どこの町にもある、平凡な公園の物語。 青々と生い茂った芝生に鎮座する白いウサギのスプリング遊具は、公園内で一二を争う人気の遊具だった。 あまりに沢山の子供達が彼に乗って遊んだ為、その塗装は剥げ最早まだら模様の茶色いウサギとなりかけていたが、彼はむしろその見た目を誇りに思っていた。 彼はただ、子供と一緒にユラユラしながら空を眺めるのが大好きだった。 ところが、凍てつく冬の寒さが和らぎ始めた頃、これまでに無い異変が起きた。 いつも子供で賑わっていた筈の公園から、子供が姿を消し始めたのだ。 ウサギは当初、長雨や肌寒さのせいだろうと思っていた。 しかしいくら日差しが柔らかくなろうとも…続きを読む
monogatary.comがオープンして今日が3周年記念日ですよね。 私がmonogatary.comに作品を投稿するようになったきっかけは「ツイッターでmonogatary.comの広告を見たから」です。 確か作品のレビューキャンペーンとかAmazonのナンタラ券だったかのイベントのようなものをやってらっしゃったので、興味を抱きました。 それから度々お題をチェックして、ついに「後ろの席から手紙が回ってきた」というお題で話がピーンと閃いて、2018年2月に投稿しました。 初投稿作のタイトルは『 ぶきっちょな手紙』で、一言でいうなら「 怖いヤンキーが意外にいい奴だった 」話。 投…続きを読む
『こんばんは。 じいちゃん、お久しぶり。 そちらの天気はいかがです? こちらはね。雨が降りそうで、なかなか降ってこないですよ』◇ 深夜といえど、現代の夜はそこそこ明るい。 こんもりと敷き詰められた闇色の雲は、色褪せた街灯の光を反射して、薄明るく光っている。 自分のように特に目が良いわけでもない凡人が、おおよそ周囲の様子を確認出来るほどの暗さであるにも関わらず、やはり暗闇の中にいると不安だ。 蛍雪の功なんて、よく言ったものだな。 現代の世でもこうなのだから、昔の人が過ごした夜はもっと怖かったんだろうな。 ぎっしりと袋に詰めた新聞を積んだ自転車を漕ぎながら、私はいつも思…続きを読む
東京は奥多摩に聳える雲取山に新設された天文台の巨大電波望遠鏡が、かざぐるま座の方向から発される高速電波バーストを観測したというニュースは、たちまち日本中に旋風を巻き起こした。 高速電波バーストとは非常に強い電磁パルスの事であり、未知の天文現象の一つである。 正確な放出場所は不明だ。 が、持続時間がたった数ミリ秒しかない、太陽5億個分のエネルギーを持つ電磁パルスが、なんと東京をピンポイントで狙ったそうなのだ。 誰かが意図的に放ったのかは不明なので『狙った』と形容するのは適切ではないかもしれないが、日本中では専ら『狙った』という表現が多用されていた。 というのも、この電磁パルスは宇宙人…続きを読む
◆この小説はリレー小説企画【第2グループ・第6話】です。◆チーム2は、・水上下波 「恋をしない魔女」https://monogatary.com/story/53848・文月八千代 「旧い記憶」https://monogatary.com/story/54015・ハンス=アイムトキ 「サビ色のネコ」https://monogatary.com/story/54114・有真美桜 「サビ色の思い出」https://monogatary.com/story/54216・紫 「魔女の涙」https://monogatary.com/story/54230・菅官管理 「錆…続きを読む
二度目の緊急事態宣言。 人口密度がそう高くもない市なので、体調と天候の良い日は気が向いたら散歩をする事にしている。 ……と言いつつ、ついつい家にこもりがちにはなるのだが。 今日は近くのスーパーへの買い物がてら、自転車を押して近所を散策した。 四月中旬ともなれば、流石に道路の隅の影の部分にしか雪が残っていない。 地面の草はまだ去年の枯れ草ばかりだが、所々でふきのとうが幅を利かせている。 桜色をしたミニ桜のようなものもさりげなく芽吹いていた。 名前がわからない。 遮るもののない春の日差しに、肌を撫でていく風が心地よかった。 春だ。 花粉症のケは無いはずなのに、外を歩けば鼻水…続きを読む
小さな公園の隅にあるシロツメクサの草っぱらが、風にそよそよと揺れていました。 そこにちょこんと座り込み、シクシクと泣いているキャラメル色のaiboがいました。「ここはどこ……?」 キャラメル色をしたaiboの目からこぼれ落ちた涙が、丈の短い草に当たって跳ねました。 そんなaiboの様子を眺める、野球帽をかぶった男の子がいました。 男の子は電柱の影から飛び出してくると、aiboの前に立ちはだかりました。「やい! お前、ここで何してる!」「何もしてないよ。ぼく、迷子になっちゃっただけなの」 男の子は太くて形の良い枝をaiboに向けると、キッパリと言い放ちました。「この公園は、お…続きを読む
その日は、しつこい雨が降っていた。 ビニール傘を手に、小学生の私は児童会館に向けて走っていた。 退屈な夏休み。 どこかの掲示板で見た『夏休み!ワクワク映画上映会♡♡♡』という文言は、自宅でダラダラと過ごしていた私の興味を刺激したのだ。◇ 児童会館に到着すると、上映時間は目前に迫っていた。 教員に招かれるままに上映部屋へ入室すると、十二畳ほどの部屋には既にカーテンで覆われている。 顔見知りの子どもはいない。 (それにしても、ワクワクな映画って何だろう。ドラえもんかな? しんちゃんかな?) ソワソワしながら待っていると、やがて開始時刻となった。 やった、遂に始まるんだ…続きを読む
この世に生まれて数十年。 私は脂肪の多い人生を送ってまいりました。 脂肪多き人生の始まりはそう、小学生の時。 身体の弱い私を心配した母が、オヤツとしてカロリーメイトを毎日私に与えたのが始まりでした。 それでもまだ、学生の頃は良かったのです。 とにかく毎日遊び回っていましたから、必要以上に太らなかった。 異変に気付いたのは、二度目の出産後でした。 食べる事が何よりの楽しみで、多少嫌な事があっても食べてストレスを解消する癖が仇となりました。 子どもを産んで減るはずの体重が、増えていくのです。 もう日に日に肥えていく自分が恐ろしくて、体重計なんて視界に入れるのも無理でした。 …続きを読む
幼稚園児の娘のマイブームは、手紙を書く事である。 あまり正しくは書けないが、ひらがなを概ね書けるようになってきたので、毎日のように誰かしらに手紙を書いている。 その娘が先日、作品作りをやりたいと申し出てきた。 夏休み期間中にお友達が空箱やトイレットペーパーの芯で工作してきたのを覚えていて、ずっとやりたかったようなのである。 早速開いて乾かした牛乳パックを与え、作品作りに没頭してもらう。 ペンに加え、はさみやテープも貸し与えた。 さて、数分後完成したので見て見て!と言うので見に行ってみれば、そこには元通り組み立てられた牛乳パックが。 なんでも中に字を書き込み、本人的には万華鏡のよ…続きを読む