家に一枚のハガキが届いた。光希(みつき)からだった。今の時代にスマホじゃなくてハガキを送るなんて光希らしいなと思った。『できました。まだ全てに納得はしていないけど、気持ちも落ち着いて余裕も出てきました。光希』メッセージはそれだけで、ちょっととぼけた表情で笑っている女性の顔のイラストと電話番号が添えられていた。僕はすぐにその電話番号に電話をかけた。「もしもし」すぐに若い女性が電話に出た。「光希? 聡(さとし)だよ」「お久しぶり」 植田光希に初めて会ったのは僕が大学2年生のときだ。僕はそのとき趣味でマンガを描き、同好の仲間とサークルを作り同人誌も出していた。サークルの仲間とは月に一回位…続きを読む
夏の陽射しは強かった。その強い陽が当たりトマトの実の赤さがいつもより輝いて見えた。僕は額から汗をたらしながらトマトの生育状況やセンサーの状態をチェックした。トマトの根元に埋め込まれたセンサーを掘り出し反応をチェックし、調子の悪いセンサーは交換した。ここは東京の都心にあるビルの屋上だ。ここにトマトの試験農園を作り、センサーを利用して農作物の栽培を最適化することを研究していた。このビルの中に大学の研究室があり、僕はそこの助手としてこのテーマに取り組んでいた。一通りセンサーの確認と交換を終えて僕は階下の研究室に戻った。「北村君、どうだい、センサーの調子は?」助教授の武田さんが声をかけてきた。「…続きを読む