俺は笑顔を絶やさない。今日も気怠い寝起きと共にその仮面を鏡で確認する。「おはよう」いつも否定的で高圧的な言葉で俺を潰してくる両親。「おはようございます」俺の根も歯もない噂を触れ散らす近所の人たちやいじめられた俺を見て見ぬふりした挙句、冷たく接してくる教師。「おはよ」付き合ってくれてはいるが、陰口を付いているのを最近聞いてしまった元友人達。それら皆んなに対して、同じ笑顔で向き合うことの繰り返し。笑顔でいれば、少なくとも必要以上に攻撃されずに済むだろうって言う、ただの防護服のはずだったのに、気づけば制服のように身に着けているのが当…続きを読む
「なあなあ、こんな噂知ってるか?」俺が学校に着くなり、親友の透(とおる)が、悪戯っぽい笑みを浮かべて話しかけてきた。「なんだよ、朝っぱらから騒がしいなぁ」俺はつっけんどんな返事をたものの、その話に少し興味があったので、教科書やノートを机に入れながら、耳に意識を寄せて聞いていた。透「いや、俺の兄貴から聞いたんだけどさ、俺たちの学校の近くの公園に、一つだけポツンと錆れた公衆電話があるのはもちろん知ってるだろ?」俺「そういや、あるなぁ。でも、そんくらいもうみんな知ってるんじゃ」透「最後まで聞けって。でな、夜1時から3時の間のいつでも良い時間に、…続きを読む
♪〜♪〜♪〜設定したスマホの目覚ましがけたたましく耳元で流れて飛び起きる。...こうでもしないと一発目の授業に間に合うように起きられないのだ。時計を見ると授業開始まであと90分弱。身支度と電車移動も含めると、かなりギリギリの時間だ。こんな時に助かるのが母直伝のあのレシピ。炊飯器を開き、アツアツのご飯を茶碗に盛る。やや底の深い器に卵を割り、約1分レンジにかける。(爆発しないように20秒ずつ分けると良いです)その間にご飯の上に鰹節をかけて、一口サイズのバターをのせて、軽く胡椒を振る。その上にレンジにかけた卵を滑らせて乗せたら、だ…続きを読む
「ごめん、やっぱりお前とはやっていけん。」貴方が昔吐いたその言葉は、今でも私の日記の最後のページ記されている。わずか数年しか経っていないけれどもう初めの方のページに記した文字は掠れ、貼られた写真も色褪せててきている。当時、私は貴方を死ぬほど憎んでいたのに、今となっては貴方からの電話が来ても、何も思わなくなったみたい。「...なあ、やっぱりやり直してくれん?」何度も不規則にかかってくる貴方の身勝手なセリフにそろそろうんざりしそうになってくる。私も、そして貴方も、あれから何か変わったのだろうか。いえ、現在はおろか、初めから幸せについて…続きを読む
俺は最近仕事も入らなくて金欠だったため、単発で稼げそうなところを転々とする日々を送っていた。今日も同じようにネットで探していると、イベントスタッフ・単発バイト「貴方も有名なサーカスのイベントを一緒に盛り上げませんか!?」○○○サーカス株式会社2021年○月○日翌日払い、日給2万円備考:20代から30代の方で、できればスタントマンの方が望ましいです。俺は「スタントマン」という単語に目を留めた。バイトでスタント、しかもサーカスというのも珍しいなと思ったのもあるが、何より、俺自身がスタントマンとして以前までは生活してきたからだ。俺はバイトを送る日々ではほんの一つも味わえ…続きを読む
私「おはようございます。」一面の銀世界が一望できる高層ビル群の一角、私は温かいエアコンの効いた部屋に出勤した。「おはよう」「おはようございます」ちらほらと挨拶を返してくれる声が聞こえた。IDカードで打刻し、席についてメールチェックとwebサイトのアクセス数等の確認を行う。橅木「よっ、おはよう、保与田(ほよだ)。今日も頑張ろな。」恰幅の良いスーツの橅木先輩に後ろから声をかけられた。私「あ、おはようございます橅木先輩!」私も振り返って笑顔で返した。後ろのブラインドから漏れた日光に照らされて、彼がいつもよりも輝いて見えた。以前に私が取…続きを読む
霧がうっすらと立ち込める深い緑の中、俺は息を殺しながら、グッと腕に力を込めて弦を引いた。キリキリキリと音を立てて撓むリム。小刻みに震える矢の先端。その延長線上の遠くで草を食んでいる、獲物には俺は全く気付かれていない。俺は数秒間目を閉じて、深呼吸をした。そしてもう一度軽く構え直し、矢を目線の高さに合わせた。そして、獲物の胸の中央に合わせ、勢いよく矢を放った。シュヒュー...と空を切り飛んでいく。矢が獲物の心臓に突き刺さり、ピィーーと悲しげな鳴き声が山に木霊した。........屈んでいた姿勢からゆっくりと体を起こし、被ってい…続きを読む