ここは、とある国営研究所。 人類史上最高の知能を持つ天才科学者S教授の手によって世界最先端技術のAIロボットが1週間で完成した。「やっぱり流石にすごいですね」 そう言い、完成したAIロボットを見る助手の体は少し震えていた。と同時にひどく疲れているのか声に張りが無い。「まぁ、世界最先端といえども私にとっては簡単な事だ。私自身の知能を忠実に再現したまでだよ。それがたまたま人類史上最高のスペックだったというだけ」「んー、でもやっぱり流石です。S教授の知能がこの世にもう1つ増えたとなると人類の進化は200年、いや300年は早まりますよ。さっそくマスコミに連絡して1週間後には会見を…続きを読む
まだ肌寒さの残る4月初旬。春、それは始まりの季節。朝日が登るのと同時に私は何かに駆り立てられる様に外へと飛び出した。春の風に舞う桜もきっと私の「始まり」の背中を押してくれているのだろう。小さめのリュックを抱えて向かうのは高速道路インターの入口。の手前の道路。 リュックから「遠くまで」と書いた段ボールを取り出し、高速道路インターへと向かう車に掲げる。 時間にして30分、車の台数は軽く100台近くが私の前を通り過ぎた頃。一台のワンボックスが目の前に停車した。「お待たせー、おねえちゃん乗りなよ」 頭に白のタオルを巻いた現場仕事風のおじさんに声を掛けられた。チラッと車内を覗き込むと8…続きを読む
「明日もバイト入れる?」 挨拶より聞き慣れた店長の質問。「はい」 息をする様に俺の口から出る返事。これが田舎の国道沿いにひっそりと店舗を構えるコンビニ内での変わり映えのない会話だ。 店舗の3倍はあろう駐車場には数年前からパンクして動かない持ち主不明の軽自動車しか停まっておらず、こんな寂れたコンビニでする仕事といえばひたすら時間が経つのを待つ事。仕事というよりもう修行だ。近隣に住宅は無く、駅からも遠いせいか、訪れるお客が少ないのはもちろんの事、アルバイトも俺ひとりだ。 バイトリーダー田中と俺の名前だけが書かれた手書きのシフト表には売れっ子芸人ばりに1日残らずびっちりとシフトで…続きを読む
鬼が人間に恐れられていた時代から200年、、、。今は、人間の勢力が増し、鬼が隠れながら人間界に進出する時代。俺も鬼ヶ島から人間界にやってきたその1人だ。しかし、鬼が人間社会で生きるのは簡単な事ではない。頭から飛び出たツノを隠すため、常に帽子を被っていなければならない。夏場にニット帽を被るような奴はだいたい鬼だ。それに職業も帽子を被るような職種にしかつけない。その中でも警備員、警察、駅員、シェフ、ラッパー等が鬼に人気の職種だ。 鬼は基本的に真面目で実直な所がある。色々な世界で「○○の鬼」「鬼の○○」等と比喩表現されるような偉業や成功を成し遂げ、「鬼」の称号を得た者は、実の所それは本物の鬼な…続きを読む
説明しよう! ここは、情熱的な経営者レッド率いる経済戦隊アキナイジャーの基地である。 只今、日本の経済を支える為の作戦会議中。レッドは赤いスーツを見に纏い、進行を進める。「みんな、これからはそれぞれの特色を活かして日本の経済を支えてほしい」 ブルーが遠慮がちにゆっくりと手をあげる。「僕は、ブルーな気持ちの人々に寄り添える精神科医になりたい」 続いて、イエローが高らかに手をあげる。「はいはい、俺は明るい未来を育てる為に保育士になるぜ」 次にグリーンがボソボソと答える。「自然…大事…林業……」 グリーンのか細い声を掻き消す様にピンクが甲高い声をあげる。「私…続きを読む
リサイクルショップで友達を売った。好きなアニメの事で言い争いになって仲が悪くなったからだ。 友達を売ったお金で別の友達を買った。その友達は優しくて思いやりのある子だった。 ある日、その買った友達に呼び出された。そこは、リサイクルショップだった。 今度は僕が売られたのだ。店員さんのおっちゃん曰く「類は友を呼ぶ」との事らしい。小学生の僕にはよくわからないや。…続きを読む
世の中に空前の手相ブームが到来した。ただ単に手相ブームといっても占いの類などの迷信めいたものでは無く、それは手相主義などと呼ばれている。 高校入試や大学入試には知能線での点数が加算され、企業に至っては手相だけを見る手相面接が行われている程だ。極め付けは、結婚相手も手相お見合いなる形で互いの手の写真を吟味し合うのだとか。まさに手相で人生が決まるといっても過言では無い。 人々は賢くなる為に知能線を掘り、モテたいが為に感情線を掘る。そんな社会現象の象徴として、一時期カッターナイフが文房具屋から消えたそうだ。 メディアも連日、手相の報道を繰り返した。「成功者の手相は完璧! なぜなら手…続きを読む
「あなた起きて、朝よ」 妻の囁く声に寝ぼけながら目を覚ます。念の為にセットしている目覚まし時計のアラームはもう1年近くお役御免だ。 顔を洗い、仕事の身支度を済ますと3人分の朝食の準備に取り掛かる。卵焼きに焼き魚、ご飯と味噌汁。毎日同じ朝食のメニューに飽きてはいるが、陸斗のリクエストだから仕方がない。 お米の炊き上がりを待つ間、陸斗りくとの登園の準備をする。小さなカバンに陸斗の親友?のウサギの人形を忍び込ませるはマストだ。ママのハンドメイド作品。これが無いと駄々をこねて幼稚園で泣き喚くのだとか。ママっ子なやつめ。 そうこうしている内に寝室からバタバタと慌ただしい音が鳴り響く。怪…続きを読む
国道を外れ、一本の狭い山道を登った先にその店はあった。店と呼んでいいのか分からない廃れた古民家の様な外観だが、営業中というノボリに呼ばれる様に私は店へと入った。「いらっしゃいませ」ジェルで綺麗に頭髪を整えた強面の老人が私を出迎えた。「おひとり様でしょうか?」強面の老人に席を案内されると店の説明を受けた。どうやら、この店は老人達のセカンドキャリアの受け入れ先として運営している飲食店の様だ。「しかし、ただ単にセカンドキャリアと一括りにされては困ります。私どもは全盛期は過ぎたとはいえ、その道のプロが集まっております。和食、洋食、中華、創作、ファストフードに至るまで出せない料理…続きを読む
とある地域の夏祭り会場でその事件は起きた。一杯1980円のカレーを巡って……。 地域の婦人会が提供したカレーを食べた直後、人々が揃って体調不良(倦怠感、眠気、脱力感)を訴えたのだ。 原因は、カレーに溶け込んだ大量の睡眠薬。 もちろん夏祭りは、中止となり、警察や救急隊が入り乱れる大惨事となった。 すぐさま警察は、事件性があるとみて、婦人会でカレーを担当していた田辺さんに疑いをかけた。 早速、周囲の聞き込みを始めた警察だったが、田辺さんの評判の良さに驚いた。 聞き込みの情報をまとめるとこうだ。 勤勉で真面目、責任感も人一倍強く、共働きで料理は苦手としなが…続きを読む