むかしむかし、あるところに人間という生き物がいました。生き物は神様たちが作った世界に産み落とされた命あるものたちのことです。神様たちはたくさんの、それはもうたくさんの種類の生き物を産み落としました。そんな中で人間を作った神様は、とてもとても優しくて、繊細で、賢く、何よりも争い事が嫌いで、生き物が仲良くするのを見ているのが大好きでした。だから、神様は人間という生き物を作りました。同じ生き物たちを傷つけないように、牙も爪も強い体もいらない。ただ誰かと共に歩む足が、抱き締められる腕があればいいはずだ。同じ生き物たちの手助けとなって、彼らを導けるように賢い頭をつけよう…続きを読む
「漫画とかアニメとかだと、"青春"ってつくと大抵、高校生とか学園物だよね。」「そーだね。」「タイトル間違えてない?」「大学生でも、一応は学園物に含まれるんじゃないの?」「そーそー、むしろ俺はぴったりだと思うけどな。」「なんで?」「だって、クレッシェンドってだんだん強くとかそんな意味でしょ?」「そうだった気がする。」「じゃ、俺らにはきっとぴったりだと思うな。」「相変わらず意味分かんないね。」「もー、つめたぁい!!でも、そんなとこが好き!!」「てか、これいつ本編始まるんだい?」「もう始まる?」青春クレッシェンド(仮)はじまるよー…続きを読む
さようなら。水の中でキミのテカテカ光る体はベトベトで自由に動けやしないから、キミは泳げやしないから、だから僕はキミを海に突き落とす。油は水より軽い。だから水と混ざりもせず、ちゃぷんって重い音を立てて、キミは遠くへ、遠くへ流されていく。どこまでも、どこまでも遠くに。あぁ、やっと行った、やっと行ったよ。刹那、キミに触れた手が、ベトベトして心底気持ち悪かった。ギギッ「あーあ、また錆び付いてる。」大きな大きな時計塔の小さな小さなネジ。それが赤く錆びてしまっている。たったこれだけの小さな部品が今、この国の時を止めている。錆びた部品を外し、新しいも…続きを読む
アイドルとは、「偶像」「崇拝される人や物」「あこがれの的」「熱狂的なファンをもつ人」を指す。英語(idol)に由来する語。我が国では主に、見目のよい若い女性が一人から複数人のグループで歌い、踊り、その他群衆を沸かせるパフォーマンスをすることでオーディエンスの支持を得る者達の総称。かつてのアイドル達は、ただ見目さえ良ければ事足りた。だが、人は、常に新しい刺激を求めていく。より心を揺さぶる歌を、高度なダンスを、魅了するパフォーマンスを、刺激的なキャラクター性を。そう、つまり、「かわいいだけじゃ、意味ないの。」その言葉にオーディエンス達は鼓膜を破られるほどの歓声を…続きを読む
燃え盛る炎の海の中、鮮血のように赤い髪をした少女の姿をしたそれは事も無げにこちらに近づいてくるとこちらを見下ろし、にっこりと笑う。「ハロー青年、私の名はグリンだ。」「…知ってます。」「おや?そうかい?ふむ、…青年、つかぬことを聞くが、そんな罪人のように閉じ込められ、芋虫のように這いつくばっているところを見ると、君はもしや困っているのかい?」「困っては、…いませんね。このまま燃え死のうと、生き延びようと、どちらにしろ僕は明日処刑されて死ぬ身ですので。」「ふむ、それは困ったな。」「貴女は機械なのに"困る"のですか?」「あぁ、困るさ。君はロボット三原則を知っているかい?」…続きを読む
『みんなに優しいあなたが大好きだよ。』君がそう望むなら、今日も僕は優しい男でいよう。僕の長所を聞けば、僕を知っている人間は、馬鹿みたいに口を揃えてこう言うんだ。"優しいところ"でも、それってさ、褒めるところがないから言っているんだと思うんだよね。そうでなければ、僕にもっと他の魅力があれば、こんなふうに頬を叩かれることはないはずだろうし。"あなたは誰にでも同じように優しいだけだったんだ。"悲しげに去っていく背をただ見送る。追いかける気もないし、その背に何か感情を抱くこともない。どうやら僕は人から見ると、とても優しい人間らしい。少なくとも別になんとも思ってなかった…続きを読む
泣いて喚いたところでさ残念無念の繰り返し死人に口なし生者は耳なし体はどこにもありゃしないさあさあ死に絶え死に行く皆々様ここは冥府の法の通り道お駄賃はほんのお気持ちであなたの言葉の橋渡し大切な言葉は封をして誰にも伝わらないように「ご冥福をお祈りいたします!こちら冥界郵便局封書課でございます!」「はい?」─────────────えっと、こんな改まって手紙なんて書くのなんて初めてだから書き出しにすごく迷いました。あなたはお元気ですか?私は、知っていると思うけど死にました。なんか言いたいことがいっぱいあった気がします…続きを読む
嗅いだこともないような、焼かれたような、何かが腐ったような匂いに鼻が曲がりそうだった。走って、逃げて、逃げ切れなくて掴まれた足首は爛れ、自分を撫でるそよ風さえ何本もの針で刺されているかのように痛んだ。ぴちゃぴちゃと水のような音と意味を成しているとは思えない唸り声が近づいてくる。己の無力さが弱さが悔しくて、自分の唇を噛み締めると口の中に鉄の味が広がった。目を閉じて、不幸ばかりの自分の運命を呪った。「馬鹿だね。人間のくせに。」甘く瑞々しい花のような香りが自分の横を通りすぎていく。ぽんと胸の辺りを押され、足首が痛んでそのままそこに尻餅をついた。カラ…続きを読む
『俺には両親がいる。』そう言えば大抵の人間は驚くだろう。だって、親なんて概念はとっくの昔になくなったものなのだから。歴史の授業で習ったけど、そのもっと昔、まだ男と女が子作りをしていた時代にはお母さんとお父さんがいるのが当たり前で、家族っていうコミュニティを作って生活をしていたらしい。何でも、子どもが生まれる数も調整できないし、親によって生活の質も教育の水準も全然違う、すっげー不平等な世界だったらしい。そう考えると、今の世の中は昔よりはマシなのかもしれない。なんか、子どもが産まれなさすぎて困っていた時代に、完全に人工的に子どもが作れる技術が生まれた。そんな技術が出来て、子ども…続きを読む
現在の純世界人口約80億人。そのうち正式な人間、正人と認められているのは約78億人。それ以外の残り2億人はというと、廃人と呼ばれる世界を捨てた人間である。彼らは世界に人とは認められていない。2年ほど前に廃人になることは世界中の法律で禁止される事が決まったからだ。廃人とは、体と脳を切り離し、電脳世界で生きることを選んだ者達の総称である。これにはかなり侮蔑的な意味合いが含まれており、一般的にも廃人は人間のクズがなるものだと言われている。だって彼らはどんな理由であれ、彼らが生きるはずだった世界を捨てて、非現実の世界に逃げ込んだ弱い人間達。至って常識的な俺は、そんな彼らを心から軽蔑していた。そ…続きを読む