【不動の1位に挑む】世界を創ったのは他でもない私。解釈をするのはあなた。いつまでも理解しようとしろ。感想を垂れ、不快に思っても、意味を理解した気になるな。思考をし続ける。それが創造者への敬意。思考し、賛美し、非難し、いつまでも悩め。自由は恐ろしい。際限がない。物語は自由である。ならばその世界には際限がない。解釈は無限。どんなに捻じ曲げてもいい。だからこそ放つ。理屈で考えられる人間は好きだ。しかし、理屈でしか考えられない人間は嫌いだ。美しくある…続きを読む
「シャーデンフロイデ」彼が唐突に呟いた。「何それ」ベランダでタバコを吸いながら、「僕が好きな言葉」と彼は答えた。「どういう意味なの」「調べてみなよ」私はベランダの方へ歩きながら、「後でね」と答える。「また後回し」「今は一緒にいる時間の方が大切」中肉中背な後ろ姿を抱きしめようとした時、彼は振り返り、私に煙を吹きかけた。むせる私。宙に舞う煙。「煙たいね」「どっちに言ってるの」「どっちだと思う」私は答えられなくなった。煙たい女の烙印を押されている気分だった。「答えなくて…続きを読む
「いつものお願いします」カウンター席に着くと注文を聞かれ、常連のムーブを取った。「またお勉強かい、みくちゃん」「そうなんです。 この履修取る子少ないんですけど、 言語学って楽しいんですよ。 私は言語学の中で解釈とかやってて」マスターはいつも話を聞いてくれる。このお店でのひと時が心地よいから、ついつい話してしまう。「そりゃ楽しそうだね。 はい、微糖だよ。 足したかったら瓶のお砂糖入れてね」私はいつも微糖のコーヒーを頼む。コーヒーの匂いに憧れていたあの頃。一緒に無糖を頼んでいた。苦くて、苦くて、それでも飲んで。…続きを読む
最近ジェンダー論争が繰り広げられている。待ち合わせ場所に行く途中、ジェンダーについてどう思うかのアンケート調査に答えた。私が学生だからだろう、若い人間の意見を聞きたいらしい。フェミニストの大合唱、ソーシャルアクティビストの炎上、女性至上主義者の念仏。実に下らない。なんで今更。私は彼らに一種の侮蔑を感じている。結果的に男か女かに縛られてるのは彼らだろうに。男でも女でも、どっちであってもどっちでなくても、人それぞれで良いだろ。好意を寄せた人に告白した日のことを思い出す。彼女は複雑な顔をしていた。ー「私たち、仲の良い『友達』…続きを読む
昔は優秀だった。勉強だってそこそこ出来た。スポーツだって、万能とまでは言わないにしても人並み以上に出来た。実家の自室から緋色のゼラニウムが見える。一輪の憂鬱がこちらを見ている。「同族嫌悪ってやつ?」高校三年生の大学受験をする年、自死の二文字が頭をよぎった。「学費しか出さない」と常日頃父から浴びせられ続け、地元の大学しか受けさせてもらえないことになった。「私立大の給付型奨学金あれば国立大と同じだよ」そんなの聞いてもらえなかった。モチベーションが散った。なんとも無残な散り際であった。夏以降、希死念慮の応酬と受験戦争の布告に挟ま…続きを読む