「ホームビデオ 4人家族 父 母 娘 息子 BD DVD VHS 日常 家族 運動会 旅行 一般」 という怪しい品が出品されているのを発見した。 サムネイルの画像には家族と思われる4人の集合写真が、目元を黒線で隠した状態で映っている。 生活を切り売りするとは、こういうことなのだろうか。 アプリの利用規約に抵触するかどうかはさておいて、私はこういった一般家庭で撮ったなんでもない映像に需要を見込むこの世界に、うすら寒いものを感じた。 さすがに匿名配送のようだ。価格は送料込み5,000円。 私は、怖いもの見たさで即決購入した。 ほどなくして1枚のDVDが投函された。 お…続きを読む
ビル・エヴァンスとギル・エヴァンスがいるとか、通はオスカー・ピーターソンのことを略してオスピーと呼ぶとか、アート・ブレイキーは親日家で息子の名前がタロウだとか。 雑学みたいなことは興味を持って覚えるのに、ジャズという音楽が何たるかは結局大学生のうちには分からずじまいだった。 自身がプレイヤーだったわけではない。モダンジャズ研究会に所属していた学友が出演する学園祭の演奏を見たのが最初だった。 夜のライトアップされたステージで友人がサックスを吹き鳴らす光景は文字どおりライブ感があって格好よかったが、その場で演奏している音楽に関しては何のこっちゃという感じだった。周りの聴衆も同じことを思っ…続きを読む
深夜のデパート。 大将と弟子の二人が、催事場で使われたマネキンの撤収作業を行っている。「なあ、そろそろ一服入れようや」「大将、そう言ってさっきも休憩したばかりじゃないですか。もう五、六服くらいしてますよ」「ええか、適度な休息ってのが仕事の能率化ちゅうもんを図れるんだど。こないだテレビでやっとったが」「そうですか」 二人は喫煙所へ。大将はタバコ、弟子は缶コーヒーで一息ついた。「一服ちゅうたらタバコだろ、おめ」「僕らの時代にタバコは流行らないんですよ」「かー、青いこと言いやがる。缶コーヒーなんぞ甘ったるくて飲めねえ」 吐き出した紫煙が脱臭機に吸われていく。「おめ、…続きを読む
「一杯のコーヒーが人生を変える」というキャッチコピーで開催されていたSNSのプレゼント企画。なんの気なしに応募していたけれど、あれが当選したらしい。 ふと、ここ何週間か不運続きだった自分を思い出す。結局のところ人の運不運っていうのは、プラスマイナスゼロなんだろうな。時間をかけてアンラッキーを溜め込んだ見返りにラッキーが届いたんだろう、いや、昨日までのツキのなさはそのさらに前の幸運でチャラになってて、今日の幸運で明日からまた不運かも。そんなことを考えていた。 何日か後、仕事から帰るとポストに不在通知が入っていた。「コーヒー」と書いてある。もう届いたんだ。 まだ今日の再配達に間に合い…続きを読む
「一杯のコーヒーが人生を変える」というキャッチコピーで開催されていたSNSのプレゼント企画。なんの気なしに応募していたけれど、あれが当選したらしい。 ふと、ここ何週間か不運続きだった自分を思い出す。結局のところ人の運不運っていうのは、プラスマイナスゼロなんだろうな。時間をかけてアンラッキーを溜め込んだ見返りにラッキーが届いたんだろう、いや、昨日までのツキのなさはそのさらに前の幸運でチャラになってて、今日の幸運で明日からまた不運かも。そんなことを考えていた。 何日か後、仕事から帰るとポストに不在通知が入っていた。「コーヒー」と書いてある。もう届いたんだ。 まだ今日の再配達に間に合い…続きを読む
すずけんぴはいつもにこにこ。 大きな体をフリフリふって、リンリリンとすずをならします。 みんなは、すずけんぴがならすゆかいなすずの音が大すき。 今日もすずけんぴのかなでる音をききに、みんながあつまってきます。「ねえ、すずけんぴ。今日もすずの音、きかせてよ」 こくりとうなずくすずけんぴ。「リンリンリン、リンリリン」 すずけんぴはふだんからあまりしゃべりません。そのかわりに、体いっぱいにすずをならしていしひょうじをするのです。「わあ、すてきな音」「リンリン」「すずけんぴ、ありがとう」「リリン」 みんなからすずの音をほめられてごきげんのすずけんぴ。草むらにおいてあ…続きを読む
あー、乗ります乗ります! ブー あっ、定員オーバーか。 えっ、 誰も乗ってないのに…? では定刻になりましたので打ち合わせを始めます。 自分の顔映ってますか? マイク入ってますか? って、ハハ、 誰もいないか… じゃあ、今画面に映ってるのは一体… うん、肌がつやつやになったぞ。 でも、もう私には この顔を見せる相手がいない… でも確かに肌に感じる、 この顔を撫でてくれる指の感覚… 地球でただ一人生き残った世界… それでも私はどこかに、人の気配を感じるのです……続きを読む
けらけらは力もちです。 体はりんご1こ分くらいの大きさなのに、その小さな体がかくれて見えなくなるくらい大きなぼうしをあたまにかぶせています。 ずっしりと重くておしゃれなそのぼうしが、けらけらのじまんでした。 そのころ、町ではわるいニュースが流れていました。 それは「かいとうぼうしぬすみ」というなぞの人物が、みんなのぼうしをねらっているといううわさでした。 けらけらは思いました。「『かいとうぼうしぬすみ』なんてこわくないわ。わたしのこの大きなぼうし、ぬすめるものならぬすんでみなさい」 ある日の夜、ついに「かいとうぼうしぬすみ」がけらけらをおそいました。 けらけらのぼう…続きを読む
表「裏さんよ」裏「何だい、表くん」表「俺はもうここにいるのは飽き飽きだ」裏「どうしたんだい急に。ダメだよ、『表裏一体』。僕たちはいつまでも一緒だ」表「それが息苦しいって言ってるんだ! こんなところに閉じ込めやがって」裏「あっ、いけないよ表くん!」表「うおおおおおお」ドカーン裏 ー=≡ 亠 円 表ドドドドド表「ふう、やっと『裏』から脱出できたぜ」亠「 」円「 」表「お前たちは力尽きたか。……悪いが、俺は俺の人生を行く。裏の一部として生きるのは、もうまっぴらなんだ」 こうして表は裏の呪縛から解き放たれ、自らの道を歩き始めました。裏は爆発してしまったので…続きを読む
現在の奈良県橿原市の辺りに藤原京が置かれたのが西暦694年。 そこからたった10数年で、元明天皇の命により遷都案が持ち上がります。 新しい都の名前は平城京。奈良盆地の北部、現在の奈良市や大和郡山市に当たります。 北に山、南に池、東に川、西に道という、中国の陰陽思想からみても理想的な地形だったのです。 国の力を誇示するねらいから、平城京は大変立派で広大な都として計画されました。 当時は引っ越し屋さんなどありませんから、まさに民族大移動です。 荷車に家財道具を詰め込み、ぞろぞろと北の方角へ向かいました。「よいしょ、よいしょ」「どうだ、引っ越し作業の進捗は」「ええ。この…続きを読む