いつもの日常で、もしかしたら起こるかもしれない不思議な出来事。
そんなものがたりを泳がせています。
◇ nagareさんがお書きになった素敵な物語、『振り返らない』。その中で『るるる世界』を紹介してくださいました。
『振り返らない』
https://monogatary.com/story/381120
登場人物たちの優しさと芯の強さに、心打たれます。
◇ 紅美子さんのお書きになった魅力ある物語、『喫茶ポエム 2.チャイ』。その中で『連続しうる空間』を紹介してくださいました。
『喫茶ポエム 2.チャイ』
https://monogatary.com/story/382041
読めば絶対、この喫茶店に行ってみたくなります。
(一番初めの『喫茶ポエム』もおススメです)
お読みいただいたみなさま、挿絵をくださったみなさま、スタッフのみなさま、ありがとうございます。
「おやおや、さるのぼうけんどすか?」どうにも腹が立つことに、ご近所の専慶(せんけい)は、ばったり道で出くわすと、決まって俺にそう声をかけてくる。鬱陶しいことこの上ない。キィーッ!「まあまあ、そうしかめっ面せんかて。どうせまた自分で花を摘みにでもいかはるんでしょ?」そんなニヤつく専慶のはんなりとした言葉使いなど聞こぬ、とばかりに俺はシカトを決め込むのである。大人はこんな嫌味にいちいち反応はせんのだ。「僕なんか、いろんな人がひっきりなしに花を持ってきてくれはるから、埋もれそうになって正直困ってるんどす。ほほほほほ」カッチーン。「やかましいっ、黙っとれ! 花を摘みにいこうが…続きを読む
イギリスのとある場所に、『世界の扉』というものがある。 この扉が初めて公の場で開かれようとする二ヶ月前。 日本のとある空港では、公衆の面前にも関わらず、一人の美しい女子高生に馬乗りになっているとんでもない野郎がいた。 もしそんなシチュエーションに遭遇したら、僕ならどうする? 直ちに誰かを呼ぶ? 驚いて呆然とする? おろおろする? 見て見ぬふり? とりあえず録画しちゃう? いいや、どれも不可能だ。 なぜならその馬乗りになっている野郎こそ、何を隠そう僕自身だったのだから。 もう誰か僕のことを、「このオタンチン野郎!」とぶん殴ってやってほしいくらいだ。「真面目な陸君」と名高い自分が、…続きを読む
「『あなたは22歳で亡くなるでしょう』って、占い師に言われたから、今まで思いっきり好き勝手に生きてきたけれど、今日で23歳になってしまった。貯金も一切合切使い果たしてしまったし、いったいこれからどうしたらいいんだろう」これはその昔、友人のワタリが言った言葉。そんなワタリだが、今は家庭を持ち、バリバリと働いている。「もう何もかもどうでもいい! 生きていても仕方がない。絶対30歳の誕生日を迎える前に自分で死んでやる!」そう去年まで叫んでいた知人。だがこの人はこないだ誕生日がきて、めでたく30歳になった。今度は35歳の誕生日までに自分で死ぬと宣言している。宣言し…続きを読む
どうやって入り込んだのか。気づくと僕の頭の中に『魔王』の姿が。こいつは厄介だ。中でぬたりとした笑みを浮かべるから、僕は見えてはいないその顔を想像し、慌てて口に手を入れ掻き出そうとする。もちろん上手くはいかない。頭の中はどんどん支配されていく。『魔王』というからにはきっと、生死に関わる問題となるに違いない。そう思った僕はしこたま考えて、『魔王』の頭の中を乗っ取ることにした。これはなかなかに妙案だ。僕には見えていないけれど、僕の頭の中の『魔王』は、僕が『魔王』の頭を支配し始めたことで、随分と焦っているに違いない。そう想像すると、…続きを読む
冬でも青々とした葉が生い茂る楠木。 そこから、一人の男が降ってきた。 柔らかな日の光がその男の茶色い髪を輝かせ、鈴子の目を釘付けにした。 ◇ 混雑する土曜昼過ぎのデパ地下。 その中をただ一人、鈴子は洋菓子売り場から出口に向かって疾走していた。 テレビやネットで紹介された美味しい品々に魅了され、フロアは人また人で埋め尽くされている。チョコレート商戦ひしめく臨時店舗の前を過ぎ、長蛇の列が出来ているブースをすり抜け、リカー売り場を横切る。 地下街・地下鉄連絡口、と表記された硝子扉の出口が見えた。デパートに入って来る客の波を押しのけ、鈴子は転がるように出口を抜けると、そのままの…続きを読む
鬼が転校してきた。女子高生の鬼。めちゃくちゃ可愛い子だ。私の隣の席になった。「よろしくお願いします」挨拶してくれた彼女の声。これまためちゃくちゃ可愛らしい。鬼の転校生という噂は、すぐ校内に広まった。みんな興味津々で私のクラスに彼女を見物にくる。男子生徒はメロメロ。自らをアピールするのに躍起になりだした。女子生徒はソワソワ。好きな人を盗られやしないかと心配しだした。それにしても、なんで鬼が転校してきたんだろう?「私、鬼の世界ではもの凄く出来が悪いんです」彼女はそう言って、私に転校してきた理由を教えてくれた。出来が悪いせいでいじめられて、しかたなくこちらの…続きを読む
毎週水曜日。 僕の通う小学校では、全校生徒が校庭に集まって朝礼をする。 この朝礼。去年まで僕、嫌やってん。 一年の時も、二年の時も、整列する時いっつもいちばん前やったから。 確かに僕はチビや。 慶信(ちかのぶ)っていう、結構カッコいい名前があるけど、家族は僕のこと「チビ」って呼ぶねん。お母ちゃんもやで? 腹立つわぁ。 そんな僕やけど、三年生になってようやく、前から二番目になってん。だからめっちゃ嬉しかってん。 ほんで、誰がいちばん前になったかっていうと、シマくんがなってん。 シマくんって、あだ名やで。本当は高貴(こうき)って、僕と同じくらいカッコいい名前やねん。 シマくん…続きを読む
今年の正月は、ひとりでゆっくりと過ごすことになるはずだった。 しかし……。「……先輩、もうそろそろ……」「はあ~い、なんだね? 陸(りく)くん」「いやだから、そろそろ帰ったらどうですか? ほら、もう十時ですし。僕、送りますよ」「おおっ、十時! 今から『漫才満載まさしく万歳』が始まるな。確か8chでやるはずだねぇ」「木野先輩っ!」 僕は先輩を睨みつつ一喝した。 彼女はこちらに目を向けながらも、チャンネルをかえようとしてリモコンを置いてあるこたつの上を手でまさぐっている。取られてはなるまじと、僕は慌ててリモコンをひったくり、テレビの電源を消した。 木野雫(きのしずく)。…続きを読む
定期的に行われる「お題会議」。『いかにチーム一丸となって、スムーズに且つスタッフ全員が活発に意見を交換し合い、発言する場を作り上げ、ご利用いただいているみなさまが書いてみたくなるお題をご提供できるか』。ということでmonogutaryではお題を決める際、必ず円陣を組むスタイルで円滑に会議を進めております。円陣といえば、「しまっていこうぜっ、オ――ッ!」的なものを想像する方もおられるかもしれませんが、いえいえ、そういうタイプのものではございません。春ならば、近くの公園に植わっている桜の木の下にピクニックシートを敷き、その上でみんなして寝転びながらの円陣。職務中ですからお酒を少々…続きを読む
とある会社のとある職場にて、デスクが隣同士の兎と狐がなにやら話をしておりました。「狐さん、我が社もいよいよ来週の木曜日から三週間、冬休みですね。ピョンピョン」「おお兎さん、もうそんな時期か。しかも三週間も? コンコン、いつもの年より一週間多いんじゃないか?」「ピョンピョンほら、冬休みが明けた翌日に、我が社の重要ポストの配属を決める試験があるじゃあないですか。その試験に向けて勉強する時間も考慮して、今回は多めにくれるらしいです」「ほう、そうだったか。コンコンなんともありがたい。が、こりゃあ試験に合格せねばならぬから、遊んではいられまいな」「まったくです。あの試験さえなければ、…続きを読む