またぼちぼち書いていきたいと思います
もう一歩先をめざして
○モノコン2020 「きらきらにひかる」 予選通過
『星の声に肩を貸して』
○WonderWord×monogataryコラボ企画 優秀賞
『小さな約束をポケットに』
○「ものがたり珈琲」コラボ企画 優秀賞
『ここから』
○モノコン2021 supercellコラボ企画 予選通過
『ピーキーインザスカイ』
○モノコン2021 TEAM JACKPOT 物語 優秀賞
『ブルーバード・エフェクト』
○麗奈コラボコンテスト 優秀賞
『竹の花が咲くまで』
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新城響は目の前の光景が信じられなかった。彼の視線の先には、かつてのクラスメイトであった“大崎すみれ”がいた。彼女は、交差点の真ん中に立っていた。直立不動でどこか宙を見ている。周囲の人間は誰も彼女に気づいていない。否、見えていないかのように通り過ぎている。 もうすぐ雨が降り出しそうな街。新城は目がいい方ではない。だからよく似た女の人がいると自然に考えた。その女性は、ちょうど彼の進行方向に立っていた。目が離せないけれど、確かめることが彼には、どこか怖く思えた。 信号が変わる。足早に通行人たちは向こう側をめざす、新城は止まったままだった。いつの間にか、その女性と目が合っていた。 “間違い…続きを読む
海は不思議なところで、いつ見ても変わらないような気がする。どこまでも続いていそうでずっと青い。吸い込まれそうな色をしている。 けど、知らないだけで、その下ではものすごい世界があって、日々変化しているに違いない。 そんな風に思っていた僕は、あの夏、その考えが間違っていないことを知った。◇「自慢じゃないんだけどさ、土曜日夢の国に行ってきたんだ。息抜きで」 昼休みに隣の席の矢野美咲が、話題を切り出した。「いや、抜きすぎだろ」と僕の前に座る藤間健が驚き、「彼氏と?」と続けて尋ねた。「だってさ、ずーっと勉強じゃん。学校でも家でもずっと勉強じゃん。高3なってから。もう…続きを読む
目を開くと二つの絵が僕を見つめていた。 開けた窓から暖かい空気が流れ込み、部屋中が春特有の匂いに包まれている。 絵からの視線で思い返す。そうそう。目の前のどちらをあいつの式に送ってあげようか悩んでいたのだった。陽気にあてられていつの間にかまどろんでいたのだろう。『結婚式場に飾りたいからさ。描いてくれないかな、絵』 高校時代の友人である元木香織から、数年ぶりに連絡が来たかと思えば、それは結婚の知らせだった。『どんな絵がいいの?』『そう言ってくれるってことは、やっぱり、まだ描いてるんだね』 電話越しに彼女がほほ笑んでいるような気がした。『花とか植物の絵をお願いしたい…続きを読む
暦の上では春なのに、妙に寒い朝だった。 ガスヒーターをまだしまっていない昨日までの自分に感謝しながら、部屋が暖まるのを待つ。ケトルでお湯を沸かしつつ、朝食の準備をする。毎日ただの食パンでは飽きてしまうから、今日はマヨネーズをたらして食パンのうえに囲いを作り、卵を割り入れる。そこからトースターにかける。ヒーター、ケトル、トースターの音が無駄に広い2LDKの部屋をいきかう。 僕は別に朝は弱くない。だから、きちんと朝食を食べるようにしている。わいたお湯でインスタントコーヒーを煎れて、焼きあがった目玉焼きトーストを食べる。そして、髭を剃るために洗面所に向かう。髭を剃りながら僕のものではない歯ブ…続きを読む
あなたは、私から見てなんでもできた。 当時のね。 足は早かったし勉強もできた。お洋服だって私のはお姉ちゃんのお下がりだったけれど、あなたはいつも綺麗なものを着ていた。子どもながらに住む世界が違っていて、憧れていた。 家が近所で、登校班も一緒だったあなたとは、いつからか覚えてはいないけれど、ごく自然と仲良くなったよね。憧れだったからね、嬉しかったよ。放課後、遊ぶのも一緒。勉強も一緒。 そう言えばランドセルじゃない鞄で学校に来たのも、あなたが最初だった。あの小さな箱の中であなただけは、特別だったよね。 困ったことに最初に好きになった男の子も一緒だったんじゃないかな。その子が好き…続きを読む
東京メトロという名前だけれど、東西線は千葉も走っている。お陰で西船橋の実家からでも大学には通いやすくて、電車に揺られながら勉強を頑張ってよかったなと、よく感じていた。就職活動を終えて、様々な会社や仕事を知り、いつも電車の中で見かけていた働く人のすごさがわかった。そうそう駅員さんもそうだ。朝早くから遅くまで、男女問わず色んな駅員さんが働いているんだなと気付いた。ずっと目にしていたはずなのに、経験を通じて見方が変わった。卒業して一週間。今日も僕はこの電車に乗る。駅員さんは、改札の近くに今日も立っている。駅を利用する人が、一日を気持ちよく過ごすことができるように声をかけて…続きを読む
昼どころか朝から飲めるらしいと人伝に聞いて、友人と観光がてら足を運んだ。選んだのは大阪。言わずと知れた通天閣近辺のエリアで、新世界と呼ばれている。大阪をイメージするときに浮かぶ情景は、ここ、という人も少なくないだろう。僕もそうだ。ただ、交通の中心である新大阪や梅田から少しだけ離れている。なので、ここを大阪だとイメージして来た人は、まずビル群と交通量にめまいを起こしてしまうかもしれない。そこから地下鉄かJRで目的地に向かうことができる。到着してそびえる通天閣とふぐの模型を目にして、「大阪だ」とすぐに感じる。不思議なものだ。近隣の居酒屋の装飾関係の色使いが派手で、お酒が入っていな…続きを読む
男は手を合わせている。彼がついさっき直せないと判断した残骸に向かって。どれだけの期間にわたり人間社会に貢献していたかはわからないが、言ってもただの機械だ。直せなくても責める人間はいない。 にもかかわらず手を合わせている。祈っているのかもしれない。誰にアピールするでもなく。 機械とそれを構成する学問は誰かの祈りで、それは明日をもっとよりよくするための想いの集まりなのだと父が教えてくれた。 彼は何を祈っているのだろうか。…続きを読む
「来月末からだ。伊藤君。急な話で申し訳ないね」 そう言いながら松下部長は、手元の紙を僕に渡す。全社的にペーパレスが叫ばれる中、いまだに紙での受け渡しが残っているのは、例え内示であったとしても、会社なりの不親切な配慮があるからなのか、格調高さを示すものだからなのか。内示書にはとある関西の子会社への出向を命ずると記されていた。「住むところは探してもらうか、社員寮を使ってもらう必要があるけれど、会社で負担できるところは負担するし、君のキャリアにとって悪い話じゃないよ、部長待遇だ」 部長はつとめて笑みを保ちながら、それでも淡々とそう告げた。オープンスペースで自由闊達な議論が求められる時代に、…続きを読む
亜衣子はオフィスで一人焦っている。 四捨五入したら30になる年齢に対してではない。世に言う聖なる金曜日夜なのにとくに予定がないことでもない。祝儀代で先月赤字になってしまったことでもない。決して。 前任の前任の前任くらいから使用している資料の誤りを発見したからだ。亜衣子が気がついたのは昼過ぎのミーティングのときだった。取引先に迷惑がかかるやもしれない、いや、どこかのタイミングで気づいていた人もいるかもしれないな、と彼女は思いながら上司に報告した。それからはずっと目の前のキーボードを叩き続けた。前任を含め亜衣子以外でこの担当を経験していた人間は、めでたく会社を色んな理由で卒業してし…続きを読む