ぼくは無力だ。人籠の中で泣いている人を、助けることができない。もういっそ全部さくら色の灰になってしまえばいいのに。指先が語りかけてくる。ごめんなさい。ぼくの笑顔みたいな汚い愛でつつまれたこの世界を嫌いになれなくて、ごめんなさい。泣きながら鉛筆で書いた文字を指でこすって、真っ黒になった紙と指を眺める息を止めて、ピンク色のペンで書きなおす。ぼくを、ここから出してください。…続きを読む
昔は魔法少女になれると信じていた。甘いわたがしみたいな夢をみてた。長く伸ばした黒髪を、ピンク色のリボンで結って、イチゴ味のキャンディを頬張ってた。それから時間に追いかけまわされて、気づいた時には、大人みたいな、子供みたいな、へんてこりんになってしまっていた。きっと誰かに魔法をかけられてしまったんだ。自慢だった髪は首を絞めるための蛇になって、ピンク色も、イチゴ味も、全部嫌いになったのは、魔女のせいだ。今ならわかる。虹としゃぼん玉が綺麗に見えて、風と会話するのが楽しかったあの頃、わたしは魔法少女だったんだ。今だって、魔法をかけられてしまっただけ。すぐに…続きを読む
苦しい。それは僕の内側から滲み出て、ありえないほど美しい模様になる。そして消えることなく形を変えながら、今日も君のワンピースになる。僕は知ってる。この世界は、正も善も求めてない。君が、僕が必要としているのは、優しさでラッピングされた都合の良さ。でもみんな、自分自身は正しい善人でありたいと、そう思って生きていることも知ってる。僕がヒーローになるから、君が悪役になってよ。口には出さないけれど、一度は言ってみたくなったことあるでしょ。幸せの一つを手に入れるために、憂鬱になる。そうすることで息ができる。みんな同じだってわかってるけど、この気持ちは僕だけ…続きを読む
空想と現実が溶けて滲んでも、その境界線を覗く人がいないように。コンクリートにひび割れがあっても、その隙間を埋める人がいないように。ぼくときみが出会うまでの時間を知っている人は、きっといない。この景色も、誰が何を見てどう思うのか、わからない。毎日まいにち通るこのみちで、いつもいつまでも変わらない香りを吸い込んで、今日だけ、ちょっとだけ立ち止まって、乾いた唇を舐めたりしてみる。そんで野良猫にいってみたりするんだ。可愛いね。って。…続きを読む
わたしは、「他人とは違う」それは大さじ一杯の優越感と、1リットルの劣等感でできていて、そのまわりには、無限にドロドロした闇が広がっている。命がわたしになった瞬間から、絡みついて離れない罪のリボン。誰に対する罪か、何に対する罪か。教えてくれと、ひたすらに繰り返す声にすら巻きついてくる。どうすれば許してもらえますか、誰が許してくれますか。許されることも、裁かれることもなく、生きることも死ぬこともできず、ここにいる。助けてなんて言わない。でも、もう少しだけ、諦めたくない。誰か、この呪いの人形に名前をつけて、呼んでください。…続きを読む
風邪を羽織って出かけよう。右足には新しいサンダルを、左足にはお気に入りの長靴をはいて。持っていくのは片想い色のちゅうりっぷ。空から降ってきたクレヨンが、風船のまちを描いたら、チョコレイトみたいなねこが教えてくれる、もうすぐあの子に会えるってこと。クラリネットのはなうたを、オルゴールの中で溶かしたら、あの子のためにネジを巻こう。しゃぼん玉の丘、星屑の喫茶店、虹の交差点をこえて、木漏れ日橋を渡ったら、君と出会うまであとちょっと。多分、きっと、もうちょっと。…続きを読む
全部消したいし、消えたい。人が死ぬことがとてつもなく悲しいから、死んで欲しくない。会ったこともない誰かに向けて手紙を書く。そんで机のおくにしまい込む。だけど、私は死にたい。こんな世の中だからみんな死ぬんだ。みんな死ぬからこんな世の中なんだ。鈴を振り回しながら泣き喚く。涙なんて流れるわけないのに。全部なくなってしまえばいいのに叶わない。この悲しみが、この苦しみが私なのだと、それらがなくなってしまったら今の私は消えてしまうのだと知っているから。だから私は死にたくない。消したくても消えたくても、誰かの机の奥で、私に向けた手紙が眠っている気がする。だから私は生…続きを読む
生きる意味が欲しい。生きることに意味が欲しいわけじゃなくて、「生きる意味」が欲しい。それさえあれば僕は思考を止めずにいられるから。でも、生きてなきゃ手にはいらないでしょ。だからもう一度最初から、ゆっくり、はじめたい。自分じゃない誰かとして、生き返れたらの話だけどさ。それって生き返りじゃなくて生まれなおしだとか、そんな金木犀みたいな声で言わないで。そんなのどっちでもいいし、この崩れかけのほしに正解なんて存在しないんだから。間違いはあるけどね。君は生き返りたくなさそうだね。ほんとは僕も同じ気持ち。でも、いつのまにか殺されてたぼくにはやり残したことがある。ぼくは…続きを読む