2016年 3月17日ようやく、分かった。「相手の立場になって考えなさい」何度も何度も、前世で言われた言葉だった。前世の俺は耳を貸さずに突き進み続けた。それが良かったのか、悪かったのか、死ぬときに心残りだった。だから人生の二週目が始まった時に火との立場になって考えるを実践し続けようと思った。毎日相手のことを思いやって、相手ならどうなるんだろう、どう思うんだろう、自分なら・・・なんて日々の中で結論が出た。結果は、前世のほうがずっと良かった。相手の立場になって考えるという行為自体が、相手の事を考えないことと同じことだった。自分が相手の立場に立ったらどう思うか、というのは結…続きを読む
僕の人生の楽譜は、狂ったままだ。大学一年の夏休み、僕は退学届けとにらめっこをしていた。持病の関係上、県内の大学しか両親が許可をくれず、進学したのは県内ではそれなりに名の通った県立大学だった。だが、本当は、本当は音大に行きたかった。分かってはいた。莫大な学費に、世間体、おまけに持病で近くの大学にしか行けない。両親からも芸術で飯を食えるはずがない。やめなさいと言われた。芸術一本で食っていくのは難しい。それは自分でも重々承知していたから、両親の言う事も理解が出来た。だから、どうしようもなかっただが、実際に大学に通い始めると、痛感する。自分の居たい世界はここじゃないって。派手な髪色で、…続きを読む
あなたとあなた以外の人、何が違う?聞こえてるもの、見えているもの、感じているもの、考えていること。すべて違う。正義も、悪も違う。同じものを与えられても、受け取り方が違う。一人ひとり、実は違う世界に生きている。全員が全員、一人一人がその世界の代表で、他の世界の代表と、何とか通じ合おうと努力している。だから、お互いのの悪口は言っても仕方がないよね。だって、世界が違うんだから。…続きを読む
桜吹雪の中、告白をされた。が、そんなことはどうでもよかった。卒業式の日、クラスでも悪い意味で目立っている僕に近寄る人はだれもいなかった。当然だ。僕にかかわるといじめに遭ってしまう。そんなことを望む莫迦はいない。そんな、排他的で、差別ばかりのクソ田舎の中学校の卒業式が開かれていた。よくわからない校長にきれいごとのスピーチに、PTA会長のよく分からない言葉の羅列が終わり、卒業式も終盤になったところだった。担任の教師が、順番に生徒一人ひとりの名前を読み上げるという何とも無駄な愚行が始まった。名前を呼ばれ、馬鹿声をあげる猿のような儀式。それに涙する保護者達。僕にとっては最悪な…続きを読む
7月の上旬友香は躊躇っていた。近所の大学は一般開放されていたが、周りを見渡すとほとんどは学生で、若い。 友香は近くの携帯ショップに努める三十歳の社会人だった。黒い髪にぱっつん前髪、少し派手目なメイクと言った風貌だ。決して老けているわけではないが、二十台前後というには無理がある。それは友香も自覚していた。 だからこそ、大学生たちのまさに陣営の夏休みを謳歌するような大騒ぎは、すこし辟易としてしまうものだった。自分はもうそんな年齢ではないというのが、嫌でもわかってしまうから。大学生たちの異様なキャピキャピ感に打ちのめされながらも、ようやく食堂の入り口にたどり着いた。 自動ドアが…続きを読む
〇RAYARD MIYASHITA PARK・施設内自由と活気のあふれる、渋谷の商業施設。多くの若者たちが買い物を楽しんでいる。あなたは立ち止まり、ぼんやりと白いパネルを眺めている。後ろから男が声を掛けてくる。男 「これで…最後か」男、買い物袋を提げている。あなた「何、買ったの? 」男 「ネギとラッキョウ」あなた「どうして、ネギとラッキョウなの? 」男 「……」男、袋から泥付きのネギをを取り出す。あなた、困惑する。あなた「どうして今、ネギを取り出したの? 」男 「もう、終わるから」あなた「そっか…」男、微笑む。屋上に出るふたり。あなた、渋…続きを読む
彼女がいなくなって2週間。一郎は夜のネオン街を歩いていた。普段は飲まない一郎だが、彼女がいなくなってから毎週ここをふらついている。今日は金曜日、浮かれたサラリーマンがはしゃいでいるのを横目に見ながら、彼女の事を思い出し、自己嫌悪に陥る。こんな繰り返しだ。 煌びやかな街並みに、ふと目に着く店があった。風俗街の中にひときわモダンでおしゃれな店があった。白い建物に薄暗い店内、きれいな木目の扉に、アンティーク雑貨。看板にはすごく控えめに『still』と書いてあるだけだった。一見美容室にも思えたが、薄暗い店内をみるとなんだかおいしそうな肉を食べているカップルや団体客の姿が見えた。…続きを読む
「ねえ、今日は月が綺麗だね」 少しいたずらっぽい顔をしながら沙羅は言った。その横顔は、もはや人間の生気を感じないほどに艶めかしく、妖艶に映った。そのいたずらっぽい顔は、大人びているようで、かつ幼児のようで、歪さを感じざるを得なかった。沙羅は金融会社を経営している一族の一人娘で、何不自由なく育ってきた『根っからのお嬢様』という言葉がこの上なく似合う女性だった。一方僕はというと、なんてことのない庶民の出で、自分自身も派遣社員。相手にされないのも無理はない。容姿も端麗で、美しい黒髪が奇麗に切りそろえられており、くっきりした鼻筋も相まって正に大和撫子という表現が正に的を得ているといった文句…続きを読む
毎日行き来している会社までの道の途中で、沿道に茂る新緑を見ながらふと、思った。初夏の街は少しじめじめしていて、土のようなにおいがする。田舎だからなのか、それとも田舎だからなのか、都会に住んだことのない私にはいまいちわからなかった。会社に着き、いつも通りタイムカードを切る。少し早歩きで自分のデスクに向かうとそこには見慣れない封筒が置いてあった。その封筒には”辞令”と書いてあった。背中にいやな汗が流れるのが分かった。私が立ち尽くしていると、後ろから部長が近づいて来て「転勤です。明日から東京の本社で働いてください。」と言った。私は、しばらくそこから動けなかった。仕事を終え、自宅に…続きを読む