僕の家は華族の血筋を引く名家だ。そんな僕の家にはある掟がある。それは家の者が10歳になると影武者を用意するというものだ。学校などの面倒なこと、少しでも危険がありそうなことは全て影武者に任せるのだ。そのおかげで僕は気ままに悠々自適な生活を送ることができる。何と幸せなことだろう、そう思っていた。違和感を覚え始めたのは13歳になったころだった。家のお手伝いさんが身に覚えのないことで僕にお礼を言うようになった。家庭教師の先生も、先日はできたのにと言って今まで習ったことのないことを教えてくる。僕の知らないところで僕の影武者が何かしているのだろうか。僕は影武者への疑念を強めていった。…続きを読む
この世界に飛ばされてきたばかりの頃はとにかく必死だった。ただルールだからと学校に通っているだけの日々がゲームの中みたいな世界でモンスターと戦う日々に変わった。僕は強くならなければいけなかった。弱ければ死んでしまう。死なないにしても低いレベルでは請け負える仕事も限られてしまってろくな生活は送れない。僕は戦い続けた。僕の名前は日に日に有名になっていった。気づけば10年経ち、レベルも98まで上がっていた。結婚もして子供も生まれた。初めて子供の顔を見た時、この子の笑顔を死んでも守ろると心に誓った。いつからだろうレベルが上がらなくなったのは。昔は常に様々なことに挑戦し続けていた…続きを読む
「センパイって、彼女いるんですか?」上目遣いで男を眺める。これで落ちなかった男はいない。相手には必ず奥手そうな男を選ぶ。こっちがその気を匂わせればコロッといくし、何より付き合ってからも私のことを大切にしてくれる。会話の中でさりげなく下の名前で呼んだり軽いボディタッチをするだけで、自分に気があるんじゃないかとドギマギしている。なんてかわいいんだろう。これまでこの手法で数多の男を落としてきた。ほんと、ちょろいものね。卑怯?馬鹿言わないで。恋は騙しあいよ。騙される方が馬鹿なのよ。また一人かかった。こっちが奥手な男子のふりをしていると、自称恋愛上手な女子がわんさか…続きを読む
「最近、マジやばみでー」「えー、つらみじゃん」「マジやばみの連続って感じでー」「うわー、それつらみー」「やばみの極みだわ」「それな、マジつらみマックス」隣で会話を聞いていた僕「こいつら何で会話成立してんだ?」…続きを読む
一目惚れだった。高校時代からの友人に誘われて行ったインカレサークルの新歓食事会で僕は彼女に出会った。そのままそのサークルに入った僕は同じくそのサークルに入った彼女に猛アタック。半年後、僕と彼女は付き合うことになった。付き合ってからの毎日は最高だった。平日はお互い別の大学に通っているのであまり会えなかったが、休日は毎週買い物や遊園地に行った。僕はますます彼女に夢中になった。彼女が望むことは何でも叶えた。彼女に行きたい場所に行き、彼女の欲しい物は何でも買った。祖父母が僕に残してくれた遺産があったので金には全く困らなかった。彼女の笑顔のためだったらいくら払っても惜しくない、心…続きを読む
久しぶりに会った私を見て、すっかり染まってしまったとあなたは言った。私は歌舞伎町で働いているホステスだ。仕事の時には派手な格好をし、髪も盛って、化粧やネイルもかなり濃いと思う。昔は真面目で素朴な優しい子だったのにとため息まじりであなたは語った。何もわかっていない。私のことをちゃんと見てほしい。確かに見た目は色々変わったけれど、中身はあのころから変わってないつもりだよ。あなたならわかってくれる、私はそう思ってたのに。…続きを読む
「おい、お前飲み過ぎだぞ。」「うるさい、俺の勝手だろ。」「言いたいやつには言わせておけばいいよ。お前は悪くない。」「当たり前だ。俺はこの仕事に全てをかけてるんだ。それをあいつら何もわからず。」俺は荒れていた。日本代表のワールドカップ本大会出場がかかった試合。その試合で日本が俺の審判のせいで敗北したとかでマスコミは大騒ぎ。SNS上では売国奴なんて言うやつまでいる。「俺は審判だ。例え自国の勝利がかかっていようと公平にジャッジする。あれはどう見てもオフサイドだった。」「そうだよな、コートに立って見るのとテレビで見るのは違うもんな。あんま気にしすぎんな。」審判仲間の友人はみんな俺を…続きを読む
赤い霧が出る島が日本のどこかにある。僕は子供の頃、そんなことを馬鹿みたいに信じていた。祖父は毎晩赤霧島という焼酎を飲んでいた。ある時僕が何気なく「なんで赤霧島っていう名前なの」と尋ねると、祖父は「赤い霧が出る島で作ってるからなんだよ」と語った。そんな冗談を僕は20歳になるまで律義に信じていた。初めての酒は祖父が飲んでいた赤霧島をと思って調べたことでようやく祖父の冗談に気づいた。僕はパソコンの前で大笑いをした。冷静に考えればそんな島がこの世にあるわけないじゃないか。20歳になった日、僕はスーパーで赤霧島を買った。家に帰り、祖父が使っていたグラスに氷を入れ、赤霧島を注いだ。…続きを読む