こんにちは。山咲さくらです。 はじめましての方もそうでない方もこのページに足を運んでくださりありがとうございます。#コロナが明けたら北海道へ行きたくなる物語 このタグを使って、以前からmonogataryで交流させていただいている北海道出身の四名のクリエイターが、北海道を舞台にした物語をリレー形式で公開しています。メンバーは、 やすだかんじろうさん 西野夏葉さん 百度ここ愛さん 山咲さくら 以上の四名です。 コロナウイルスが世間に認知され急速に…続きを読む
見慣れた筈の景色に、あいつの面影を探し続けている。 一両編成の鈍行列車は錆びついた車輪の音を響かせてひた走る。コトン、と、足になにかがぶつかって目が覚めた。薄目を開けると、キャリーケースが足の間に窮屈そうに収まっている。 えっと、おれ。なにしてたんだっけ。 夢うつつのぼんやり頭と現実の狭間。記憶の欠片が蘇る。 ──私、魚になりたいんだよね。 そう、聞こえたような次の瞬間。ガンッ!という鈍い音。「痛っ!!」 前の座席に膝を強打していた。悶絶しながら膝をさすっている内に、あっという間に現実に引き戻される。 他に乗車客がいなくてよかった、と、ほっとする車内は貸し切りだっ…続きを読む
早速、質問にお答えしていきたいと思います!金犀さま『牛丼チェーン店に行ったことがない人』https://monogatary.com/episode/109819→× あまり行かないけど遠い昔に、すきやに行っていたことがあったような……なかったような。きつねさま『定期テストで100点を取ったことがある人』https://monogatary.com/episode/109834→△ 5教科かな? 音楽ならよくとっていたけど、中高は勉強に意味を見出せなくてウトウトしていた記憶しかないです。かふかさま『クレヨンしんちゃんを見たことがない人』https://mono…続きを読む
世界が希望に包まれる朝を眺めながら、きっと、私だけが窮屈で浅い呼吸を繰り返している。 濃紺の世界が明けて星の瞬きが薄れていく頃、昨夜の雨がひび割れたコンクリートを色濃く灰色に染めていた。街のはじまりは、夜職を終えた従業員や始発を待つ若者の声、たった一台過ぎ差る車の音でできている事を知ったのは、随分昔のような気がする。 ぼぉっとした頭で携帯を鞄から取り出し、時刻を確認する。始発まではまだ一時間ある。 昨夜から日付が変わった瞬間、私は人の密集するフロアで過ごしていた。全てを忘れたくて遊びに出かけたというのに、今日も半分だけ注がれた心のガラスが満たされることはない。 とっくに秋を…続きを読む
ピアスを開ける。 それがとてもいけない事のような気がする。「ねぇ、亮ちゃん。ピアス開ける時、痛くなかった?」 私の視界に入る亮ちゃんの耳たぶには二つ、軟骨に一つピアスが空いている。ここは私の部屋で亮ちゃんは最近発売されたばかりのテレビゲームに夢中だった。 大学生って急に大人になる。 制服を纏っていた頃と違って髪の毛を茶髪にしたり、私服がめちゃめちゃオシャレになったり、ピアスを開けたり。まだ高校生の私にはこの変化が大きくて、ちょっとだけ戸惑ってしまう。でも、今は違う。物理的に手を伸ばせば届きそうな距離に、亮ちゃんはいる。「え? ピアス? 別に大したことないよ」 はっと我…続きを読む
俺は今、少々やっかいな奴に絡まれている。 上京して四年。俺はストリートライブをしている。だから弾き語りを聞いてもらえるのは有難いことなのだが。「ねぇ、大丈夫? お姉さん酔っ払ってるでしょ」「酔っ払ってないですー。ちょっと眠たいだけー」 時刻は夜中の一時。その女は脱力しきった手をひらひらさせて、聞いてんだか聞いてないんだかわからない眠たそうな目で言った。「お兄さん上手ー。ギターはいつからやってんの?」「えっと……中学生からですけど」「すごいなぁ。私もギターやりたいんだけど、Fのコード抑えられなくてやめちゃったんですよー。ずっとやってると指の皮硬くなるじゃないですかー。あれ…続きを読む
言霊、とでも言うのでしょうか。 言葉とは時に強い暗示となって心の隅に命を宿すことがあります。 それは洗濯物の柔軟剤の匂いだったり、一緒にドライブに出かけた夜の何気ない音楽だったり。 普段は忘れているけれど、何かのきっかけで思い出す。目に見えない呪縛となって心に刻まれているのです。「親友っていいよな」「そうだね」 あの日だって。 咄嗟の言葉に嘘はありませんでした。友達以上恋人未満の私たちの関係はやっぱり、世間一般でいうところの"親友"なのだと、改めて思わされるのです。 澄んだ空を雲が流れていくように、簡単に出た言葉は本心でした。気を許しているのに一歩を踏み込まないのは…続きを読む
"紺"は"青"より濃くて、どこか寂しい。 それは心理的な要因もあるのかもしれないけれど。 藍色の空にぽっかりと浮かぶ月。 澄み切っていて穢れのない空気。 しばれる寒さは、一段とこたえる。ギュッ……ギュッ…… 雪を踏みしめる音は二つ。街灯は等間隔に並んで、近づくたびに私達の存在を暗闇の中に浮き上がらせる。「足、疲れない?」「大丈夫」 少しだけ急ぎ足なのは、隣を歩く彼の歩幅が大きいから。それと同時に、彼の歩幅について行く事ができるのは歩く速度を落としてくれているからだという事も、わかってる。「今日、寒いね」「うん」「マイナス十度だって。きっと明日の朝は、し…続きを読む
──ほらな。塾に通ったって頭がよくなるとはかぎらねぇんだよ。返ってきた模擬試験の結果は散々で、俺は苦笑してファイルの中に答案用紙をしまいこんだ。等間隔に並べられた椅子と机。仕切られたパーテーション。狭い部屋に押し込められた同級生が熱意ある先生の解説にシャープペンシルを走らせる。もちろん、自分も皆に倣って同じようにノートを開いた。ありきたりな風景の中に溶け込んだ俺に意思なんてものはない。塾だって別に習いたかったわけではなかった。みんなが行っていたから。ただ、それだけの理由。チャイムが鳴る。机の上に散らばった参考書を机に打ち鳴らして揃え、鞄の中にしまいこんで立ち上がる…続きを読む