ニシノナツハです。小説を書くことが実質呼吸代わりの妖怪貧困層。
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アイコン:ノーコピーライトガールさま
打ちっぱなしのコンクリートでできた壁に囲まれた地下室に、わたしは閉じ込められたまま、何度かの四季を越えた。 なぜそのことがわかるのかといえば、わたしをこの場所に閉じ込めた男は、外の世界の情報管制をせず、むしろそのことについてわたしと語り合うことを望んでくるのだ。だからいつも、すっかり日が高くなった頃にどこからか朝刊を持ってくるし、部屋にはラジオが置かれていて、好きに聴いていいとまで言われている。別に聴きたいわけでもないけれど、なにも音がなくなってしまうと気が狂ってしまいそうで、なんとなくいつもスイッチを入れっぱなしにしている。 また、そういった情報だけでなく、唯一わたしが外の世界をはっき…続きを読む
わたしは「女性はいい香りを漂わせていなければならない」という謎の固定概念のようなものを真っ向から否定する立場にいる。いくら香水をつけたところで、結局は人間がああだこうだといろいろこねくり回して作り出した、香りのする水を身体や服にこすりつけているだけなわけだし、同じことがシャンプーとか柔軟剤にもいえる。そりゃあいい香りになるよ、そうやって作ってるものを身体に振りかけてるんだから。だったら別にその匂いが好きなら、男だって同じ香水やシャンプーを使えばいいじゃん。でも使わないじゃん。まあ本当に好きな人だったら、別に汗のにおいだって気にしないもんねーとか言うのかもしれないけど。けど、だからってなんで女…続きを読む
昨日、僕は半年付き合った彼女と別れた。 たまたま大学で同じサークルになって、何の気なしに話すようになって、気づけば互いに横目でちらりと相手の様子を窺うようになり、そのタイミングが偶然互いに合致したことで、僕たちは急速にその距離を縮めることとなった。 同い年の彼女は、僕よりも頭のいい高校から進学してきただけあって、かしこくて、それでいて可愛らしい外見を持っていた。神様もたまたまその時気分がよかったのかどうかは知らないけど、とりあえず優れた頭脳を与えておいて、あっでもそれだけじゃバランス取れないし、えーいいっそのこと全部載せちまえ……と破れかぶれにでもなったのだろうか。僕からしてみれば、取…続きを読む
鉄は熱いうちに打て、なんていう言葉を考えた昔の人っていうのはすごいと思う。 まあ、確かに熱いうちでないと、容易に鉄でできたモノの形を変えることはできないのだろう。別に製鉄会社や鉄工所に勤めているわけではないから詳しいことはわからないまでも、そういうことなんだろうなあ、くらいの認識をしている。 恋愛? それも確かにそうだ。 いつまでも同じ気持ちの強さのまま、相手のことを好きでいられたのなら、そんなに幸せなことはないだろう。まさに、健やかなるときも病めるときも……という言葉が合う様子ではあるものの、現実はなかなかそうはいかない。ずっと一緒にいよう、と誓い合った結果が結婚なのだとすれば、…続きを読む
放課後、学校の昇降口で、上靴を外靴に履き替えていると、ふいに「菜緒(なお)」と名前を呼ばれた。声のする方を向いてみると、雄一(ゆういち)がいつものように、口元を笑顔にして立っている。肩には真っ赤なスポーツバッグを提げているけど、あたしはその中身が部活の道具やユニフォームでないことを知っている。単に普通の鞄だと教科書やら参考書が重すぎて持っていられないから、少しでも丈夫で負担にならない鞄を選んだらこれになっただけだ……と話していたことがある。 雄一は言った。「菜緒、これから帰るの」「うん。雄一は?」「職員室に呼ばれてるんだ。なんでかは知らんけどさ。まいったね」 そうは言いながら…続きを読む
「アリスとは、もう会えない」 夕暮れに染まる公園で、神居紀彦-かむいのりひこ-がそれを告げたとき、アリスは、ほんの少しだけ口元に笑みを浮かべながら「そっか……」とぎこちなく微笑んだ。これなら思いっきり泣かれるか、横っ面を張られて去られた方がどれだけよかっただろうか。それもこれも、アリスがその辺にたくさんいそうで実はほぼいない、心の優しい女の子だったからに他ならない。 終わりは唐突にやってきた。紀彦とアリスが、インターネット上のいわゆるマッチングサイトで出会ってから、既に三ヶ月近くが過ぎようとしていた。 紀彦にとって、もともとは、人生を泳ぐのに必要なものはすべて持っているはずな…続きを読む
北海道札幌市手稲区明日風7丁目77番地。 どうだラッキーセブンで縁起のいい場所だろ、と父親は胸を張って、気の遠くなるような長いローンを組んで建てた新しい家を眺めていた。わたしはと言えば、校区が変わり、小学校で仲良しだった子たちと中学校で一緒になることができなくて、いまさら新しく友達ができるかどうか気が気じゃなかっただけに、大人ってなんて勝手なんだろうか……という気持ちにしかならなかった。だから、新しい家を背景に撮った家族写真の中で、今もわたしだけが目線を斜め下に向けたまま写っている。 手稲区は、札幌の中でも北西にある区で、明日風はその中でもどちらかと言えば札幌の隣町・小樽に近い場所に…続きを読む
「だからさ、よく考えてごらんなさいよ」 時は放課後。場はいつもの教室。机ひとつを隔てて、僕と同じように椅子に腰かける遠田咲良-えんださくら-は、手を「やれやれ」の形に変えながら、高名な大学教授のような口調で言う。それはまあいいのだが、咲良のスカート丈だといろいろとアレがソレなので、せめて足を組むのをやめてほしい。ただ、口は挟まないでおいた。「吹奏楽部に入る子が生まれながらにしてトロンボーンを吹けるでしょうか。そうじゃありませんよね」「そうだな」「野球部に入る子がいきなりカクンと落ちるフォークボールを投げられる?」「無理だろうな」「だからさ」 ようやく組んでいた足を崩した咲良…続きを読む