きみにそっと音楽を聴かせたあの夜からわたしがこれまでどんなに幼かったかどんなに一人よがりだったかを思い知ったねぇ きみはどこからやってきたのだろうシナプスがひとつひとつつながってそんなつまらないことはわかっているけれどどうしてもわからないものはたぶん永遠にわからないままわたしの小さな宇宙にいくつか星はありますかあるいは水に覆われた大地に戯れる花はありますか遠くで走る 人を乗せない電車の音がこんなに美しく聞こえる時間だからきみの赤く膨らんだ頬を夢見ながらゆっくりゆっくり 溶けていこうきみとわたしをつなぐ音わたしの中に 心臓がふたつ…続きを読む
なぁ千明(チアキ)。俺は君があの薄汚いホームレスに噛まれたときに、ちょっと「ざまぁ見ろ」って思ったこと、赦してくれるか。 だってあの日は朝に優美(ユミ)ちゃんが「今夜千明に告白するんだ」って言ったのを聞いたんだ。それからずうっとブルーだったんだよ。 お前はいつも俺の先を走ってる。好きな陸上でだってなんだって、俺はお前に勝った試しがないんだ。容姿も、身長も、足の速さも、心の広さも、何もかもだ。何もかもお前に負けているんだ。 だからさ、ちょっとくらい良いじゃん。今ぐらいはさ、俺に優越感を与えてよ。俺がいなかったら今頃お前は国に隔離されて、権力に殺されるんだぞ。 結構走ったな。疲れてる…続きを読む
本などの文章を読むときに、頭の中で読み上げる「声」が聞こえるという人が8割以上を占めているらしい。実際の物理的な声ではなく、脳内再生というか、一種のイメージによるものだろう。 かくいう私もそのマジョリティの中の一人である。例えば漫画先行でアニメを見たときに、頭の中の声と合わなかったり、イントネーションが違ったりすると、いまいちだと感じてしまう。 小説なんかを読むのが非常に遅いのは、その内なる声のせいだと常々思っていた。声のスピードに合わせて読まないといけない上に余程集中しないと理解が進まないのだ。女性の声で再生していたら実は男性だった、なんてことも、たまにあるし。 さて、今読んでい…続きを読む
起きてから、初めにベランダ側のカーテンを開ける。年中じめじめとしたこの部屋に太陽光を入れないと、そろそろ部屋からSOSの信号が出る気がしてならないのだ。 その日、ベランダには、黒光りしている細長い円柱の棒が落ちていた。傍らにはゴールドの金属片と、同じ色の一つの羽根。あぁ、また来たのかい、あの幸せを呼び覚ます鳥が……。 なんの気はなしに、黒い筒を手に取ってみる。すると、あっという間にその細長かった棒が、3本ほどの水仙の花束に変わってしまった。 水仙、酔潜、粋旋、suisen……。 水仙の花言葉は「自己愛」。池に映った自分の姿を、覗き込むように咲くことから名付けられた「ナルキッソス」の学…続きを読む
溝口は一風変わった転校生だった。中学2年の春、神奈川に引っ越した彼は、関西と九州の方言が混じったような喋り方で誰にでも気さくに話しかけた。彼は、どんな奴が来るかと身構えていたクラスメイトの意表をつき、まるで最初からそこにいたかのように、ほとんどのクラスメイトと急速に親しくなっていった。 そんな溝口にとっても、ただ一人、転校してから3ヶ月も経つのに一言も話さない生徒がいた。それは溝口自身がそうしたかったから、話さなかったのではない。彼がその生徒に話しかけようとする度に、周りの友人から「やめとけ」と釘を刺されるのだ。 その生徒は黒川といった。黒川は物静かな生徒だった。溝口が「おはよう」と挨拶…続きを読む
2時に待ってるよ的な連絡きてシカト鏡の前でアイドルソング歌っていると後ろからホールド鍵を開けられた合鍵つくるみたいなので作られてる仕方なく一緒に出掛けるストーカー、飲み屋で知り合いに遭遇 その隙に逃げる〜逃走劇〜暗い商店街を見つからないように走る家に帰っても来るからダメ途中美容院に入って気まずくなって出るストーカーは青い服逃げても逃げても追ってくる様子はないある店で過去にここに来たことがフラッシュバックその途端見つかる逃げようとするが体力が切れて腕を掴まれる。ストーカーはよくわからないことを言っている。私は逃げようとして叫ぶ。店員に助けられ、外に出る。ストーカー…続きを読む
「花鳥風月」のお題で書いた「メメとモリ」について、ただだらだらと話すだけのスペースです。作品を読んで下さった方の余韻を台無しにする可能性がありますが(笑)、よかったらぜひ寄ってってください。作品読んでない方も、私の考え方について、なんかこれは分かるなーとか、これは違うなーとか、そんなことを思ってもらえれば幸いです。実際、「メメとモリ」については割とコンパクトにまとまったので、後書きを書くこと自体、野暮だったりとか、それぞれの解釈をぶち壊すような気もしたんですが自分自身、その人がどう考えてこの作品に至ったかを知る方が、よりその世界観にのめり込める気がして好きなんです。意味不明な現代ア…続きを読む
月光があまりに大きく照らした夜に、私とモリは集まった。その日は特に暑かったり寒かったりもなくて、かといって晴れたり雨が降ったりもしていない。ただ穏やかな風が上の方から吹いていて、心地良ささえ感じていたかもしれない。そんなときに、モリはやってきた。なぜやってきたのか、正直私にもわからない。モリは右手を大きく振って「やぁ、メメ。久しぶりだね」と言う。嬉しそうに笑ってみせているが、生まれつきの下がり眉のせいで、いかんせん哀しそうな表情に感じてしまう。私はどうしてここにいるのかと尋ねてみたい気もしたが、聞いてもおそらくモリ自身も戸惑うだろうと思い、尋ねるのをやめた。前に来たときも、そのま…続きを読む
養殖人間(ようしょくにんげん) 学名: Aquaculture human【概要】養殖にて育てられた人間を、天然物と見分けるため名付けられた。見た目は天然と大差ないが、動作や学習能力に明らかな違いが見られる。【養殖方法】①人間(天然、養殖を問わない)の雌雄からそれぞれ精子と卵子を取り出し、受精卵を培養する。②成体の雌を模った保温器に入れ、約10ヶ月後に取り出す。このとき、天然との区別のため、腹部に摘出日時を刻むこと。③幼体の頃から急激に脳の発達が進むため、それを抑えるよう少量のシンナー※を継続的に与えること。(※与えすぎると体内の臓器に悪影響を及ぼすため、濃度は1ppm以…続きを読む
あらすじ 現実世界と全く同じ人が、左右反対で動いているという鏡の世界。その世界に、魂(アニマ)だけが迷い込んだ渉(ワタル)は、同じ境遇の15人の子供たちに出会う。渉は、とある廃墟ホテルで彼らと一緒に暮らす日々を送っていた。 「Mirror World -渉編-」 https://monogatary.com/story/193473 ←の続きです** 渉が鏡の世界に来て一週間が経った。渉は、今は使っていないという布団と枕を譲ってもらい、皆と一緒に寝て起きてを繰り返した。その布団の持ち主は、かつてこの鏡の世界にやって来て、後に元の世界に戻っていったという。そういう人もいるのだとい…続きを読む