初めまして。
ベレーをかぶった不思議ないきもの『みずまんじゅう』を引き連れて、あちこち旅する物書きです。
思いついた時に、思いついたように書きます。
例えば10年前に決着がつかなかったシナリオをまとめなおすとか。
例えば10年後にあの時完結できて良かったと振り返れるように物語を書くとか。
いろいろやっているようです。
別所でも活動していますので、見かけた時はよろしくお願い致します。
【作品全体について】
ひとつひとつ時間のある時に作っています。
ただ、多忙であるため、もしかしたら完結しないかもしれません。
どうか温かく見守ってください。
【雨上がりには銅の月について】
この作品は、私にとってちょっと特別です。
読んでくださったら、とっても嬉しいです。
「ごめん。俺、大会とかももっと出たいし、東京に行くよ」 シンガーソングライターの彼の口からその言葉を聞いたのは、セミも鳴かないほど暑い夏のことだった。何てことのない言葉のはずなのに、鳩がわあっと飛び去って行ったことを覚えている。私はその音にしばらく言葉を失っていたから、彼にすぐ答えを言うことができなかった。 暑すぎて持っていた日傘が、手から滑り落ちるのを他人事のように感じていた。「そっか」 やっと言えた一言の最中にも、私の中で幾多もの思い出が入道雲のように立ち上っていた。 付き合い始めてすぐ、駅を二人で歩いたことが思い起こされる。彼の大きなコートのポケットの中、手を繋いだ。彼は…続きを読む
マウンティング! それは男も女も、自分の存在を守ろうとしてついやっちゃう失礼行為! 私もあなたもそこの誰かも、何かの拍子にやってしまいかねない危険な言動です。 しかし、ならば見下さなければいいんだろうと、こんなことを言ったことはありませんか?「私、何をするにもレベルが低くって……そんなこと一人でやれるなんて、考えられないです!」 おおーっと! 待ちましょう。 例えば料理、例えば仕事、例えばゲームのチームプレイ。 ちょっと自信がないからというのを理由に、下手に自分を下げちゃったこと、ありますよね? ついでに相手ができること、自分にはできないなんてオマケでつけちゃったりなんかして。…続きを読む
その滝は、その日も流れていた。 木々の立つ山並みの最中、剥き出しになった岩々の間を分かれて流れている。 名所であったが、その日は誰もいなかった。 ただ鳥がたまに飛んで来て、絶えず変化する滝にシルエットを落とす。 そうすると鳥のシルエットというのは滝の中で粉々になって、まるで下に流れていくようであった。 鳥自身はといえば、何が起こっているのかも知らぬ風で、枝に乗って首を傾げている。 雄大で、穏やかな光景であった。 そこに人間の介在した痕跡というのは、足跡以外になかった。 看板も、落下防止の柵も、まだ何一つなかった。 だというのに、ただならぬ緊張感があった。 在るだけでぴ…続きを読む
「オリジナリティって言ってもなー」 と、悩むのはとある魔法学校のAである。魔法で是非とも物作りをしたいという彼は、本日のお題に苦しんでいた。 オリジナリティのあるゴーレムの作成。ゴーレムとは、ものを運んだり戦ったりする、言わば魔法的サムシングで動く自律人形である。 簡単に言ってしまってはいるが、腕の立つ先達は山ほどいる。オリジナリティとはなんぞやと、小難しく考えているわけである。「計画より実行じゃん?」 こっちはAの友人のB。Aとは対照的に特に何も考えていない。材料の箱から粘土と木材を持ってきている。ここに専用のコアを詰め、専用の彫刻刀みたいなやつで回路を刻んで作るわけである。…続きを読む
これは僕らがソーシャルディスタンスなんて知らない頃の話だ。 その年も、太陽が沈んで夜になって、それでもセミの残響が耳に残るような日が続いていた。 ストリートライブを終えた僕は、帰り道の防波堤を歩いていた。結果はあんまりピンと来ない感じで、僕は喉を潤しても乾いたままの心を引きずって、とぼとぼと足を動かしている。 ギターケースが重たくて、湿気も相まって、息が詰まりそうな心地が続いていた。逃げてしまおうかなあなんて、弱気な心が囁く。 そんな僕の視界の端に、白くはためく布地が見えたのは、そんな時だった。「……?」 僕は顔を上げて、防波堤の向こうに目をやった。いつもなら、釣りのおじさん…続きを読む
悪役令嬢。それは物語において「敗北」が決定された、哀れな踏み台である。だが、その悪役令嬢は違った。 いよいよ春が近付き、芽吹きの季節となる前に、「彼女たち」の決戦は迫っていたのである。 屋敷の自室の中、鏡を見つめて笑うその赤毛の乙女こそが、此度の悪役令嬢である。(カナミ、頼んだわよ)「ええ、ミレ。大丈夫です……いよいよですね」 心の中から聞こえる声に、悪役令嬢の少女はにっこりと笑う。そうすると、心の中の気配も、楽しそうに笑いの声をこぼす。 不運な事故によって、この世界にやってきたカナミ。そして、自らの悪役令嬢の運命を知る現地のミレ。 唐突に魂だけでやってきたカナミに身体の権…続きを読む
初めまして。もしかしたら、お世話になっています。mahipipaと申します。お祭りがあったところの作品を、こちらにも残したいと思い書き記しています。 面白い話かどうかは分かりませんが、このお祭りに、昔話とメッセージを一つ置いていきたいと思います。一服の清涼剤になれば幸いです。 皆様は、SRCというフリーソフトがあることをご存じでしょうか。平たく言ってしまえば、スパロボツクールといった感じのツールです。 もう十年以上前に、私はこのSRCというツールを使って作品を作っていました。 2007年に等身大シナリオ(ロボットではない生身の人間のシナリオをそう呼びました)「かみうみ逃避行」という…続きを読む
今年も、ドローン漁が解禁となりました。 ドローン漁とは、海外から日本の状況を観察するために放たれたドローンを回収、分解して部品を自由に取引できる「偵察ドローン回収法」の通称です。今年も手製の電磁網を手に、ドローンを追いかける風景が各地で見られるようになっています。 現地の人はこのように話します。「いやあ、助かりますね。ドローンには基盤だけじゃなくて、レアメタルってのが入ってるんでしょう? あれ、高く売れるんですよ。やっぱり、生活も厳しいですし、一円でも多く欲しいですから」 年々増加するドローンを民間にも許可するという方針について、専門家はこう語ります。「毎年偵察用のトイ・ドロ…続きを読む
日本では春が訪れる三月ごろのことです。 ミツキは家族と一緒に飛行機に乗って、南の島へやってきていました。 もちろん、aiboも一緒です。 飛行機から降りて舟で島へ向かう最中も、真っ青な空の真ん中で、太陽がさんさんと輝いています。「パパ、もうすぐ着く?」「湖まで少し歩かなきゃいけないから、aiboを頼るんだよ」 ミツキがパパに質問すると、パパはにっこり笑ってaiboの頭を撫でました。 じきに、船は桟橋にたどり着きました。 パパとママ、そして旅行のスタッフさんに手伝ってもらいながら、ミツキは船から砂浜へ元気よく飛び出します。 きめ細やかな白い砂に足が埋まります。「きれい…続きを読む
あの子の絵は幻想的で、サイケデリックな味もちょっとする。僕はあの子震わす文字書いて、これでどうだと虚勢を張っている。僕らは絵描きと文字書きで、それは結構セケンじゃ窮屈で、正しいこと善いことに潰されて、その割に「いいな」なんて笑われる。世の中は決まりごとだらけで、それから外れたら悪者で、そのくせ夢なんてオススメするからイヤになっちゃうよ、それでも。悶えて吐いてうずくまり、僕らはペンをとり叫ぶよ。むかついたこともすばらしいこともえがく力がここにあるんだ!泥の底の底にある砂金を、どうか僕らに一度見せてくれ。このぼろぼろの腕を突き上げて、意地悪な世界に一矢報いさせてくれよ。…続きを読む