で、どんなことにも卒がない。 俺は、そんな彼をいつも尊敬しているし、彼と友達であることを、誇りに思っている。 ある日、彼と久々に飲みに行った。 彼は、ビールを片手に溜め息を吐いていた。「どうしたんだよ? 浮かない顔してさ」「いや、俺さ、最近、すげえ誤算に気づいたんだよ」「え? なんだよ、それ」「俺がプロデュースしたバンドが、今めちゃくちゃ流行ってるだろ?」「うん、あれな」「俺が飲みながら思いついたアイデアから、あのバ…続きを読む
「おい、こたつで寝ると風邪ひくぞ」 涼しげな切れ長の目をさらに細めて、狐井は緑茶を持ってきた。「このあったかさが癖になるんだよなあ……」 狸塚は、こたつに入ってうとうとしている。 大晦日の夕方。 バラエティー番組をBGMに、「竹馬の友」を互いに自称している二人は、まったりした時間を過ごしていた。「というか、お前はいつまで俺の家にいるんだよ」「僕の家には、こたつ……ないんだよねえ……」 ふわあ、と欠伸をする狸塚は、狐井が愛用しているクッションを枕にしていた。「寝てばっかのヤツは年越し蕎麦はなしだなあ。あー、今年は大きな海老天と、野菜のかき揚げも作るんだけどな」…続きを読む
半蔵門線のシートに身体を沈めると、心地よい疲労感が押し寄せてきた。 電車は、ゆっくりと速度を上げながら九段下のホームを後にする。 さっきまで、ステージの華やかな照明と、たくさんのペンライトの波の中にいたから、今は地下鉄の窓の漆黒にほっとした。 生まれて初めて見たコンサートが武道館だったなんて、すごく贅沢だったなと思う。 これから先、色んなコンサートを見に行くのだろうけれど、その度に今日のことを思い出すのかな。 目を閉じると、あの光景が鮮明によみがえってくる。 きらきらした照明の下で、大好きなアーティストさんが、大好きな曲を歌っている姿。 写真で見るよりも何倍も何十…続きを読む