しばらく、ことばをつむぐのをお休みした。日常生活がいっぱいいっぱいだとなにも湧き上がってこなかった。新しく生む力さえも創造する喜びさえも奪われるのだと知った。誰にも気づかれなくてもほめられなくても表現することの喜びで満たされていたかったのに。欲が肥大して、自分の首を絞めて、遠ざかった。いざ、久しぶりにつむぐとただただ心が書くことを求めていたのだと気づいた。本が好きだ。ことばをつむぐのがすきだ。死へと向かう生の中で、わたしのしたいことをしよう。…続きを読む
「ねぇ、うみ姉ちゃん」「なぁに、そら」「わたしずっと中学生でいたい」「なんで?」「大人になるのが怖い。小学生みたいにガキくさいのも勘弁。友だちとなんとなく笑って、ただよいながら楽しい毎日を過ごしてたいから」「そんなもんかねぇ。ワタシは早く大人になりたいけどな。高校生ってなんだか中途半端で。勉強していい大学に入れ、ってそればっかり。息苦しい。全部将来が決まった後は、どんなにすっきりするだろうなって思うんだ。りく姉ちゃんは?」「んー、何も考えずに走り回ってた小学生の頃に戻りたい、かな?大学行って、就職のことばっかり頭をよぎるのが嫌で。選択肢がどんどん狭…続きを読む
このバーに集う俺の仲間を紹介するよ。とっておきのアッつい奴らさ。「ジュークボックス」自慢の髭は3年物勇気ある男で運動神経抜群のクソ生意気な坊ちゃんだけどつまらない俺のギャグも口うるさく言わずに聞いてくれる素敵な相棒だ「ピッツァパイ」ピリピリしてる時はついケンカになっちまう面の皮が厚い野郎だが案外情が深いとこもあってパンチで分かり合えたあの日をいつまでも忘れねぇよ「カクテル」かよわい姿で近づいて口説き落としてくる手馴れた女ルージュは常に赤のグラマーガールこんな奴らと過ごす一夜、最高だろ?今日からお前も仲間入りだ。お前…続きを読む
笑えばいいの?どのくらい?クラスで1番にこやかに?ピースするべき?隣の人との距離はどのくらい?決して1番笑顔になってはいけない。決して無表情になってはいけない。決して目をつぶってはいけない。決して1人だけピースをしてはいけない。決して1人だけ隣の人と離れすぎてはいけない。程よく笑って程よく離れてそれが私を守る術。集合写真を見る度に思い出すのは、思い出でもなんでもなく、その集団で自分がどんな立ち位置だったかということ。…続きを読む
私は鼠(ねずみ)です。私の一族は、代々このお城に住みついております。ここは食料も豊富で、寒い日には暖炉に火がくべられ、とても住みやすい場所です。しかし、人間に見つかったら最後、王の家来たちが血眼で私たちを探し回り、叩きのめすまでやめないので、絶対に見つかってはなりません。昔、少しだけ動きが遅い鼠がおりまして、あれはまぁ、なんともかわいそうなことでした。倉庫にあった果物を食べているところを見つかって、それから帰ってくることはありませんでした。なので私たちは寝床を慎重に選びました。絶対に見つからない場所。それは意外や意外、王の部屋の屋根裏なのです。限られた者しか、…続きを読む
この世界で取引されるのは、やってみたいでもまだやっていないそんな願いに値段がつけられる。やってみたいと思ってから、年月が経てば経つほど値が張る。また内容が些細なもので、年月が経つことが一番高く値がつく条件だ。今日もこの店には、願いを売りに客が訪れる。「いらっしゃいませ」腰の曲がった老人が現れた。これはこれは、年季が入った願いが手に入りそうだ。「60年物、いるかい」「まずはお手並み拝見といきましょう」手のひらを、専用の水晶にかざすと願いの映像が浮かんでくる。「んん、これは…」浮かび上がったのは、障子の映像。近くにいるのは、幼き頃の…続きを読む
いい加減の意味は人それぞれで物語を紡ぐ人達のいい加減、はどのくらい?…続きを読む