君とはずっと今も昔も本当に仲のいい友達だった。だからこの関係を壊したくなくて、私も友達でい続けることを決めた。「なー、俺どうしたらいいと思う?」そんなこと私に聞かれても…。私はなんて答えていいのか分からない。正直に応援することなんてできないし、かと言って諦めろなんて言えない。「さあね」だから毎回曖昧な返事。わかってるよ、こんな中途半端な答えじゃ納得しないことぐらい。でも私にはこれが精一杯。「まじで亜美ちゃんが好きなのに、何話したらいいかわかんない」そう言ってうなだれる敦貴。いつもこうやって何でも打ち明けてくれて。だから私もそれに応えるようになんでも打ち明けてきた。敦…続きを読む
「にゃーん」朝ごはんを1人ぼーっと口に詰め込んでいると、窓の外から私を呼ぶ声が聞こえた。「はいはーい」私は玄関の扉を開けて、声の主に手を伸ばした。すると、彼女は甘えたように声を出す。「ごめん、ミルク、今月はもう食べ物ないんだよ」切なげに鳴く彼女に謝った。高校生の下宿で、生活費は、もう今月いっぱいいっぱいだ。「狩り、頑張って」でも無責任に餌を与えてしまった私が悪い。彼女は野生の世界で生き残るために私のところに来てくれるのだ。それを私が癒しに利用してるだけ。「にゃーん」すると彼女が私の手からするりと抜け出した。そして私を呼ぶようにこちらを向いて鳴く。私はなんだか着いて…続きを読む
眠っていた心の中に些細な些細な小さな傷。傷ついたことも自分で気づかないくらいに。いつの間に。貴方と出会ってからかな。その隙間から溢れてくるのは貴方の名、優しく強い目、指、髪、その全てに気付かされる。貴方を好きな気持ちに際限がないことを。出逢えたこと。それは奇跡かもしれないね。話をしたこと。それはあたしへのご褒美かも。次は触れたいといつからか願ってた。貴方の心に手を伸ばしながら。起こされた想いは止まらないから躓いても胸は風を切って横顔に恋をした。貴方の全てを愛した。あたしはとても切ない。この恋が叶わないと知っているから。貴方をとても愛しい。それはあたしのわがま…続きを読む
「藤田くん、今年の学年行事のことなんだけど…」学級委員の女子が藤田に声をかけている。可哀想。学級委員ってだけで色んな重荷を背負わされて、その上嫌な奴と話さなきゃいけなくて。「俺、そういうのパスだから。毎年、言ってるだろ?」藤田は冷たく言い放って教室を出ていこうとする。さすがにこれはない。あの子だってあんたに話しかけたくて声をかけてるわけじゃないのよ。「ちょっと、今の言い方ないんじゃない?」私は教室のドアに差し掛かった藤田の前に立ち、足止めをする。でも、さすがにあんなの可哀想だ。きっと先生に全員出るように呼びかけておけって言われてるはずだし。それをこいつはいとも簡単に断っ…続きを読む
ついさっき眠った貴方の口が開く。あたしはそれを眺めてクスリと笑った。隣ですやすやと寝息を立てる顔を見ていると幸せな気分になる。少し眺めていると彼の口元が笑みを作る。何か夢、見てるのかな。どんな夢見ているの?気になるな…。起きてから聞いてもきっと貴方は夢の内容なんて忘れているんだろうけど。出来れば、その夢の中にあたしが出てくればいいのに。覚えていなくても一瞬でもあたしを見て笑ってくれてるのなら嬉しい。眠っていて力なく垂れ下がっている彼の手を握る。その左手は少し汗をかいていた。少し蒸し暑いのに手を握りしめたまま寝ちゃうから。そういう癖も全部好きだけどね。そして彼と繋いだ…続きを読む
教えてくれてありがとう久しぶりに感じた感覚君の声、聞いてるだけで笑ってられる隣に居れるだけで幸せを感じられる君が起こしてくれた風私の頬を撫でていく振り向いてくれる時、嬉しいよすっごく心、温かくなるでも優しくされるだけ、近くにいるだけ離れていくのが怖いの明日になったら上手く話せなくなるんじゃないかって不安になるのでも、今日もちゃんと君が好きだよ…続きを読む
「おーい!」4月12日、朝から突然扉を叩く大きな音。「はーい」無気力に返事をして僕は扉を開けた。「お!今日、初めて扉を開けてくれる人と出会ったよ」扉の前に立つ脳天気な女性。なるほど、嫌な予感はこれか。「そりゃ、貴女の声が聞こえたら開けませんよ。普通はね」だって今日は日曜日。誰かに振り回されるのは懲り懲りだろう。「じゃあ、君も開けなきゃ良かったのに」「まあ僕は貴女が好きですから」さらっと言った僕に目の前の彼女は顔を顰めた。「そう言うから君を訪ねるのは1番最後にしたんだよね」「それはまあ、これまでの人が扉を開けなかったことに感謝ですね」何も悪びれずに文句だけ言うと彼女…続きを読む
貴方の夢は何色ですか?そう尋ねられたら、僕はどう答えるだろうか。夢に合わせて答えるとすれば、無難に虹色とか七色とか。でも、現実的に答えるならば灰色だ。絵を描くのが小さい頃から好きで、何となく画家になりたいと思った。小、中学の頃は周りより少しは上手い自信があったから画家になるという目標を甘く見ていた。でも、専門学校に通ってみれば周りには僕より上手い人なんか山のようにいて気づけば追いつくのに必死になっていた。今だって縋り付いて何とか足掻いている。週三日のクラブも美術部で、絵を描き続けて、残りの四日は個人的にコンテストに出す絵を描いている。友達からは呆れられるけど、それが僕の選んだ…続きを読む
カラン心地のいい鈴の音。僕は軽く手を上げて店員を呼んだ。「はーい」1人の女性がこちらに駆けてくる。毛先が少し丸まったショートカット。その髪の毛の柔らかさが女性らしさを演出する。「オリジナル、ひとつ」「はい」たったそれだけの会話。銀鈴の声音。それだけを楽しみに僕はここに通っている。なんだ、馬鹿馬鹿しい。たった一言、されど一言。僕と彼女の間には一言の繋がりしかない。でも、一言の繋がりはある。他人といえば他人だし、他人じゃないと言えば他人じゃない。と、彼女の中では僕との関わりはこんなものだろう。でも、僕の中には、深く君がいる。深く根付いて、離れない。「そんな…続きを読む
間違い探しの間違いの方に生まれてきたような気でいた。物心着いた時には母親がいなかった。生まれた時からそれが日常で、だから可笑しいなんて思ったことはなかった。親父も明るかったし、俺もその血を引いてるし性格は明るい方だと思う。でも、学校に行き始めれば他の人と違うことなんてすぐにわかる事だ。みんな、両親に囲まれて暮らしている。俺には、父親しかいない。軽いコンプレックス、軽い嫉妬心。まあでも卑屈にはならないように努めた。というか、親父と隣の部屋に住んでる爽兄が支えてくれたところが大きいと思う。爽兄というのは、俺が住んでるアパートの隣の部屋に1人で住んでいる高校生だ。詳しいことは触…続きを読む