立ち入り禁止の屋上、そこへ毎日のように足を運ぶ。教室や廊下に人の気配はない。しんとした放課後の旧校舎から見える新校舎には、まだ何人かの生徒が残っているようだった。この校舎にあまり馴染みのない人からすれば、きっとこの空気は少し不気味に感じるのだろう。 ―この学校の旧校舎の屋上には、ずいぶん前に投身自殺をした女子生徒の幽霊が出る、という噂があった。たぶん、どこの学校にでもある、安い作り話だ。それでも、噂の流れる屋上に、自ら近づく者はほとんどいなかった。 階段を上がって扉の前に立つと、扉は誘い込むようにパッと開く。初めて来たときから勝手に動くため、私はこの扉に触れたことがなかった。 …続きを読む
私はアスカ。両親ともに真っ黒な髪、真っ黒な瞳の日本人。だけど、私の髪は真っ白で、肌も瞳も唇までも、色素がとっても薄い。つまり、私はアルビノ。髪も瞳も黒が主流の日本では、この容姿はほんとに目立つし、初対面の人が私に話しかける時は、なぜか外国人に話すように身振り手振りで英語を交えながら話す。私だって日本人なんだから、日本語くらい当然分かるけど、日本人離れしたこの容姿では間違った印象を与えてしまうから仕方ない。 だけど私は、この髪の色も肌の色も瞳の色も、すっごく気に入ってる。妖精みたいで、ちょっとミステリアスだし神秘的だし、将来はこれを活かしてモデルになりたい、なんて思ってる。…って、こんな…続きを読む
冬の空に浮かぶオリオン座。今でもふと夜空を見上げ、探してしまう。一時期取り憑かれたように足を運んだ公園。ここで空を見上げれば、またあの少女に会えるような気がして。 自分は大して星に詳しい訳じゃない。ただ、眺めているのが好きなのだ。小さな頃から、お世辞にも都会とは言えないような場所で育ってきたから、夜には星がよく見える。 天体観測といえば夏を想像する人が多いだろう。しかし自分は、冬の星空が好きだ。とりわけオリオン座の三つ並んで光る星に、神秘的な魅力を感じていた。 高校二年生の冬、少し東京寄りのマンションに引っ越した。夜は街灯がうるさくて、ベランダから見上げた夜空に星は見えなかった…続きを読む
気が付いたらそこにいた。 無数の『夢』が、光となって漂う空間。俺はここに、あの『夢』を取り戻しに来た。 ふと、ひとつの光が近づいてくる。懐かしい、かつては自分の才能に絶望し、諦めた夢。 そっと触れてみた。暖かい。 「またその『夢』を持って行くんだね」 言葉と同時に、濃紺の髪の女性が現れる。 「はい」 俺は頷く。なぜかこの女性をずっと前から知っているような気がした。 「その『夢』はあなたに選ばれたとき、とても嬉しそうだった。手放されたとき、とても哀しそうだった」 彼女は少し間を置いて言った。 「『夢』が、あなたを求めていた」 『夢』…続きを読む