はじめまして。短編小説をメインに書いています☺️
Twitter🕊
https://twitter.com/minatose_haru?s=09
☆現在の活動は、noteがメインです。
https://note.com/minatose_haru
2021.5「ものがたり珈琲」コラボ企画/審査員特別賞(優秀賞)受賞
『モーニングコーヒー』https://monogatary.com/story/200706
小説『メトロノーム』Kindle本発売中🕊
https://www.amazon.co.jp/dp/B096KS7JNX/ref=mp_s_a_1_1?dchild=1&keywords=%E3%81%BF%E3%81%AA%E3%81%A8%E3%81%9B%E3%81%AF%E3%82%8B&qid=1622765878&s=digital-text&sr=1-1
新橋駅から銀座線に二駅乗って、京橋駅まで。それが、私の毎朝の道のり。 この街は、ぴしっとスーツを着た人々で溢れていて、瀬戸内の小さな島育ちの私は、就職のため上京して半年が経つ今もなかなか馴染めない。 ある日、私は仕事で大きなミスをして、昼休みに非常用階段で一人で泣いていると、優実先輩がやって来て、私の隣に座った。「こんなところにいたら、風邪ひくわよ。沖本さん、月島には行ったことはある?」「いえ……、東京のこと、よく分からなくて」「そうしたら、今夜一緒に『もんじゃ』でもどう?」 先輩からの初めての誘いに驚いて、思わず顔を見ると、いつも真面目な優実先輩がいたずらっ子のように笑ってい…続きを読む
眠りに落ちる間際のあなたに、さよならを告げた。あなたは、私の言葉を聞いていたかしら。寒さに身を縮ませながら、ベッドで私を抱きしめる腕。あなたの体温を感じるのに、私の心が虚しさで満たされるようになったのは、いつからだろう。昨晩、あなたの寝息を耳元で聴きながら、無機質で真っ白な壁を眺めていたら、カーテンの隙間から差し込む街の光が青白い波を描いていた。それを見ていたら、「ああ、私のいたところは『ここ』なのか」と思った。静かな白い世界。そこに映る光は私の憧れ。二人で見たかった世界。けれど、二人でいても私は一人で、ただ眺めていることしかできない。朝早く、バイオリンと用意していた…続きを読む
5歳になるまで、私は両親と祖母と一緒に、鎌倉に住んでいた。その家から、海まで歩いて5分。坂の上に建つ小さな家からは、海を眺めることができた。朝日をきらきらと反射する波。ぽっかりと浮かんだ江の島。大きなさんかくの富士山の影。カンカンカンと踏切の降りる音がすると、海をバックに緑色の江ノ電が颯爽と走って行った。小さな私は、それがまるで海を泳ぐ大きな魚のように見えて、いつも「バイバイ」と手を振った。「紗耶香は、電車が好きなのね」とママは言ったけれど、「紗耶香ちゃんには、何に見えているんだろうねぇ。お魚さんかしら」と祖母は言って、優しく手を握ってくれた。私は、祖母の温かくて柔らかい手が…続きを読む
ある日のあさ、げんきなうしの女の子が、せんせいといっしょに きょうしつに はいってきました。「はじめまして。わたしのなまえは、おめでとううしちゃん。みんなと おともだちになりたいな!」 おめでとううしちゃんは、からだに いろんないろの うしもようがあります。 あかいろ・あおいろ・みどりいろ……。 なんて カラフルなんでしょう。 あたまには、きいろいボンボンがついた とんがりぼうしをかぶって、よくにあっています。「はじめまして。ぼくは、とおるだよ」「とおるくん。よろしくね」 おめでとううしちゃんと とおるくんは、となりのせきになって なかよくなりました。 あたら…続きを読む
窓に打ち付ける雨粒が、窓ガラスをスローモーションで滑り落ちて行く。いつものカフェの、いつもの席から眺める風景も、まるで夢の世界のように朧気だ。窓ガラスに滲む青藍の色は、紫陽花の姿だろう。窓の幅一杯を埋めるその青が、歌川広重の「東海道五十三次」の浮世絵に見えて、かつての日本橋の姿に触れた気がした。いつもより1時間早く起きて、おろしたてのベージュのスーツに身を包み、この店にやって来たのは、朝の時間をぼんやりと贅沢に使うためではない。今日は、ここで後輩社員と落ち合って、顧客先に新商品の営業に行くのだ。ついこの間まで若手と言われ、先輩の後を付いて回っていた気がするのに、いつの間…続きを読む
コン、コン、コン。わたしのへやを、ノックするおとがします。とびらをあけて やって来たのは、にじいろのからだをした スケッチくんです。「やあ、やあ。こんにちは」スケッチくんは、わたしよりもおにいさんの 小がく二ねんせい。スケッチくんは、えのぐのパレットをもって、えのぐのふでの しっぽをしています。えかきさんのかぶる ぼうしをかぶっていて、まるで ほんものの えかきさんみたい!へやにあそびにくると、いつもいっしょに おえかきをします。「きょうは なんのえをかいたの?」わたしのもっている がようしを、スケッチくんがのぞきこみました。「わぁ、かわいい子犬だねー…続きを読む
僕と紗耶香が出会ったのは、僕らが5歳の頃だ。僕の隣の家に、紗耶香一家が越して来てから、同い年の僕らはいつも一緒にいて、時に喧嘩はしたけれど、毎日一緒に笑っていた。僕がその美しいものに出会ったのは、小学4年生の時。その日、クリスマスにサンタさんから何をプレゼントされたのか、紗耶香と見せ合う約束をしていた。僕の部屋の扉を開けると、紗耶香が「わぁ」と声を上げた。僕がプレゼントされたのは、おもちゃの鉄道のプラレール。小さな子供部屋だけれど、ベッドを除いた敷地いっぱいに、曲がりくねったプラスチックのレールがどこまでも繋がっている。その上を、緑色の車両がギュインギュインと音を立てて走り…続きを読む
簡単に世界が壊れてしまうなんて、誰が決めたの?どうして、今日が最悪なんて顔をしてるの?君の声が聞きたい――。 ❋僕らの世界は、大きなマスクで口元を覆って、言葉が封印されてしまった。離れた所で、僕は君と目で会話する。君が瞬きすれば、君の今の気持ちが分かるよ。君は、今日も悲しい眼差しを僕に向けてくる。でもね、君がどうして悲しんでいるのか、分からない。僕は、マスクを外して君に語りかけようとする。でも、君は全身全霊でそれを止めるんだ。それをしたら、僕の身体が消えてしまうことを怖れてる。本当はね、せめて指で君に触れたい。優しく触れて、君の心の中…続きを読む
この春、私は地元の専門学校を卒業して、都内の食品会社に一般職として就職した。 学生時代、全くと言っていいほど化粧をしてこなかった。真夏に日焼け止めを塗ることさえしなかったけれど、そんな私を友達は誰も咎めなかったし、そのままを受け入れてくれた。 しかし、働き始めると状況は変わった。 入社してすぐに、私は新人研修を共に受ける同期入社の女子社員2人と、お昼を食べるようになった。彼女達は、毎日違うおしゃれなレストランやカフェに行って、ランチするのを好む。華やかでキラキラとした彼女達と、同じ制服を着て都会のど真ん中を歩くことに、私はなんだか引け目を感じていた。 彼女達は、食後に必ず化粧室に寄…続きを読む