熱血系サラダ
ヒトというイキモノが好きです。
強くも脆く。正しさの中に悪を飼い。大好きなのに大嫌い。わかってるのにやめられない。綺麗なものは汚したくなる。欠けの美しさ。
公式や方程式で解けない人間。
それを表現する『物語』も好きです。
全人類を幸せにはできませんが、関わる人には幸せになって欲しいと考えています。
このmonogatary.comの場においては、私の物語で、皆様に幸せを感じてもらえるように頑張ります。
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⭐︎20210707画像変更しました。
「もうそのくらいにしたら?」 いつだって桃子は優しい。 私がついさっき海外旅行から帰ってきたときには、わざわざ空港まで車で迎えに来てくれた。その旅行先のバリ島だって、もともとは桃子の憧れの観光地だ。本当は桃子だって行きたかったはずだ。それなのに私を独りで送り出してくれたのもまた桃子の優しさなんだと思う。「だってぇ、桃子がさぁ、今日は飲もうって言ったからだぞぉ」 私は桃子のせいにして、グラスに何杯目かのウイスキーを注いだ。薄めるための炭酸水はとっくに刺激がなくなって、氷とまじっても全く音を立てなかった。「そうだね。うん、今日はとことん話を聞くよ。うん。そうだ。私も飲んじゃお」 桃…続きを読む
その日、夕方からの天気予報は雨でした。 私は洗濯物を取り込もうと庭に出ていました。夏の日差しを受けていたタオルは軽く、風を受けるたびに飛び立ちそうになりそうで、遠くへ運ばれないようにと、物干し竿から慎重に摘み取っていました。 右手にいっぱいのタオル、左手で軋む腰を支えて、空を見上げました。 大半はまだ透き通るほどの真っ青の空なのに、山の際には入道雲が我先にと背を伸ばしはじめていたのです。 空に視線を奪われていると、パタパタと弾むサンダルの音が乾いたアスファルトに響いてきました。娘の加奈(かな)が息を切らして走ってくるのが遠くからでもわかりました。サンダルで走ると危ないよと言っても一…続きを読む
はじめての街では、その街でしか食べられないものを食す。これが僕が僕にかしたルールだ。 だから、どんなに口がハンバーガーを欲していようとも、鼻がラーメンに吸い寄せられようとも、出かけた先ではその土地のものを食べていく。 だからといって先にネットで調べるもんじゃない。そりゃ便利だ。何があるか、どこにあるかが書いてある。値段が書いてあるのは僕でも便利だと思う。ふらっと入ったメニューのない店で、ありえない価格を請求された日にゃお金は出るけど涙も出ない。 だけど、大抵の場合はライターさんの評価が細かく書いてあるわけだが、美味いも、美味くないも結局はライターさんと食べ物の相性であって僕との相性は…続きを読む
『キリのいいところまで』そう思っていたけれど、指は止まらずまた次のページを刻む。夏の日差しはとうに入道雲の彼方に下がり、あれほど眩しかった日差しは明日のものになった。「ねえ、雨だってば」ソファに座ったまま、すでにやる気の抜け切ったコーラを、乾いてもいない喉に流しつつ貴方がいう。あんなに刺激の強かった炭酸ですら今はただの黒い砂糖水に成り下がっているんでしょ?眉間の皺が目に浮かぶわ。私は返事のひとつも返さずに、窓際に置かれた椅子を揺らした。この場所が縁側に近いのはスマホの画面を読み書きするのに都合が良い程度に明るいだけで、縁側に出したまんまの貴方のまくらや、そこから庭に出て貴方の洋服…続きを読む
夏の空を見上げると、透き通るような青空に白い雲が浮かんでいた。「まるでクリームソーダのようだね」グラスの中にはじけるパチパチは、僕の耳へと届いて、そのずっと奥にあるカチコチのアイスみたいに凍り付いた世界をすっと優しく溶かしていった。「君はまるでラムネのようだね」えっ、どういうこと?目をまんまるのビー玉みたいにして君が聞き返す。汗をかいた薄いグリーンの瓶が細い指になじんでいる。だってほら、慌てて飲むと全然出てこない。僕はもっと君のことが知りたいのさ。食欲がないなんて言うと、暑いのにそうめんを湯がいてくれた。冷えた麺と合わせたプチトマトが二つ。君は、トマトひとつをひょい…続きを読む
この部屋は、街が賑やかな割に、夜にはとても静かになった。というのは、住み始めてから気が付いたことだ。比較的大きな造りは家族向けにしつらえたようで、一人暮らしの僕には持て余す感じがした。実際は親戚の叔父さん夫婦が海外に転勤するとかなんとかそんな理由で、手放すのももったいないとして、ちょうど部屋を探していた僕がしばらくの間住むことになったのだ。ただの引きこもりから、部屋の番という仕事を与えられたといえば聞こえはいい。引っ越しの荷物をまとめたときは、あんなにたくさんのダンボールがあったのに、持ち込んでみるとそんなに多くないことに気づいて、部屋が変わっただけなのに、とても肌寒い気持ちになっ…続きを読む
おばあちゃんはなんでも知っている。 私はおばあちゃんが好きだ。 おばあちゃんはなんでも知っている。 知らないことなんて何もないかのようだ。 それにおばあちゃんはとても優しい。一緒に遊んでくれる。 私はおばあちゃんのことが大好きで、母の実家に行くと、おばあちゃんのそばに行く。「ねえ、おばあちゃん、おままごとしよう」 私は一番のお気に入りのおもちゃを手におばあちゃんの部屋の扉を開けた。 ままごと化粧セットは、私がはじめて手にした化粧品で、おもちゃとはいえ私を大人の世界へと連れて行ってくれた。「あらあら可愛いお姉さんだこと」 おばあちゃんは目を細めて笑ってくれた。 今…続きを読む
金曜の夜は、まだ始まったばかりだ。 流れる街灯が車内に差し込むたびに、ドアの小さな小物入れに置いたスマホの背中が、キラリと反射して私を欺いた。何度も何度も手に取ろうとするたびにためらって、左手は空を切った。自分自身の衝動的な条件反射がむず痒くて、視線を首ごと窓の外へと押しやった。 駅前には人が溢れる姿が見えた。数多の靴音と話し声がそこにはあるのだろう。だけど、助手席のドアをバクンと閉めたその時から、街の音は遠い彼方へと消えてしまった。 代わりに、カーラジオからは遠慮がちな音量の番組が漏れ聞こえてはいたが、いったい何が流れているかはわからなかった。といって、消してしまうでも、ボリュー…続きを読む
夜行列車に乗って、貴方の街を出ていくわ。だって貴方は眩しいから。貴方はいつだって遠くを見てた。その目が嫌いだったのよ。わたしのことは忘れて頂戴。夜行列車に乗って、山をいくつも越えるわ。今日は星がとても綺麗ね。そんなことさえ忘れていたわ。いつか貴方のことだってきっと忘れられるはずよ。夜行列車に乗って、いくつも川も渡ったわ。流れる水が嫌いだったのよ夜行列車は便利ね願うだけで超えられるきっとこの恋だって超えていけると思うのよ夜行列車に乗って、いくつも川を渡ったわ。いくつも川を渡ったけど結局、海は越えられない。流れる涙が嫌いな貴方には見せたくないの、私…続きを読む
今始まるは円形の特設会場、ここは古代のコロッセオか、はたまた陸上トラックか、熱い視線を注ぎつつ、熱い飛沫を抱き込んで、逃げ場無くすようにフタをすれば、そこから先は真剣勝負のはじまりはじまり。はるか昔にアダムとイブが出会ったように、出会ってしまったからには止められない。かたや熱々の熱血野郎。かたやカラカラのドライな子。ぶつかるゴングはタイマーのスタートボタン。ピッと鳴らせば真剣勝負。熱血野郎はなんとかしてドライ子ちゃんを口説き落とそうと必死であの手この手を繰り出していく。一方のドライ子ちゃんは熱血野郎の熱い攻撃を受けつつも芯までは染まらないわと抵抗していく。熱血野郎の勢いによりフタが浮きそ…続きを読む