星が降る夜。赤い屋根の家でぐったりしている犬の遠吠え。鼻を掠める煙の匂い。何もかもが遠くに感じた。何もかもが近くに感じた。あの時。まだ時計の針が2度目の11の位置に来る頃はおねんねを強要されていた時。俺らは終電に乗りそびれ、公園の芝生に寝転んだ。夜の冷たい香りと、視界いっぱいに広がる宝石のような爛々とした星たち、連れのいびき。背中に刺さるチクチクとした痛みなんて気にも止めずに夜が明けること、この時間が永遠に続くことを祈った。しかし、現実とは非常なもので、いびきのせいか、誰かが通報したようで、ポリ公に見つかった。寝起きで薄く紫かかる空のしたでポリ公との鬼ごっこ。まぁ、結果…続きを読む
空を飛ぶ鳥は誰から飛び方を教わったのだろうか。多分、教わってはいないだろう。なぜ、教わっていないのに出来るんだろうか。少なくとも、俺は教わらなければ料理は出来ないくらい手先は不器用だし、そもそも料理なんてしたことない。生クリームってケーキの上とかについてるやつなんじゃないの?沸騰直前まで弱火で温めるってドユコト?そもそも冷蔵庫にケーキ入ってないんだけど!?「アンタ、こんな真夜中に台所でなにしてんの?」背筋が凍った。誰も来ないと予測した上で真夜中1時にレシピが表示されているスマホを片手に冷蔵庫を探訪している。誰かと思い声の方向に顔を向けると、母さんだった。「へ?あー。いや…続きを読む
高校2年生の冬。クリスマスは部活に注いだ。誰かが「これじゃあクルシミマスだな!」と、笑っていたのも今となってはいい思い出だ。世間では嫌なウィルスの蔓延でバレンタイン自粛ムードが流れ、部活の仲間たちはガッツポーズを決めていた。「今年はお前も貰えないんじゃないか!」「さぁね。市販なら貰えるじゃん。」あの時は殺されかけた気がする。当日。クラスメイトやマネージャーからの市販の義理チョコを貰った。しかし、俺はチョコを食べない。余計な脂肪を付けたくないし、自分を甘やかすのはちょっと気が引ける。だから、弟に全てあげた。「今年もどうもです。相変わらずモテ男ですねぇ〜。ところでなんで…続きを読む