初めまして。
ベレーをかぶった不思議ないきもの『みずまんじゅう』を引き連れて、あちこち旅する物書きです。
思いついた時に、思いついたように書きます。
例えば10年前に決着がつかなかったシナリオをまとめなおすとか。
例えば10年後にあの時完結できて良かったと振り返れるように物語を書くとか。
いろいろやっているようです。
別所でも活動していますので、見かけた時はよろしくお願い致します。
【作品全体について】
ひとつひとつ時間のある時に作っています。
ただ、多忙であるため、もしかしたら完結しないかもしれません。
どうか温かく見守ってください。
【雨上がりには銅の月について】
この作品は、私にとってちょっと特別です。
読んでくださったら、とっても嬉しいです。
曇り空の下、乗合馬車が街道を駆け抜けている。俺はいよいよ荒れ地の向こうに見えてきた工業都市の輪郭を、ただ何も言わずに眺めている。 ぱっと見た限りは、彩度の低い石造りの都といった風であるのだが、ミッドに言わせればあれは偽装なのだという。「工業都市は少々特殊な街です。ハイテクノロジーを所有しながらも、ファンタジーの形を為すことを意識しています」 ミッドも窓から石造りに見える都を見て、眉を寄せる。彼にとって、このエリアに入ることは、それだけで苦痛なのだということが、俺にもはっきりと理解できた。「アマナちゃん、起きないね……」 一方で、クローディアが抱きかかえたままの緑の繭から、ア…続きを読む
『わたし』がその店を見つけたのは、冬の始まり。雪にはまだ遠く、紅葉は赤くなるのをやめて、少しずつ街が灰色になっていく頃でした。 オフィスの機器トラブルで仕事ができなくなったわたしは、しぶしぶ家に帰る最中でした。リモートワークにすればいいのに、いつまでもオフィスに出て行かなければならないのが嫌でしたから、少しむくれていた顔が、店のショーウィンドウに映っていたのです。 ぱっとしない化粧。地味な眼鏡、言うことを聞いてくれないくせっ毛。精々、申し訳程度に仕事着に押し込んだ身体も窮屈で、何もかもうまくいっていない気持ちに苛まれていました。 自分の苛立ち気味の足音ばっかりが耳に響いて、より一層不機…続きを読む
とはいえ、前回は思わぬ形で採用と相成ったので控えめに……。「一日一時間」:昔ゲームはそう言われていましたが、今、あなたは何を一時間にしますか?「夜中に動くmonogatary」:夜中にTwitterで動いていらっしゃるのを見かけたので……。「効果がない!」:魔法だったり、ダイエットだったり、なんか怪しい薬だったり。「自分の作品をアピールする日」:私のように一つのお題に居着いている人もいるかもしれないので、ここで昔のお題を語ってみたりするのもいいかも。「隣の家にいるいきもの」:隣の家の窓から猫の尻尾や、知らない生き物の顔が覗いてはいませんか? 以上の五本でお送りします。…続きを読む
https://monogatary.com/episode/89977 「命の形」 Ame様 この作品を読んだとき、ふと思い出したのは服薬自殺した友人でした。まだ、三年も経過していない、本当に直近のことです。しばし疎遠だったところ、彼女の一番の人伝いに聞き、なぜだかどうしてではなく、どうやって死んだのか聞いてしまったことを覚えています。 生き辛い状態で「何とかなるよ」は救いにならず、「未来はきっと明るいよ」は嘘でしかなくて、じゃあどうすれば希望を持てるのかと、私もそうした苦しみを抱える一人です。ですから、主人公と同じく声を掛けることも憚られて、結果として彼女が最も苦しい時に気付かず…続きを読む
https://monogatary.com/episode/90045 「世界の境界線」 百度ここあ様 この物語はとても短くて、おそらく考える余地もたくさんあるのだと思います。 その中で、私がとても強く感じたのは「視界」の描写の鮮やかさでした。 目を開けば空があり、ぬるい風が吹いている。『あなた』が遠く離れてゆき、ついに言えなかった言葉が溢れては消えている――。 そうした、心理の部分でさえ、「吹き出し」や「鳥」になって、主人公の心の中に溢れているのです。 まだ立ち直れない中で、目を閉じる。そうして現れる祈りと孤独の暗闇が、少ない言葉の中にぎっしりと詰まっていて、寂しいと思…続きを読む
僕と、僕の母の話がしたい。聞いていってはくれないだろうか。 まず、僕らにとって、家族とは誰よりも他人でなければならない存在だった。その発端は、母と祖母の仲が悪かったことにある。二者の関係は姑と嫁ではない。実母と子だ。 祖母は女というものを憎悪していて、娘である母のことを「芸無し猿」と呼んでいた。祖母にとって、女とは泥棒であり、無能であり、何をしてもいい存在だった。「ババアに飯を持ってって」「ん、分かった」 と、まあ、彼女は愛や希望を踏み潰し続けた実母をババアと呼び、「口先だけで人を玩弄する女だ」と憎んでいた。仕打ちからすれば当然である。 さらに負けず嫌いの彼女は、生け花も茶…続きを読む
https://monogatary.com/episode/88611 ~ 「満月記」(プロローグから「神使」と「小説の神様」まで) キンクロ製作委員会様 "今宵の満月は、一分の隙もなく、完全無欠にまんまるだった。" そんな魅力的な入りから始まる物語です。 選ばれた小説家以外は、嘘(フィクション)を禁じる世界において行われる人間関係について綴られています。まず、「月が綺麗ですね」という言葉が何を意味するのかというのは、我々物書き的にはいつかぶつかるであろう、故事成語のようなものです。 その言葉が、要所要所で出てきます。だから、これは現代社会のラブストーリーなのかなあと思って…続きを読む
https://monogatary.com/episode/87908 「海がいた街」 うらめし様 ヒロという少年が、ちょっとしたことで自転車のタイヤを壊してしまい、そこから海という少女に出会うお話です。 舞台は小さな街ということですが、この表現も、ヒロから見た街の印象といった感じでとても素朴です。 天真爛漫な海に振り回されつつ、おじさんを待っている間に二人でゆっくり喋ったり、笑ったりしていたのかなという独特の行間を感じます。夢中で漕いだ自転車に、曲がってしまったホイール、ラムネの瓶のきらきらとしたガラス玉。 冬よりも濃厚な青い空や、セミの鳴き声も聞こえてきそうな、素敵な夏。 …続きを読む
https://monogatary.com/episode/86465 「触れない同窓会」 hisa様 コロナショックからテレワークになった人も多いと思う。主人公も多分、そういう人の一人だ。 主人公はただ缶ビールとつまみを持ってきて、同窓会に参加する。が、会うことそのものよりも酒を飲みたいという気持ちが勝ることに、寂しさを覚えてしまう。 仕方が無いと思いながらも、どこか物足りなさを感じ、仕方ないと言いつつも割り切れない気持ちに苛まれる主人公。 そこへ、一通のとても短いメッセージが届く――。 短い中に人の距離を求める人ゆえの気持ちが詰まった、読みやすい作品です。…続きを読む
「ごめん。俺、大会とかももっと出たいし、東京に行くよ」 シンガーソングライターの彼の口からその言葉を聞いたのは、セミも鳴かないほど暑い夏のことだった。何てことのない言葉のはずなのに、鳩がわあっと飛び去って行ったことを覚えている。私はその音にしばらく言葉を失っていたから、彼にすぐ答えを言うことができなかった。 暑すぎて持っていた日傘が、手から滑り落ちるのを他人事のように感じていた。「そっか」 やっと言えた一言の最中にも、私の中で幾多もの思い出が入道雲のように立ち上っていた。 付き合い始めてすぐ、駅を二人で歩いたことが思い起こされる。彼の大きなコートのポケットの中、手を繋いだ。彼は…続きを読む