ここに集められたものは、やがて〇.〇一ミリメートルの塵になる。街中のゴミがバンカーに押し込まれて、炉が開くのを待っている。意味を持っていた物たちが塵になる。その狭間で僕は、巨大な窓と無数の計器を眺めていた。 生身で入れば悪臭と有毒なガスで五分と生きていられない。幾重もの隔壁で外気と分断された空間。人とバンカーを繋ぐのはパノラマ状のアクリル窓だけで、コンベアーが運んで来るゴミを監視するのが僕の仕事だった。 計器のランプがREDに光り、ブザーが鳴った。可燃ガスの濃度が基準値を超えたらしい。クレーンが停止しているのを確認して、排気作業に移る。静電気が引火でもしてスプリンクラーが作動したら一大事…続きを読む
monogatary.comがオープンして今日が3周年記念日。 私がmonogatary.comに作品を投稿するようになったきっかけは「Twitterの広告」だ。初投稿作のタイトルは『襷を切る』で、一言でいうなら「父親」が「息子に宣戦布告」する話。けど、今までの自分の投稿作品の中でいちばんを選ぶなら断然『犯罪促進部』かな。だって「見切り発車で書いてったのに見事に着地を決めた作品」だから。 monogatary.comを使っていて、嬉しかったのは「旧サイト時代に表紙がついた」とき。 ここだけの話、私はじつは「ハル」さんの作品が好きだ。とくにあの物語、タイトルは「monogatary恋物語…続きを読む
『クズ』『死ね』『謝れ』『失せろ』 『殺してやる』 背の低い森の木々に短冊が結ばれている。群青色の空に黒い木立。霧がかった空気に濃い色をした短冊が見え隠れしていた。その中を装束姿の男が土を圧す音を立てて歩いている。やがて男は立ち止まり『ザコが』と書かれた短冊を二本の指で掴んだ。指先から立ち上る煙。それは火となって短冊を燃やし尽くした。 革張りのソファーが四脚、大理石のテーブルを囲んでいる。「ホンマにすいません」 ソファーの後ろに立つ若者が頭を下げた。「厄介持ち込むなや。いくら飛ぶと思ってんねん」 ソファーに座る金髪が応えると、若者は金髪に駆け寄り、土下座を始めた。「…続きを読む
【ユーザー名】及川 瞳【タイトル】結婚の約束は破ったり棄てたりしない【URL】https://monogatary.com/story/87426 赤信号で立ち止まる。青信号を見て進む。それは当たり前のことだ。人や自転車の流れ、車やバイクの流れ。その流れに乗って私たちは生きている。 ビルから見下ろすスクランブル交差点。歩行者信号が青になると人々が一斉に歩き出す。「あの中の一人にはなりたくないな」 学生の頃友が言った言葉。しかし歳を重ねれば二人とも理解する。赤信号で止まる、青信号で進む。それは自分を守る為のルールでもある。信号は守らされるものではない。それぞれの目的地へ安…続きを読む
「嘘つき」 この言葉を覚えたのは中学生の頃だった。両親や教師、疑いもしなかった権威的で支配的な大人に向けた一言。彼、彼女らが見せた小さな綻びに向けて呟いたウソツキという四文字は、どんな形勢をも逆転させるだけの力があった。 高校生になって、私が嘘つきと言う相手は男子に変わっていった。あいつらは嘘ばかりだった。したり顔で言う自慢話、優しい笑顔の褒め言葉、乱暴な威圧。見下した態度。「嘘つき」 そう告げられた男子の反応は面白かった。表情は強ばり、呼吸は焦くなり、手が止まって次の言葉が出てこなくなる。 都会には嘘が溢れていた。人の嘘、他人の嘘、自分の嘘。大学や就職活動は嘘をつく場だと知った。正…続きを読む
右折禁止にひっかかってからやたらと交通標識が目につくあの道路にこの小道にもこうしちゃ危ないって書いてある規則なんて破るものと言う人もいるが僕はひっそりとコレを守っていこう当たり前なことを当たり前にしていても小さな優しさになるような気がした自分が人生の主人公ならその物語を書いたのは誰だろう変化を作れるのは語り手だけ自分が何かになりたいと言うのは人生の語り手になるということだ戦争の対義語は平和らしいということは平和の対義語は戦争だでも平和も戦争も意味はひとつじゃない同じ意味になる時だってあるんだろう曲の余韻に浸るために再生を止めたカーステレオ全人類がこ…続きを読む
東京の歌を聴いていると夜空の歌詞が耳につく。星が見えるとか見えないとか結局のところよく分からない。東京に出て三年半。夜空を見たことは結局ない。地元の自分と東京の自分は歩き方も速さも違う。速度の違うふたりの自分が今日も大学を歩いている。強いんだね弱いんだねとか言って共に過ごす相手を探してる。他人の話に耳を澄まして「ありがとう」「ごめん」「一緒に死のう」。星の数ほど吐いた嘘。夜空を見ずに星を語る。この街に持った憧れが違う自分を作り出す。服装。髪型。趣味。表情。染まるための努力が実を結ぶ。地元の自分が自分を見つめる。悲しそうな目の意味を考える。起立も礼も着席もない。座って立って終わってく講義。商業…続きを読む
グシャリ……。 耳障りな音と共に、空気の吹き出す音が響いた。ゴミ収集車の後部から赤い霧が吹き出している。「まずい!」 同僚がそう叫ぶ。 瞬間、激しい破裂音がした。全身がアスファルトに叩きつけられる。痛みを伴った無音の空間が広がる。何も聞こえない。ゴミ収集車の後部から火が上がっているのが見えた。その近くで同僚が仰向けで倒れている。ゴミ収集車はコンクリートの塀にめり込み、運転席のドアからは血が流れていた。 同僚と運転手は命を落とした。遠くまで吹き飛ばされた自分は一命を取り留めた。「赤い霧を見たと仰っていましたね」 病室には毎日刑事がやってくる。二人の死者を出したこの事故は大きく報…続きを読む
6時半に起きて6枚切りのトーストを1分焼いて8gで個包装されたバターを塗って食べる。200mlの牛乳に小さじ1杯のインスタントコーヒーを入れたカフェオレを飲む。歯を磨いて顔を洗う。洗面台でそのまま軽くメイクをする。日焼け止め、化粧水、ファンデは使う順番で鏡の右横に並べてある。左横はアイメイクの道具。眉を描いてアイラインを引く。鏡で仕上がりを確認して、それぞれの容器の中身を確認する。まだ買い足さなくても大丈夫。洗面台の下を確認する。メイク道具の一式と洗剤のストックが並んでいる。ここも大丈夫、全部揃ってる。 カーテンには6つのハンガーがかかってる。昨日の夜に準備したもの。左から、下着、インナー…続きを読む