元こけし。です、名前変えました
☆モノコン2021おサイフケータイ賞優秀賞
『2071年の流行語大賞は 「タッチレス」に決定致しました』
https://monogatary.com/story/264323
☆ ABEMAコラボコンテストドラマ化原案
『今宵はキミとモノクロ写真 』
https://monogatary.com/episode/276914
挿絵を描いていただいた皆様🌸🌸
凡さん、望潮魚さん、青いてんとう虫さん、川野冴樹さん、niconicoさん、にどきんぐさん、感謝🥲
※現在のアイコン→青いてんとう虫さん♡
いつもありがとうございます🌼
「和也、彼女できたんだってさ」 バリバリと豪快な音を立てて咀嚼しながら翔平は言った。人が真剣に悩んで落ち込んでるのに何て態度だ、堅焼き煎餅を噛み砕く音が、口内で飛び散ってるであろう醤油味の破片が、遠慮なしに失ったはずの柔な片想い目掛けて飛んでくる。「は?ちょっと待ってよ、彼女作る気ないって振られたんだけど、私」 翔平の妙に冷めた態度と思いもよらない事実に苛立ちと混乱で煮えたぎる。翔平の母が出してくれた冷えた麦茶を一気に喉に流し込んだ。「なんで俺が怒られてんの?ヒステリックな女は和也でなくても好かんと思うがな」 唇の端を意地悪く持ち上げて揶揄う翔平は次の煎餅に手を伸ばす。 …続きを読む
午後十時を過ぎた頃、テレビ画面にテロップが流れた。 女優の紅羽眞子が大人気グループ、ルミナスのメンバー、紫音と結婚した。長年の噂が真実と伝えられた瞬間だった。 この時間は高視聴率を叩き出しているドラマの最中だったのにも関わらずネットは突然の速報に荒れていた。かくいう私もテレビから手元のスマホへすぐに移動した。紅羽眞子にはいつも良からぬ噂がついてまわっていた。その中の一つが紫音と交際報道があるにも関わらず数々の名俳優、モデル、アーティストと関係をもっている、というものだった。 紅羽は才色兼備で先日、客室乗務員の役で何かの女優賞を獲ったばかりのはずだ。一方の紫音率いるルミナスは海外進出…続きを読む
こうも毎日生きていると色んな毎日がある。花丸を背負って歩いているような誇らしい日も、小さな石ころに躓いて思わぬ大怪我をする日も、クラスメイトから透明人間とあだ名を貰って誰とも話せない一日も、それが連日として続くこともあるわけで。 あの日は久々に透明人間に声が掛かった。僕にそのあだ名をつけた彼は唐突に「力を貸してくれ」と頼んできた。同級の佐藤さんが好きだから見えない所でサポートするように、と言った内容だった。それじゃあ透明人間ではなく、まるで黒子じゃないかと思う。 だけど「上手くやってくれたら無視しないし、友達として俺の側にいてもいい」と交換条件を提示されて、彼の側近になるのは御免だな、と…続きを読む
いい会社に入社出来たと思う。 ただいい会社が「大した会社」とは限らない。あくまで私にとって良い会社であって国立大学出身というネームバリューを背負って潜る門ではないだろうというのがどうやら一般的な貴重なご意見だった。 企業や商社ではなく従業員も三十名程度、そのうち同じオフィスで働いているのはたった六名だ。部署だってざっくりしている。営業と総合、それだけ。営業と社長以外は全員総合に振り分けられるし総合の誰々なんて言い方はしない。営業の人を指す時だけ、営業の〇〇さんと呼ぶ。名刺もないし偉そうな役職や配属先なんて必要ない、子会社の子会社だけど給料日に決まった給金が国の決めた税金や年金、保険料が引…続きを読む
引っ越しの日が決まった。 旅行代理店に勤務する父さんが福岡に転勤になることを僕が聞かされたのはほんの数ヶ月前だった。異動の内示が出てすぐに知っていた母さんも正式に辞令が出るまで僕と妹に知らせてはくれなかった。 あまり団欒とは呼べないいつもの夕飯を囲った食卓で父さんは福岡へ異動になることを僕と妹の真奈に淡々と伝えた。それが父さんや家族にとっていい事なのかそうでない事なのかはわからなかったけど、普段より副菜が一品多いような気がするし父さんの前にはスーパーの鮮魚コーナーの刺身が発泡酒や第三のビールじゃない「本物のビール」の隣に並んでいた。都内からの異動ってちょっとどうなんだろうと思わず父さ…続きを読む
言葉を失った俺に咲希は言った。「まだ分からない?」 彼女は小首を傾げた後、「しょうがないなぁ」と言って指をパチンッと鳴らした。 途端、俺は…………。穴に落ちた。 立っていた居酒屋の床が消えた。胃が浮く感覚が一瞬、スリルを感じる暇もない程の時間だった。 音が消え、光が消え、闇に吸い込まれていく。は?俺は死ぬのか………。 せっかく外に出られたのに。女の子達に囲まれて忘れてたウキウキを思い出したってのに。 無の時間が漂っている。落下は停止したはずだが足はまだ地に着かない。空間を感じる事も出来ず広いか狭いかも分からない上に真っ暗だ。 もう死んだ。…のか?「死んだの…続きを読む
「人を殺したときどんな気持ちだったんですか?」 スッと顔の色を消した俺を気にするでもなく咲希は飄々と俺を見る。この瞬間の俺の心情まで既に見透かしているようだ。 彼女はこの数十分の間でどこまで俺のことを、いや、他の五人のリアルを見つけたのだろう。 そう思うと背中に冷たいものが走った。 閉ざした口から発するべき言葉は何か、何が正解か、俺は必死にぶら下がる嘘を掻き分ける。 掻き分けて、掻き分けて、真っ白になる。 つまり、どの嘘も掴めなかった。無駄だと思ったのだ。おそらく彼女に嘘は通用しない。「もういいですよ」 咲希がにっこりと笑った。 それは「タイムオーバー」と告げられたよ…続きを読む
最悪だ…。 赤いシートに沈んで何故か僕は映画を観ている。 集中しろ、そう思うのにスクリーンから流れるカラフルな映像は次々と場面を変えながらもなかなか僕をその世界に連れていってはくれない。 前後左右どころか一番小さなスクリーンには僕以外誰もいない。今ここで僕だけの為に上映されてる映画、チョコレート工場で作られてるチョコレートはとても甘そうだ、と思うのは海外の物だからだろうか。 たったの数時間前、僕は人生で一番甘い時間の中に居た。 控えめに言って「最高」だった。「バレンタインに期待をする男子生徒はよほどの自信家かただの馬鹿だ」とクラスの花村芳美がバレンタインの少し前に話していた。…続きを読む
無駄になるかも知れないとか何の価値もなさそうな事ばかり大切にしたくなるのは何故だろうか。それは一見無駄な事や価値のないものが化けてこっちを見るかもって信じてるから。物語みたいな妄想を書く事、ピアノを弾く事、お菓子を作る事、など。コロナ前はスポーツジムでダンスを習ってた。全く必要性のない無駄な事である。無駄な事をしていて楽しければそれは趣味だ。だけどどれも私にはうまく出来ない。うまく書けないしピアノはソナチネ以降どうしたらいいのか分からないしダンスも一年やっても私のダンスは何か変だった。星野源の恋ダンスも結局完璧に踊れた試しがない。中学の時友達とどうしてもダンススクール…続きを読む
綺麗な人だな、と思った。聡明や上品といった言葉が似合いそうだな、とも思った。 だけどそれはきっとその人の隣に並んで歩いているのが郁人だからだ。 彼女の名前が栗原紗良(くりはらさら)だという事を後に私は郁人から聞いた。 おまけにそれが郁人の想う相手だということも耳元で風が囁くように伝わった気がした。◇「ヨシユリ!二月のライブどうするよ?」 次の授業は英語で、その授業は冒頭に毎回英単語の小テストを行う。それが直接成績に響くわけでも何でもないから殆どの生徒は気にしていない。 だけど私は完全に無視できない性格で、何となく授業が始まる前に真面目に単語帳をパラパラとしてしまうタイプだ…続きを読む