私はピアノのレッスンが終わり、一目散に階段を降りていった。外が雨なんてことを忘れて。 ぽつり、ぽつりと雨が私の体に落ちてゆく。今の私はどんな顔をしているのだろう。泣いているのを我慢しているように見えるだろうか。顰めっ面をしていて、近寄りたくないように見えるだろうか。 傘置きに戻るのが面倒だ。あの嫌いな場所へまた近づかなければならない。今の私は冷酷だ。少なくとも、3時間はこの調子だ。 ピアノの先生の家の前は、いつもあの音がする。あの、不思議な旋律を奏でる唯一無二の音。私の人生の柱を生きている音が、聞こえている。…続きを読む
甘い雪が降る朝に、うちの猫が家出した。 何度名前を呼んでも僕のところへ来ない。静寂な家を見て、自分の孤独さに浸る。 ふさふさの毛が癒しの白いペルシャ猫、ミルク。うちの最愛の猫だ。 暖かさが欲しくなる冬になると、いつも白い猫がこたつを占領している。幸せそうな顔でぬくぬくと寝そべっていて、絶対に僕をこたつの中に入れない。でも憎めないのがうちの猫だ。 起きてすぐミルクが家出したのを確認して部屋中を探し回ったからか、いつの間にか部屋中が散乱していた。おまけにお腹も空いている。 まずは、朝ごはんを食べよう。その後は部屋の片付け、猫探しはそれが終わってから。 僕は一目散にキッチンへ向かい、シ…続きを読む
僕は何も出来ない人間だ。 勉強も、運動も、人付き合いも苦手で。 ノートの隅に落書きしか書けない、生きてるだけ無駄な人間。 僕の弟はなんでも出来る。 勉強も運動も出来る。弟の周りにはいつも”友達”っていう存在がいる。 僕はいつも孤独に浸っていた。 にぎやかな空間が欲しい。友達とおしゃべりしたい。勉強も運動も出来る人間になりたい。 でも、友達になりたい人に友達になることを断られたら?こんな地味なやつとは友達になりたくない、というオーラが伝わってくる。僕は小さな勇気すらない。惨めだ。なんでこんなに楽しくない人生なのだろう。 親にも散々馬鹿にされてきた。 机に向かって勉強…続きを読む
月が、まんまるい月が冬空。 辺りに星は見えない。 満月の夜。2人でいようと約束したあの夜が懐かしい。 壊れた僕たちの世界でもう今はなにもできない。 夜空のまるい月に猫のシルエットが浮かんだ時、君みたいだな、って泣き叫びそうだったよ。 あのクリスマスのこと、覚えてるかな。 ネットで知り合った君。年齢を偽っていたんだよね。性格もなにもかも違う君の姿。高校生の君。イルミネーションを見に行って。君の唇は少し震えていて。僕のことが怖いのかな、って思った。 その時はまだ下弦の月で、星もきれいで。 ずっと一緒にいたいな、って思った。 デートに誘った満月の夜、ずっと2人きり…続きを読む
「生まれ変わったラプンツェル」https://monogatary.com/story/174415…続きを読む
廃校の屋上で、澄んだ空気の星空にはふたご座がきれいに映っていた。私も1年前はあの二人のうちの一人だったのだろうか。 私は双子で、お姉ちゃんは1年前に死んだ。原因は学校で起きたいじめ。双子は違うクラスに、という学校のルールから1度も一緒のクラスになったことない姉、彩希。音楽好きの父親に似て、小さな頃からピアノやギター、ヴァイオリンなど様々な楽器を習っていた。逆に私は母に似て、手芸や縫い物が好きで、よくお母さんと一緒にエプロンやバッグを作って、妹にプレゼントもした。 幸せだって思った。 こんな日々が続くんだと思った。 あの日が来るまでは。 1年前の今日。お昼休みの時間に一緒に食べ…続きを読む
ガチャ、とドアを開けた。 そこにいたのは死んだはずの親友だった。 * 私の小さなころからの好きな食べ物は琥珀糖だ。 琥珀糖は、宝石みたいな食べ物で、よくおばあちゃんが買ってきてくれた。でも、私に琥珀糖の存在を教えてくれたのは、おばあちゃんではない。宝石が大好きだと伝えた親友から教わったのだ。 親友の名は、美月だった。 名前の通り美しい月みたいな顔立ちだった。美月の家は和菓子屋さんで、和菓子にはいろいろと詳しかった。琥珀糖を知っていたのも、その知識からだと思った。 琥珀糖を初めて食べた時も美月の家だったかな。 あの琥珀糖を忘れることはないだろう。 満…続きを読む
こんにちは。神代あられです。今回は、rulyさんの企画に参加させていただきます。宜しくお願いします。まず、始めた理由。きっかけはYOASOBI様のホームページからです。「タナトスの誘惑」を読んで、サイトで投稿された小説だと知り、始めました。物語を考えること自体は好きなので。続けている理由は、、、大人になって困らないようにするためですかね。小さなころから続けていれば、大人になっていきなり「物語を書こう!」って思っても苦にはならないかなと。(笑)物語を考えられなくなりそうだし。子供のうちにいっぱい書いときます。もうひとつは、コンテストで大賞をとりたいからです。このサイトでは…続きを読む
母が死んだ。棺桶に入り、ずっと目を瞑っている。 *母は重い病気だった。最初に知らされたとき、「お母さん、もうすぐ死んじゃうんだって」と言われ、大泣きしたことがある。目の前の現実に受け止め切れなかった。でも、母は頑張った。ずっと生き続けたのだ。やがて中学生になった。桜が散った頃、「お母さん、もうすぐ帰ってくるよ」と父に言われた。父は涙目だった。感動しているんだろう、と勝手に思った。私も涙が出そうだった。もうすぐ帰ってくる。でも、お母さんは棺桶に入って、静かに眠って帰ってきた。父の涙の理由がわかった。「こんなのウソだ」と嘆いても、現実は…続きを読む