はぁーっ。今日はほんとに最悪だった。家までの帰り道。遡る様に記憶を辿る。勤務終了間近に仕事を頼んでくる部長。おかげでこんな時間になってしまった。それなのに自分はさっさと定時で退社。ほんとにやってらんないよ。狸親父め。夕方には取引先からのクレーム対応で。私じゃなくかわい子ぶりっ子の後輩の。女性担当者だと途端に態度が雑になる。ほんとアンタは会社に何しに来てんの。昼は会社近くのイタリアンが臨時休業。何日も前から楽しみだった限定ランチ。月曜の憂鬱を待ち遠しさに変える魔法。ねぇ頼むから休むなら他の日にしてよ。朝は満員電車でしゃべり続ける高校生。駅に止まる度合流して声…続きを読む
「もう、ほっといてよ」ヒステリックに叫んでリビングのドアを叩きつける様にして出ていく。どうしてこうなってしまうのか......いつからこんな風になってしまったのだろう。少し歳の離れた上の息子たちに言わせれば私は有紗に構いすぎらしい。いわゆる子離れが出来ていないんだそうだ。そんなつもりはない、と言いたいところだけど、まぁ、多少の自覚はある。待望の娘、そんな風にいうと息子たちに怒られてしまうかもしれないけれど、でも私は娘が欲しかった。だから生まれてきた子が娘だとわかって、どれ程嬉しかったことか。私は四国の片田舎で八人兄妹の末っ子として生まれた。上、七人は全て兄、つまりは男だった。…続きを読む
「もう、ほっといてよ」ヒステリックに叫んでリビングのドアを叩きつける様にして出ていく。どうしてこうなってしまうのか......いつからこんな風になってしまったのだろう。少し歳の離れた上の息子たちに言わせれば私は有紗に構いすぎらしい。いわゆる子離れが出来ていないんだそうだ。そんなつもりはない、と言いたいところだけど、まぁ、多少の自覚はある。待望の娘、そんな風にいうと息子たちに怒られてしまうかもしれないけれど、でも私は娘が欲しかった。だから生まれてきた子が娘だとわかって、どれ程嬉しかったことか。私は四国の片田舎で八人兄妹の末っ子として生まれた。上、七人は全て兄、つまりは男だった。一…続きを読む
「うわあああああ」「なんやどうしたんや。おちおち寝てられへんがな」眠そうに目を擦りながらレム介が現れる。「今そもそも寝る時間じゃないけどね。どうしたのレム夫?叫んだりして」相変わらずレム介に厳しいレム美だったが迷惑さを隠そうともせず僕に聞いてくる。「ははっ、レム夫っ今日も元気がいいねっ!よーし負けずに声出すぞーっ」「あんたは黙ってて!」「自分は黙っとかんかい!」「ははっ、うわああああああああああああああああああああああああああー。どーだーいっ」二人を無視して大声を出すレム太。「うるさいわよ!」「うるさいねん!」「ははっ、喜んでもらえて嬉しいぞっ」…続きを読む
近所の公園、どんよりとした空の下向かい合って、でも目は合わせずに座り続ける二人。嫌な予感しかないけれど、でも何も出来ない自分をもどかしく感じる。あの時の……これは夢。そう気付きながらも止める事が出来ない。俯いて座る私の頭の上に、十五の春からずっと聞き続けてきた優しい声が、私の心を突き刺す冷たい雨となって降り注ぐ。「別れよう」彼は就職、私は大学と別々の道を歩き始めて一年、お互いの気持ちがすれ違い始めているのには気付いていた。それでも、それはきっと一時的なもので、時間が経てば何とかなると思っていた。でも、そう思っていたのは私だけだったみたい。彼に言われた言葉が受け入れられなくて、彼…続きを読む
はぁ!?やっと見つけたぁ?今更何言ってんの?アンタとアタシ、もう何回も何千回もすれ違ってんだけど。なんなら目だって合ってたよ何回か、いや何十回も。アンタはすぐにそらしてたけど。それが何さ、ちょっとメガネかけたくらいで。目の色変えちゃってさ。何々?どうしても君に届けたい歌があるんだぁ?どうせアレだろアレ。ずっと探してたってやつ。嘘じゃん。全然見つけられて無いじゃん。スルーしまくりじゃん。えっ!?ここで!?ここで歌うの?だいぶイッちまってるなぁ。そんなにメガネが好きか?他にもメガネの女はいくらでもいるだろっ!!待て、待て。聞いて下さい、じゃねぇよ、お前が聞けよ。あ~あ~…続きを読む
優しい"微"風が吹くこの街で僕は"微"温湯に浸かって生きてきた人生なんて"微"酔い気分で楽勝だいつまでも目覚めぬ"微"睡みの中君の悲しい顔を"微"笑みだと勘違いして自らの過ちに"微"塵も気づかない許されていることに気づけないまま糺すこともなおざりにしていればやがて愛は喪われ人は皆離れていく当たり前の様に"微"かな光は消える永遠に見えた楽園は地の底に堕ちて剥き出しの現実が容赦なく訪れる強い向かい風が腐った僕の頬を打ち浴びせかけられる熱い湯のような罵り目まぐるしく変わる常識に酔いは回る何かに追われ目覚めるどころか睡れないもはや僕には嘲笑う価値すら残されず誰…続きを読む
キャンピングカーに乗ってあなたと二人どこへ行こうあなたの好きな歌を流してそうだいつものあの突堤へ釣竿ひとつ持ち出したなら終日のたりと糸を垂らそう潮目なんか読まなくていいあなたの血潮感じられたらもしも魚を釣り上げたならすぐに捌いて二人で食べる味付けなんかは少しでいいあなたと一緒に食べるならもしも全く釣れなくたってそれを肴にビールを飲もうつまみなんかは無くていいあなたを見つめて胸は一杯夜になったら空を見上げて星の神話に思いを馳せよう会話なんかはしなくていいあなたの鼓動聴こえたなら目覚めた朝に霧が出てたら霧が晴れるまでまた眠ろう予定なんかは忘れて…続きを読む
「嫌よ、離れないわ」あなたが遠くへ行ってしまう。どうすれば離れずにすむのか、そればかり考えていた。けれど何も思いつかなかった。ニューヨーク。あなたの夢。世界で活躍するダンサーになること。今までずっと応援してきた。でも......心のどこかでもっとずっと先、いや、きっとそんな日なんて来ないと思っていた。酷い私。だからあなたの夢が叶うと知った時、正直喜びよりも戸惑いが大きかった。もちろん、嬉しいし凄いことだとはわかっているのだけれど......それでも......私の側にいて頑張っているあなた、努力は報われないけれど、それでもあなたが、いいえ、あなたと私が、二人で乗り越え、例え…続きを読む
外の世界との境界線が曖昧な中スポットライトがあたったようななんの変哲もないベンチに一人今ここだけは誰のものでもない僕が自由に息を出来る場所静寂に包まれてただ時を過ごすこれが僕の幸せなのか?問いかけても答えるものはなくそうか自分で選んだんだよなひとりごちて鼻で嗤う見渡せるほどの広さすら隅々まで照らし晒すこと出来ないそれほど強くない電灯の光それですら星は見えなくなるあまりに儚いこの世界あの電灯が僕なのか?それとも見えない星の光か?どちらにしても頼りないきっと誰にも届かない僕は一体何を求めていた?ただ一人であること?…続きを読む